製造業のDXの事例 ミシュラン タイヤの販売から成果の販売へ/ 宗平 順己

 ミシュランは、世界で3大タイヤメーカーの1つですが、革新的な考え方で運営してきた歴史があります。最初のラジアルタイヤなどの発明や、人々の運転を奨励するミシュランガイドの発行などです。

 

2000年、ミシュランは、ミシュランフリートソリューション(MFS)というものを立ち上げ、タイヤの製造業者からサービスプロバイダーへとそのミッションを拡大しようとしました。

大型車の顧客がタイヤの初期費用と損傷の場合の交換に関連するすべてのリスクを負担する従来のモデルの代わりに、MFSはわずかな月額料金でこのリスクを消費者と共有しようとしました。

しかししながら、この試みは2つの点で失敗しました。

対顧客:新サービスの価値(タイヤのメンテナンスが長持ちする)をうまく伝えれなかった。

対内部:営業はMFSを販売することで、新しいタイヤの販売量が減り、評価が下がるので販売を嫌がった。

 

IoTに限らず、世の中にない新しいサービスを提供しようとする際に発生する「典型的な」問題に直面したのです。

 

しかしながら、2013年には、商用車、特にトラック向けのサービスを設計、開発、販売するために、ミシュランソリューションという別の部門を設立しました。 IoTを活用することで、EFFIFUELを立ち上げました。これは、車内のセンサーを使用して、燃料消費量、タイヤの空気圧、温度、速度、場所などのデータを収集するエコシステムです。 次に、このデータはクラウドソリューションで処理され、ミシュランの専門家によって分析されます。ミシュランの専門家は、エコドライブ技術の推奨事項とトレーニングを提供します。

すなわち、エコドライブ技術のトレーニング、に最適化されたタイヤ管理システムを含む包括的なエコシステムです。

 

同じ間違いを繰り返さない様にEFFIFUELでは、次のようにわかりやすいメリットを顧客にメッセージとして伝えました。

EFFIFUELは、トラック運転手にリスクのない燃料効率サービスを提供し、事前に定義された節約目標が達成されない場合に返金することにより、「満足または返金保証」を提供します。

EFFIFUELを提供した結果、同社は顧客の大幅な節約を実現しました。100kmあたり2.5リットルの燃料消費量の削減は、120,000 kmを超える長距離輸送で年間3,200ユーロの節約に相当します(少なくとも2.1%の削減)。

 

ミシュランはMFSの失敗からその教訓を学び、成功要因は、文化の変化に重点を置き、懐疑的な従業員に新しいビジネスモデルの利点について説得し、製品としてのタイヤを販売する会社から、パフォーマンスを保証するサービスへと移行し、顧客満足度、忠誠心、維持率を高め、利益を上げたのです。

 

今回、ミシュランの事例を紹介したのは、典型的な失敗事例と成功事例の両方を包含しているからです。DXでは、自社の効率化だけ考えていても自己満足に終わってしまいます。前回のKOMATSUの例でも説明したように、顧客のメリットをまずは明確にすること、そしてそのメリットを妥当なコストで実現するために、あたらしいデジタル技術を活用することと、あわせて従業員にしっかりとしたトレーニングをすることが必要となります。

 

 

出典:https://digital.hbs.edu/platform-rctom/submission/michelin-tires-as-a-service/

 


■執筆者プロフィール

宗平 順己(むねひら としみ)

 武庫川女子大学経営学部教授

 ITコーディネータ京都 副理事長

 Kyotoビジネスデザインラボ 代表社員

 資格:ITコーディネータ、公認システム監査人

 URL:https://www.kyoto-bdl.com/

 専門分野

 ・デジタルトランスフォーメーション

 ・サービスデザイン(UX)

 ・クラウド

 ・BSC(Balanced Scorecard)

 ・IT投資マネジメント

 ・ビジネスモデリング

 ・エンタープライズ・アーキテクチャ などなど