デジタルとITの違いを正しく理解する/ 宗平 順己

 2020年の年末、12月28日に「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』」が経済産業省より公表されました。

 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html

 

 このレポートから要点を抜粋して、以下に記載します。各パートの文末に簡単な解説を()書きで付記します。

 

1. DXの誤った理解と取り組みの大幅な遅れ

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が 2020 年 10 月時点での企業約 500 社における DX 推進への取組状況を分析した結果、実に全体の9割以上の企業が DX にまったく取り組めていない(DX 未着手企業)レベルか、散発的な実施に留まっている(DX 途上企業)状況であることが明らかになった。(中略)我が国企業全体における DX への取組は全く不十分なレベルにあると認識せざるを得ない。

このことは、先般のDX レポートによるメッセージは正しく伝わっておらず、「DX=レガシーシステム刷新」、あるいは、現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上の DX は不要である、等の本質ではない解釈が是となっていたとも言える。

(過去の成功体験に固執し変化をしたくない日本の多くの企業に見られる体質がここに明確に現れています。変革をしない理由を見つけるのはみな上手ですから)

 

2. 経営者の責任 

DX の本質とは、単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化に迅速に適応する能力を身につけること、そしてその中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することにあると考えられる。

当然ながらこうした変革は誰かに任せて達成できるものではなく、経営トップが自ら変革を主導することが必要である。

(経営者はデジタル化の進展によって急速に企業環境が変化していることが認識するだけでなく、自ら率先して変革をリードしないといけない。)

 

3. もう以前には戻らない

コロナ禍によって、テレワーク等をはじめとしたデジタル技術による社会活動の変化に対応し、新たな価値を次々と産み出している。これは、単なるコロナ環境下での一過性の現象ではなく、人々の固定観念が大きく変化したことを表しているのである。人々は新たな価値の重要性に気付き、コロナ禍において新しいサービスを大いに利用し、順応している。(中略)人々の固定観念が変化した今こそ企業文化を変革する絶好の機会である。ビジネスにおける価値創出の中心は急速にデジタル空間へ移行しており、今すぐ企業文化を刷新しビジネスを変革できない企業は、デジタル競争の敗者としての道を歩むことになるであろう。

(デジタルを前提としてこれからのビジネスを考えていかないといけない。そしてこれは現在のビジネスの延長線上にはありません。デジタルがIT導入と異なるのはまさにこの点です。カイゼンではデジタル競争に勝てません。)

 

4. 「両利きの経営」が必要~デジタル一辺倒ではない

「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値の創出」と、「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」という二つのアプローチを同時並行に進めることが重要である。いわゆる「両利きの経営」と言われるように、既存事業の効率化と新事業の創出は両輪で検討すべきである。既存事業の見直しにより産まれた投資余力を新事業の創出にあてることで、企業の競争力と経営体力を高めることが出来る。

(DXによる新たなビジネスが育つには時間を要します。一方で現行ビジネスの競争力の維持も必要です。これまでのIT化は「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」を実施してきました。デジタルは「新たな価値の創出」を行います。IT化とデジタルは両輪としてとらえる必要があります。

 

5. DXへの取り組みの3つの段階

企業が DX の具体的なアクションを組織の成熟度ごとに設計できるように、DXをデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという 3 つの異なる段階に分解する。ここでは、デジタイゼーションは、アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化である。デジタライゼーションは個別業務・プロセスのデジタル化であり、さらに、デジタルトランスフォーメーションは全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである。 

(デジタルトランスフォーメーションに到達するためには、デジタイゼーション、デジタライゼーションの2つの段階を経る必要があります。これがこれまでのIT化の取り組みのことを指します。本格的なDXに取り組むには、IT化もある程度進んでいなければなりません。社内システムの整備も十分にできていないところは、DXによる新ビジネスへのチャレンジをしても必ず失敗します。ただ、IT化の完了を待っていては、デジタル競争に取り残されて企業は衰退します。クラウドサービスをうまく活用して早急IT化を進めることが必要であることを多くの経営者は認識すべきです。)


■執筆者プロフィール

宗平 順己(むねひら としみ)

 武庫川女子大学経営学部教授

 ITコーディネータ京都 副理事長

 Kyotoビジネスデザインラボ 代表社員

 資格:ITコーディネータ、公認システム監査人

 URL:https://www.kyoto-bdl.com/

 専門分野

 ・デジタルトランスフォーメーション

 ・サービスデザイン(UX)

 ・クラウド

 ・BSC(Balanced Scorecard)

 ・IT投資マネジメント

 ・ビジネスモデリング

 ・エンタープライズ・アーキテクチャ などなど