Afterコロナのビジネスモデルの話をしましょう / 積 高之

 まだまだ完全に収束したとは言えないコロナ禍の状況も、徐々に以前の状況に戻りつつあります。

経済を廻すという意味では、もちろん元に戻ったほうがいいのですが、実はいくつかの点で「戻らないもの」「戻さないほうがいいもの」もはっきりしてきています。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の観点ではこれが顕著で、各企業はこれまでのビジネスモデルを変えて行く必要もあります。

5/18のコラム「新型コロナウィルスはむしろチャンス」で全体の話をしましたが、今回は3回のシリーズで業界ごとにさらに詳しく考えてみましょう。

 

1 アンバンドル

 

 各業界、主にサービス業を中心に起きてきた変化が「アンバンドル」です。これまで一連のバリューチェーンやオペレーションを形成してきたものが、一旦バラバラに分断され組み替え方を変えたということです。

飲食業界がわかりやすいので例にして説明すると、これまでスタンダードな飲食業は、

① 農業者なり漁業者なりが素材を供給する

② 流通を経て飲食店に届く

③ メニューを考えて店舗で待つ

④ 客が来店する

⑤ 下ごしらえをして調理をする

⑥ テーブルに提供して客は食事をする。

という流れの中でビジネスが組み立てられていました。もちろん、そんな中でもたとえば②を省略して直接食材を調達していた飲食業者や、①がそのまま食卓に届いていた例もありましたが、この流れが一旦解体されたように思えるのが、今回のコロナ禍です。

最初に④や⑥がなくなりました。テイクアウトやデリバリーです。実際にレストランに行って食事することができなくなったのですから、料理をそのまま持ち替える事や、お店に運んでもらうことが主流になっていました。筆者が実際に体験した中にも、そんな飲食店とユーザーのためにFacebookグループを作り、それがサイトに発展したというケースもありました。

Kyoto Food          https://kyotofood.net/

Kyoto Foodテイクアウト京都 https://www.facebook.com/groups/242654153793432

 対応が多かったのは最初はテイクアウトでしたが、UberEatsの利便性を知ることや、出前館の充実、さらにはMKタクシーなどによるタクシーでのデリバリー(京都では4/28から。その後延長していまや常態化)などにより、https://kyotopi.jp/articles/OJ0v8

ユーザーはその利便性を知ってしまいました。これまで、資金力のある大手の限られた飲食店、ファーストフードのような店か、ごく近所の大衆店でしか望めなかった宅配が、距離的にもジャンル的にも、かなりの範囲のお店で対応することが可能になったのです。

 もちろんその原因の一端は飲食店側の「少しでも売上がほしい」という事情でしたが、ユーザー側の「食べに行きたくてもいけない」というニーズをマッチし、さらには「何だデリバリーでいいじゃない」という感覚とも結びついてきました。テイクアウトに対応していた飲食店には、消極的な意味で対応していたケースもありますが、デリバリーを行う店は積極的なところが多く、UberEatsなどの仕組みを使わず、軽バンやかなりの距離を自転車で自前によって配達している飲食店も現れていました。店舗売上の何倍もの売上をデリバリーで取っていた飲食店では、自粛期間が終了して直接来店が増え始めると、さらに売上が増大してきています。

 また、①と③を組み合わせ、直接自宅に届いた食材をシェフが調理するオンラインクッキングのサービス (https://ietsuna.com/)や、⑤の一部である「下ごしらえだけした食材」を届けて最終調理だけをする「ミールキット」なども(https://tastytable.jp/)も流行ってきました。(紹介したURLは代表的なサービスで、実際にいくつも立ち上がっています)

 ①の事業者も最初は「コロナ支援・訳あり商品グループ」

https://www.facebook.com/groups/248092736319363 などの支援サービスを利用していましたが、やがて自前の通販を手掛けるようになり、楽天などのプラットフォームを使わない産地直送の「本来業務用であった食材」の通販も増えてきています。

 

 しかも冷凍技術のますますの発達、ITの発展によってこれまでの商圏がアンバンドルされています。先日参加した「ミャンマーのツアー(無論オンライン)」では、前日にミャンマー料理が届きましたが、筆者の住む京都に東京から冷凍でミャンマー料理のお弁当が届きました。京都にももちろんミャンマー料理店はありまますが、この東京のお店のものも美味しかったので(冷凍なのに!)週末の昼ごはんには十分選択肢に入ります。また、とある西院の居酒屋は、これまで会社員の帰宅前がメインでしたが、コロナ自粛期間にその客層を失った代わりに、自分の店の廻りのマンションを見て、「ここにいっぱい人がいる」と考え、チラチを入れることにでいまでは毎日100食以上の弁当を宅配しています。距離も時間もアンバンドルされてたわけです。

 

 このように飲食業はバリューチェーンのアンバンドル化がどんどん進み、大手飲食業も業態や食材供給やキッチンなどのシステムの再構築を急いでいます。これはもうコロナ禍が収束してもたぶん元に戻ることはなく、新しい時代に向かっているんだと考えるべきでしょう。

 

 みなさんの業界はどうでしょう?コロナ禍での対応は、ひょっとしたら何年かかかって変革されているべきものが、わずか数ケ月で起きたということで、実は「元に戻らない」「戻さない」ものか知れません。もう一度「変わったもの」を見直して、ビジネスをその方向に向けて行きませんか?

 


■執筆者プロフィール

 積 高之

 seki@sekioffice.jp

 京都積事務所 代表 株式会社リリク シニアコンサルタント

 経営管理修士(MBA)  上級SNSエキスパート・上級SNSマネージャー・上級ウェブ解析士・ITコーディネータ

 

 広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。

 大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。

 現在契約中の顧問先は30社以上。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、

 リアル ビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングが好評。

 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。