コロナ禍の中、ネットの中でのビジネスが急速に進んでいます。静止画から動画へ、そして360°映像、3D映像へと、よりリアルな刺激的な感動的なものへとUI(ユーザインタフェース)が変化しています。そのような中で、最近XRと言う言葉を聞くようになってきました。XRとはAR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)といった概念の総称で、期待をもってこれらの変化を考えてみたいと思います。
■AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)とは
AR(Augmented
Reality:拡張現実)は現実世界を軸にしつつ、現実世界を拡張するものです。例えばスマートフォンやタブレット端末のカメラを通じてチラシやカタログ、商品パッケージなどの「現実」を見ると、そこに商品情報やキャラクターなどの「拡張情報」が画面上に浮かび上がり、「現実」とそれらの「拡張情報」が一緒に表示されます。このAR技術はスマートフォン向け位置情報ゲームアプリ「ポケモンGO」で一躍有名になったように情報が「飛び出す」というエンターテイメント性を持たせることが可能です。
一方のVR(Virtual
Reality:仮想現実)は人工的に実質的現実感を再現することを目的にした技術で、手段としてヘッドマウントディスプレイを使ってCG(コンピュータグラフィックス)や実写などで作成された3次元動画などを見るものです。過日、仁和寺VR「観音堂の世界」を体験しましたが、没入感と臨場感はビデオ映像とは圧倒的な違いがあることが分かります。一般的にVRは以下の三要素を兼ね備えるものが理想的とされています。
1)3次元の空間性:3次元立体視と3次元音場の双方を知覚できる
2)実時間の相互作用性:リアルタイムに物体を触ったり動かしたりできる
3)自己投射型:その環境に自身の身体が存在している感覚がある
最後のMR(Mixed Reality:複合現実)は現実世界と仮想世界をより密接に結びつけることで、区別が分からなくなるくらいで、ARよりもリッチなコンテンツを提供できる技術となる。学術的にはToronto大学のPaul Milgramによる定義では、MRがVRやARを包括する広い概念と位置づけています。VRもARも目指すはMRにあるようです。
■MR技術のHOROLENS2を体感
大阪市、ソフトバンク株式会社およびAIDOR共同体が運営する「5G×LAB OSAKA」
が、本年10月1日にソフト産業プラザTEQSに開設され、5Gを活用する製品・
サービスの開発を支援するためのオープンラボとして様々な実証実験が始まり
ました。その中にMR体験ができる「HoloLens2」のコーナーがあるということで
先日見学しました。
MicrosoftのMR対応の眼鏡のようなウェアラブルコンピュータを自らの眼鏡
をかけたままでも装着でき、現実の景色を見ながら眼の前に3Dホログラム(3次元の立体映像データ)を投影するもので、自然な感覚でホログラムを触ったり、つかんだり、動かしたりすると、実物のように反応します。人差し指をマウスのポインターのようにしながらホログラムを親指と共につかむことができます。さらにPDFの資料などを眼の前に表示することも簡単にできました。本当に不思議な狐につつまれたような感覚です。また、音声コマンドの使用も可能で、装着感は軽くて長時間の使用に耐えうることが分かりました。そしてそれらの動きはモニターにも表示されるため、複数の人でも異なる場所(遠隔)でも、同時に共通の3Dホログラムを直感的に見ながら議論や検討することが可能です。
一方、これらを実現するために大容量の3Dデータを扱うために超高速かつ低遅延の5G技術が必須であり、2025年の大阪・関西万博に向けて一層の技術的検証が進むものと思われます。

(画像出典:Microsoft HoloLens 2ウェブサイト)
■DXにおけるXR技術への期待
ここで言う3Dホログラムとは、一般的に言うホログラフィ技術とは少し異なるようです。一般的なホログラフィは物体を光の干渉を利用して立体的に記録し、そのデータ(ホログラム)を特殊なディスプレイに投影することで立体映像を浮かび上がらせる技術のことを指します。そして、この場合、ホログラムを見るために特殊なデバイスなどは不要であり、肉眼で立体映像を見ることができます。
しかし、このデモの3Dホログラムは、“特殊なデバイス”を利用して、点群データや3D-CADデータそして高解像度の画像データなどから変換して作り出されたものです。データ変換ソフトウェアも揃ってきており、ビジネスユースに大いに利用できるものと期待できます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を意識した時、既存業務プロセスや
既存/新規ビジネスモデルのデジタルシフトにこれらXR技術が大いに活用できると考えられます。
例えばこれらを応用して、製造現場での作業支援で部品の組み立てコストの削減や医療現場での執刀医の手術プロセスを改善そして教育・トレーニングにも大いに活用され、交渉術・スピーチ・機械の修理・ダンス・スポーツ・楽器の演奏・店舗従業員の訓練等のスキル向上にも3Dホログラムを見ながら練習が可能になります。
さらに、自動車ショールームでのXR試乗や住宅ショールームで建物の導線や最終仕上げの体感、銀行窓口のバーチャル化、アパレルでの服のサイズや色替えなどのXR技術の適用範囲は大いにあると思います。
Withコロナ、Afterコロナを考えるとバーチャルへの期待は大きく、物理世界とデジタル世界の架け橋となりうるのがXR技術です。デジタル中心の消費者の行動や意識の変化をXR技術が加速し、新たな価値観・市場を創造することでしょう。
最後になりますが、私の大学時代の卒業論文はホログラフィを扱ったものでした。論文名は「確率荷重空間フィルターの研究」というテーマで、「E」という文字の合成ホログラムを、FORTRANによりフーリエ変換で「E」の干渉縞を計算して、XYプロッターで縞模様を模造紙に打ち出して、その縞模様を感光材に写真で焼き付けて、それをレーザー光で照射すると、「E」の文字が立体的に浮かび上がるものでした。その実験で文字が浮かび上がった時の感動は、未だに忘れられません。それ以来、この種の技術が早く日の目を見ないかと、長く待ち望んできました。形態は異なるにしても3D映像が浮かび上がり、操作できるというのはスマホの登場に匹敵するくらいのパラダイムシフトを起こすのではないかと、ひそかに期待しているところです。
(参考文献)
・VRは脳をどう変えるか? ジェレミー・ベイレンソン著 倉田幸信・訳
文藝春秋 2018.8.10発行
・VRが変えるこれからの仕事図鑑 赤津慧著 鳴海拓志監修 2019.8.30発行
・XR時代における新しいペイメント体験の提言 TIS INTEC Group 2020.10発行
・Microsoft WEBサイト HoloLens 2コンピューティングの新しいビジョン
URL https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/hardware
■執筆者プロフィール
ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和
ITコーディネータ&インストラクター
電話番号:075-200-2701
e-mail:t-shimomura@zeus.eonet.ne.jp
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