新型コロナ禍の中,大変な思いをされている方も多いと思います.
現在,新型コロナウイルスは「指定感染症」として指定されています.指定感染症は1年間の期限(最大2年)がありますが,1年間延長され2022年1月31日までとなりました.私も客先には昨年の2月の段階で「長期戦」を覚悟するようにと助言して,リモートワーク環境の早期構築や連絡体制の整備を勧めました.
執筆時点(2021年3月28日)で緊急事態宣言は解除されていますが,大阪とかではじりじりと感染者数は増えているようです.恐らくは次の波が来るのも時間の問題のように思います.
今回は感染症とITに何ができるかについて少し考えてみます.
■アウトブレイク(映画)
1995年の米国映画です.ダスティン・ホフマン,モーガン・フリーマンとビッグ・ネームが並びます.
オープニングで「人類の優位を脅かす最大の敵はウイルスである(ノーベル賞受賞者 J・レダバーグ)」とタイトル・シーケンスが表示されます.最初のシーンは1967年,ザイールの内戦に参加していた傭兵部隊に謎の感染症(出血熱)が発生し,そのあまりの酷さに米陸軍のヘリが傭兵部隊のキャンプごと焼き払うところから始まります.
時は流れ現在(1995年),同じくザイールで出血熱が発生します.全滅した村で生き残った,洞窟で暮らしているウイッチドクター(呪い師)は「人間がむやみに木を切り倒すので神が目を覚ました.神は怒って天罰を下した」と信じています.
現地に派遣されて,その惨状を見た軍医のサム・ダニエルズ大佐(ダスティン・ホフマン)は,その危険性を上層部に報告しますが,米国内で広がる確率は低いと却下されます.
別枠でアフリカからサルが密輸されます.そのサルから同じウイルスが米国内に持込まれ感染が広がり始めます.そのウイルスには空気感染を行うタイプも見つかります.サム・ダニエルズ大佐は上司ビリー・フォード准将(モーガン・フリーマン)の「マスクなしで病院に行ってみるかい ?」と聞きますが…
似たようなオープニングの映画にマイケル・クライトン原作の「アンドロメダ…」があります.
こちらはニューメキシコの田舎町に人工衛星が落下し,その町が全滅するところから始まります.生き残ったのは赤ん坊と酔っ払いの老人で…この病原体なら私は生き残れそうです.
■ホット・ゾーン(書籍)
エボラ出血熱との戦いを描いたノンフィクションにホット・ゾーンという本があります.日本では1994年に発売されています.
私も読んでいますが,この本の表紙に使われているエボラウイルスとこの映画のウイルスの写真はそっくりです.この映画のプロデューサーは,最初このホット・ゾーンを映画化しようとしていた(後にナショナルジオグラフィックがTVシリーズ化)らしいのですが断念し,オリジナル脚本でこの映画を作成したらしいです.ですからこの映画の成立の背景には「ホット・ゾーン」という本があることは間違いありません.しかしこの本の描写によると,エボラ出血熱の症状は映画よりはるかに激烈です.
この「ホット・ゾーン」は,防護服等の感染防護が必要になる汚染された領域のことです.今回の新型コロナウイルスでもゾーニングが問題になりました.特に初期におけるクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でのゾーニングや隔離には問題があったようです.こういった感染症の場合,陽性者と濃厚接触者は速やかに隔離される必要があります.
■パンデミック
2020年3月11日にWHOは,新型コロナ(COVID-19)のパンデミック宣言を出しました.
感染症の拡大は,アウトブレイク(発生)→エピデミック(地域的な広がり)→パンデミック(世界的な広がり)となります.
映画にも出てきますが,エボラ出血熱のような非常に強い毒性を持つ感染症は,ほとんどの罹患者が死亡してしまいます.宿主(罹患者)が死亡してしまえば,ウイルスも死んでしまいます.また症状が激烈であれば動けなくなるので接触者は少なくなります.そのため非常に強い毒性を持つ感染症は,パンデミックになることはなかなかありません.
国立感染症研究所のHPによれば,1918年のスペイン風邪のパンデミックでは,WHOの推計によると世界人口の25~30%が罹患し4,000万人(映画内では2,400万人と言っています)が亡くなった(致死率2.5%以上)そうです.今回の新型コロナウイルスの致死率はまだ分かりませんが,これまでの発表から予想すると,大体1918年のスペイン風邪と同じくらい(執筆時点で2%,超過死亡概念で4%くらい)になりそうです.このような中途半端な毒性を持つウイルスの方が,広がりやすいようです.
2002年のSARSや2012年のMERSもコロナウイルスによるものです.しかし通常の流感の35%位もコロナウイルスによるものだそうです.
しかし,例外があります.
「「銃・病原菌・鉄」(書籍)によると,南米大陸のアステカ文明やマヤ文明,北米大陸のネイティブ・アメリカン諸族が欧米からの侵略にやすやすと負けてしまったのは「はしか(麻疹)」や「インフルエンザ」が流行して大幅に人口が減少(一説によると95%減少)してしまったことが原因だそうです.
コロナウイルスによる流感のように,ある程度日常的に触れている(細菌暴露と言います)もの,特に小児期に暴露されたものは免疫系の強化に役立つらしいです.しかし,アメリカ大陸に麻疹やインフルエンザのウイルスが持ち込まれたときには,原住民には全く免疫がなかったのだろうと思います.
■腸チフスのメアリー
今回の新型コロナの場合は,無症状者で感染を引き起す例があるそうです.随分昔に読んだ本に似た話があったのを思い出して本棚から探してきました.「アシモフの雑学コレクション」という本でした.
この本によるとニューヨークで住み込みの料理人として働いていたメアリー・マローン(本の中では「メリー・マロン)は発症しない腸チフスの保菌者(健康保菌者)でした.少なくとも7回の感染を引き起こしたと言われています.
本人はとても善良な方だったらしいですが,最終的には隔離生活になってしまったそうです.この時期に同じような健康保菌者は,他にもいただろうと思います.新型コロナの場合も感染経路不明の人が多く,おそらく相当数の健康保菌者がいるのだろうと思います.
■新型コロナウイルスは撲滅できるか ?
多くの病原菌は新しい種類のホスト(宿主)では毒性が強くなります.「ホット・ゾーン」でば,エボラウイルスもコウモリからヒトへ感染したことが暗示されています.新型コロナウイルスも感染源はまだ分かりませんが,良く似たウイルスが中国のコウモリに見つかっているそうです.
生物は多くの細菌やウイルスと共存(常在菌)しています.例えばヒトなら,平素無害菌と呼ばれる特に問題を引き起こさない菌や,腸内フローラと言われる腸内に生息していて消化吸収を助けるだけでなく健康維持にも役立つ菌もいます.普段は悪さをしない菌でも,AIDS等で免疫力が落ちると感染症を引き起こします.
それらのコウモリにとって,エボラ出血熱や新型コロナのウイルスは感染しても重篤な症状は出ない平素無害菌のようなものだと思います.コウモリにおいて無害なウイルスが,ヒトに感染することで毒性が強くなった(ヒトに対する毒性があった ?)と思います.
病原菌は変異します.特にRNAウイルスは変異しやすく,それによって感染力や毒性が変わります.日本においても最初は武漢型が流行して一旦収束したあと,おり感染力が強い欧州型が流行しているのではないかと思います.さらにより感染力が強いと思われる,英国株やブラジル株等の新しい変異株も見つかっています.
天然痘ウイルスは1980年にWHOから撲滅宣言が出されました.
これは人類が初めて撲滅に施行した感染症です.天然痘ウイルスはDNAウイルスです.DNAウイルスは変異が少ない(DNAは自己修復機能を持ちます)のが特徴です.逆に言えば,天然痘はDNAウイルスで変異が少ないので撲滅に成功したと言えます.そのことから考えてもRNAウイルスであるコロナウイルスの撲滅は難しいと思います.
しかし病原菌の毒性は徐々に弱まります.宿主側に免疫ができることもありますが,病原菌自体の毒性も弱くなる(宿主が死んでしまえば病原菌も死んでしまいます)傾向があります.
スペイン風邪を引き起こしたインフルエンザウイルスはH1N1亜型だそうですが,このH1N1インフルエンザウイルスは,今では普通に存在します.毎年流行するインフルエンザのほぼ半数がこの型らしいです.
また長くなっているので,今回は複数回に分けようと思います(ポイントも稼ぎやすいし… :-p).
ここまでは感染症や新型コロナウイルス自体のお話でした.次回は感染症に対する人類や日本の対応策について少し考えてみたいと思います.
■執筆者プロフィール
上原 守
ITC,CISA,CISM,ISMS審査員補,情報処理安全確保支援士
IPA プロジェクトマネージャ,システム監査技術者 他
エンドユーザ,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています.
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