V for Vendetta ~アノニマスの仮面~ /上原 守

V for Vendetta ~アノニマスの仮面~

今回も映画をタイトルにしてみました.11月5日がGuy Fawkes Nightですので,この映画を選びました.また映画とはあまり関係がない内容です.でも,この話どこかで書いた気がするのですが…

 

2005年制作のアメリカ・イギリス・ドイツ合作映画です.第三次世界大戦後の全体主義国家と化したイングランド.夜間外出禁止令を破って外出したイヴィー(ナタリー・ポートマン)は,秘密警察に見つかり乱暴されそうになります.そこにガイ・フォークスの仮面をかぶった"V"があらわれ…

 

この映画,冒頭から"V"はマザーグースやシェイクスピアを暗唱します.最初に映画館で観たときは全く付いて行けませんでした.調べたらGuy Fawkesの事件が1605年ですので,シェイクスピア(1564~1616年)と同時代ですね.

多くの日本人は「春はあけぼの~」って一節くらいは暗唱できると思います.そう考えると枕草子(1001年)や源氏物語(1008年)を持つ日本の歴史ってすごいなとか思います.でも以前に中国の人と話していて,佐藤春夫の「綾にしき何をか惜しむ…」の元になった「勧君莫惜金鏤衣」の話題になった時に全文暗唱されました.これって唐の時代(800年頃)です.さらに中国の古典「周易」は紀元前ですから,全くかないませんね.こういった事からも「文書」を残すということは大事だと思います.最近の公文書の改竄問題を見ていると…違う話になりますので,ここまでにします. 

アノニマスとガイ・フォークスの仮面

アノニマスというハッカー集団(ここで「ハッカー」は悪い意味ではなく「コンピュータやネットに深い技術的知識を持つ人」の意味で使っています)があります.アノニマス(Anonymous)は「匿名の」という意味ですので,誰が所属しているのかは基本的に分からなくなっています.元々は下図の左のような顔がクエスチョン・マークのエンブレムでしたが,公の場に出る場合はガイ・フォークスの仮面をかぶるようになりました.由来は,この映画にあるようです.今では,この仮面自体がハッカーとしてのシンボルになりつつあります.

この Anonymous の名前の起源は英語圏最大の画像掲示板 4chan にあるそうです.この 4chan は日本の「ふたば☆ちゃんねる」に影響されて立ち上げられたそうです.4chan に投稿するときに名前を入力しないと「Anonymous」と表示されます.インターネットの匿名性が生きた例だと思います. 

アノニマスの組織

アノニマスには特別の指揮命令系統があるわけではなく「命令というよりもアイデアに基づいて運用されている非常に緩やかで,分散化された指揮系統をもったインターネット上の集まり」です.

勿論,構成員が分かりませんので「自称アノニマス(意味的に矛盾がありますが)」も居ると思いますし,あるアイデアに対してアノニマスの中で賛成派や反対派もいるみたいです.またアイデアを提示して賛同するメンバーを集める形ですので,メンバーが集まらなければアイデアもボツになります.

日本の「霞ヶ関」と「霞ヶ浦」を間違って「国土交通省霞ヶ浦河川事務所」を攻撃してしまったという笑える話もあります.

 

伽藍とバザール

「伽藍とバザール」という本があります.20年くらい前の本ですが,ソフトウェアの開発方式として「伽藍方式」と「バザール方式」があるという内容です.ざっくり言うと,ウオーターフォール型の開発は伽藍方式で,アジャイル型の開発をバザール方式と呼んでいます.

一番の違いはリリースに対する考え方だと思います.

 

 伽藍方式:できるだけ少ないバグで計画的にリリースする.バグは次回のリリース迄に修正する.

 バザール方式:早めのリリース,しょっちゅうリリース.バグがあればすぐ直す.

 

このことから,伽藍方式では「計画」を立て.リリースに対して「承認」できる権限と責任を持ったピラミッド型の組織が向いている(PMBOKは基本的に伽藍方式です)と分かります.逆にバザール方式では,フラットな組織で「ベータテスタと共同開発者の基盤さえ十分大きければ,ほとんどすべての問題はすぐに見つけだされて,その直し方も誰かにはすぐわかるはず」という考えに立っています.

 

イノベーションだとかDX(デジタル・トランスフォーメーション)だとか言われて久しいです.

会社が「我が社もイノベーションを起こすぞ」と言うことで「社内起業」を募集したのに応募した知人がいます.随分頑張っていましたが,ものの見事に撃沈してしまいました.そのあとに一緒に飲んだのですが「本社の経営会議で報告を求められる.資料作りや移動・報告に時間が取られる」「空いている要員(スキルもモチベーションも不足)を押し付けられたうえに『教育するのも君の仕事だろう』と言われる」「フルタイムでなくても良いと言っても,必要な人材は囲い込まれる」「社外の人材採用(パートタイムでも)に稟議や上層部の面接が必要」等々…やはり「組織の壁」が問題だったという話になりました.

 

SCRUMという方法

Anonymousの方法を組織内で適用すると,社内ネットにアイデアを上げて賛同者を募るような形になります.飲み会や同好会の募集等であれば,それはそれで可能だと思いますが,ビジネスにするにはそこまで「緩い」方法で成果を出すことは難しいように思います.

SCRUMという開発手法があり,アジャイル開発では実績があります.

一般に,プロダクト・オーナーとスクラム・マスターと開発チームから構成されます.

チームはスポーツのチームのように自律的に機能し,全体としてゴールを目指します.プロダクト・オーナーはビジネスの視点(顧客の代表)を持った総責任者になります.スクラム・マスターはスクラムのフレームワークが正しく適用できていることに責任を持ちます.開発は「スプリント」という単位で行われます.

 

定常組織内にプロジェクト組織のノウハウを

これまで何度か「構造」の重要性について書いてきました.企業の戦略は「組織」を見れば分かると以前書きましたが「組織」は「構造」です.

イノベーションやDXは「アイデア」が重要だと思われています.しかし「アイデア」は見えている氷山の一角に過ぎません.実際に必要なのは「実践」「構築」だと思います.また恐らくイノベーションやDXの成功確率はそれほど高くないと感じています.

DXはデジタル・ジャーニーと言われるように,本来は長い時間がかかります.旧来のピラミッド型の組織の延長線では,イノベーションやDXの成功確率を上げることは難しいように思います.

プロジェクトの組織は,本来「優秀な」メンバーで構成されます.SCRUMの例であればスポーツのチームのように機能する必要がありますので,一定以上のスキルやモチベーションは必要になります.その上でフォワードに向いているのかバックスに向いているのかの個性が出てきます.

定常組織の構造や運営にプロジェクト型のノウハウを取り入れて,SCRUMのような戦えるチームを作っていく必要がある時代になって来ていると思います.逆に言えばプロジェクトの定常業務化になります.プロジェクトですから要員は流動的になりますし,クラブチームと日本代表の兼任のように全員がフルタイムではないことも普通にあり得ます.問題としては,要員管理が複雑になりますので,旧来の人事管理では上手くいかない可能性が高いと思います.

この流れは今回のコロナ禍で加速する可能性があります.

今回のコロナ禍でリモートワークになっている方も多いと思います.teamsやZOOMは分散プロジェクトでもコミュニケーション基盤として普通に使われています.こういったツールとGitやSVNのようなバージョン管理,Redmineのようなプロジェクト管理基盤,Wikiのような情報共有基盤を使うことで,決して無理なことではない時代になっていると思います.

 

参考

「4chan」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)2020年10月17日 (土) 03:49

「Vフォー・ヴェンデッタ (映画)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)2020年10月22日 (木) 10:47

「アノニマス (集団)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)2020年8月28日 (金) 10:32

「伽藍とバザール」エリック・レイモンド 著,オライリーメディア 出版

「伽藍とバザール(The Cathedral and the Bazaar)」https://cruel.org/freeware/cathedral.html

「スクラム (ソフトウェア開発)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)2020年9月26日 (土) 12:58

「すくすくスクラム」https://sukusuku-scrum.doorkeeper.jp/

 


■執筆者プロフィール

 上原 守

 ITC,CISA,CISM,ISMS審査員補,情報処理安全確保支援士

 IPA プロジェクトマネージャ,システム監査技術者 他

 エンドユーザ,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています.