国連気候変動サミットで、2050年には、京都の紅葉の見頃はクリスマスになるかも、そう日本の天気キャスターがコメントしたのはいつのことだったか。その言葉通りに師走の紅葉になるとすれば、初雪はどんなふうに京都の街に舞うのでしょう。
情報通信インフラの高度化に加え、高品位なモニターやオーディオも身近なものになりました。そうしたなか、行動制限下の諸々のリモートで、遠隔でのコミュニケーションが、一昔前とは比べものにならいない手軽さ快適さになった。あらためて、それを実感することになった2020年です。
かたや、けっして揶揄するつもりはありませんが、Zoom飲み会という新しい文化?では、視覚と聴覚だけでの楽しさの限界の一面を感じることになったとも言えそうです。
五感。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった感覚。それぞれの外来刺激の受容器があって、それが刺激を受け取って大脳皮質に渡す。そして脳の機能によって、人の心的現象としての「感覚」が生まれます。医学的あるいは哲学的にはもっと正しい表現があるのでしょうがご寛容ください。
味覚についてさらに見てみると、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、いわゆる五味の受容器があることが知られています。昔は、舌の先端のほうが甘味で、苦味は奥のほうなど、舌のなかでも、それぞれの味覚を感じる場所が違っていると学校で教えられました。今は、この学説は否定され、教科書からも消えて久しいようです。
うま味は、世界的な公式用語で英語表記はUMAMI。昆布だしに含まれるグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸などが「うま味」となることが広く認められ、公式な用語となったのは1985年のことだそうです。
感覚の多くはそうですが、味覚もまた、受容器が受け取る刺激そのものだけでなく、経験や知識、感情、また、そのときの心身の状態で生じかたが違います。また、味覚についていえば、知見や感情との兼ね合い以前に、味覚刺激の組み合わせでも多様に味の現れかたが違います。わずかに塩を足すことで甘みが際だつなど、少し考えても思い当たることは多くあるはずです。
他者とのコミュニケーションとしてみると、視覚情報は、伝達手段としての効果を大きくしやすく、さまざまな工夫もされて来ました。他の感覚をどう視覚情報で伝えるかという工夫ともいえます。例えば、広告印刷物では、写真などの視覚イメージで、五感に訴える表現をしようとします。シズル感という言いかたで重要視されて来ました。食べ物についてであれば、味覚や匂いを感じさせる表現です。
ちなみに、いまだSNSでもてやはされている「映える」。偏りがある表現で、そのものの良さから遠かったりすることも多いのですが、それでも他人の関心は呼ぶという。ビジュアルの楽しみかたのひとつとして定着するのかも知れません。
ここち良い視覚情報に触れた後、実際に、その食品、食材を口にしたときに感じる美味しさ。そこでは、生理的な刺激に起因する味覚の他に、既に得ている視覚情報や、その当人のなんらかの満足や自慢の感情が、「美味しさ」を後押しします。
あるいは、料理を提供するお店での味。そこにあるのは、その店の佇まいや、設え(しつらえ)、器、人の立ち居振る舞い、歴史、さまざまな事象の重なりから生まれる「美味しさ」と言えるでしょう。
そして、家庭。生まれ育ったそれぞれの家庭の料理の味。そこには、その人にとって、かけがえの無い安心と美味しさがあることでしょう。
個人として、あるいは家庭での食事への意識が変わるきっかけとなったこの2020年。味についての感覚を、いま一度大切にしてみてはいかがでしょう。
食事は難しく考えてするものではありませんが、年に一度くらいは、じっくりと味を自分の五感と五味で捉えなおしてみるときがあっていいと思います。もちろん、普段からそうされているかたもいらっしゃるでしょうが。
五感を使って感じとること。それを意識する、そして、そのうちの味覚については、五味がそれぞれどうか、そんな捉えかたをして、感覚を整えなおしてみましょう。
食事の味わいを、自身の具体的な言葉で表現することを少し意識してみるだけでも良いでしょう。グルメリポーターのような表現では無くです。あるいは、日頃より少し丁寧に料理をしてみる。例えば、出汁をひくことが少なくなっているなら、合わせ出汁でとってみる。鰹節を加える前の、昆布だけのときにも味見をして、合わせた後と比べてみる。そして、そのとき、小さなお子さんがいらっしゃるなら、ぜひその味見をして貰ってください。
世界の飢餓人口が推定6億9,000万人、健康的な食事をする余裕がない人々が30億人以上。国内では3分の2の人が生活習慣病で亡くなるという。食の偏在、食糧の自給、食品ロス、環境、健康など、わたしたちの世の中は、食や農に関わる問題、課題を、広くも、身近にも多くかかえています。
まず、贅沢というのではなく、丁寧に食に向き合う。そんな暮らしが広がり、そのなかで育つ世代が増えること、それが、食や農の問題を明らかにし、共有し、課題を解決していくことにも繋がります。幸いなことに、私たちの住む国はそんな暮らしをする豊かさを持ち合わせているはずです。
■執筆者プロフィール
松井 宏次(まつい ひろつぐ)
ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター
健康経営アドバイザー
焚き火倶楽部京都 ファウンダー
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