経産省の「DXグランプリ2020」に選ばれた小松製作所の取り組みについて紹介します。
2014年にIoTへの取り組みが世界中で大きく取り上げられた時、先進事例として既に存在していたのがKOMATSUのKOMTRAXです。KOMTRAXは建設機械にマイコンと、センサーとGPS、そして通信ボードを取り付けて、KOMATSU建設のセンターで機械のモニタリングや位置情報の収集、エンジンを止めるなどの遠隔制御を可能にするものです。仕組みとしては一般のIoTと同じであるが、建設機械から得られるデータの使い方に、先進事例といわれるゆえんがあります。
一般的なIoTの使い方としてはセンサーデータを収集して故障予知をしたり、故障が発生した場合に必要となる部品を推測して現場に駆け付け修理時間を短縮するといった使い方であるが、KOMTRAXの価値提案は、顧客がKOMATUを選択する理由を明確にすることに主眼が置かれています。
すなわち、顧客にとっての価値を明らかにすることです。
KOMTRAXのアピールポイントの第一は、夜中に建設機械が時速40km以上で移動したなら、盗まれたものと判断しセンターから遠隔制御でエンジンがかからなくすることでした。このことによって、KOMATSUの建設機械の盗難率が下がるだけでなく、保険費用も下がるのです。また、建設機械は初期費用よりもメンテナンスや燃料代などの運用コストのほうが数倍~10倍程度高いのですが、KOMTRAXは建設機械の運用状況のデータをもとに、燃費向上の方策のアドバイスなどをして、運用費用の削減にも貢献します。加えて、先に示した予防保守の対応により、KOMATSUの建設機械は壊れにくく、中古価格も高くなるなど、導入-維持-売却までのトータルコスが他社よりも安くなるのです。
このようにKOMTRAXは徹底した顧客起点でサービスのしくみ、利点を明らかにしており、自社の効率化を目標とした一般的なIoTの取り組みとは一線を画しているわけです。
このKOMTRAXの提供を通じて、KOMTASUは真の顧客のニーズは、壊れにくい建設機械、コストが安い建設機械を買うことではなく、土木工事を予定通りの期日、コスト、品質で完成させることにあることに気づきました。
そこで2015年から新たにスタートしたのがオールデジタルによるSMART CONSTRUCTIONです。ドローンによる現況3次元測量、3次元土木設計データと現況データの差分からの施工計画と建設機器手配、3次元設計データを元にしたICT建機による施工、デジタルデータを使った、検査、ドキュメント作成などのトータルな土木工事支援の仕組みを提供しています。
建設機械の機能や性能をアピールするメーカと、土木工事の予定通りの完成をアピールするKOMATSU、顧客がどちらを選択するのかは一目瞭然でしょう。
2015年2月にサービスを開始し、4年間で適用事例は7000を超えその中でTest & Learnのプロセスを繰り返し、今も進化を続けている。そのため、一社で囲い込むのではなく、この仕組をオープンプラットフォームとし、様々なパートナーとともに新たな価値創造を続けています。
KOMTRAXにとどまらずSMART CONSTRUCTIONのレベル=他にはない新たな顧客価値提案ができているからこそ、グランプリに選定されたわけです。
■執筆者プロフィール
宗平 順己(むねひら としみ)
武庫川女子大学経営学部教授
ITコーディネータ京都 副理事長
Kyotoビジネスデザインラボ 代表社員
資格:ITコーディネータ、公認システム監査人
URL:https://www.kyoto-bdl.com/
専門分野
・デジタルトランスフォーメーション
・サービスデザイン(UX)
・クラウド
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・エンタープライズ・アーキテクチャ などなど
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