1.New Normalとは
New Normalという言葉は、リーマンショック後に起きた変化に対して、非日常が新しい常態になるという文脈で使われた概念で、日本語としては「新たな常態」、「新常態」と訳されていましたが、このCOVID-19でのStay Homeを経てからは日本では「新しい日常」と訳されています。
ただ、何がNew Normalであるかについては、明確な定義が定められている訳ではありません。そのため、リモートワークを経験して、従来の会議の非効率さに気づいたり、紙をベースと手続きの非合理性に気づいたりしたにも関わらず、旧ノーマルに戻ってしまい、せっかくの改革のチャンスをみすみす逃してしまっている企業が本当に多いのは事情に残念なことです。
2.企業レベルの影響
財務省が令和2年4月27日に発表した「新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響とその対応」によると製造業への主な影響として以下の内容がリストアップされています。
①中国等の⽣産拠点の操業停⽌や物流の停滞により部品・商品の輸⼊が困難
②海外需要の落ち込みによる輸出の減少
③「国内での⽣産・販売額の減少」
そしてその主な対応としては以下のものがリストアップされていました。
①⽣産・販売計画(営業時間、⽣産数量等)の⾒直し
②仕⼊先や販売先の変更
③設備投資計画の⾒直し
需要落ち込みの影響はBtoCではすぐに表れていますが、上流にいくほどその影響は遅れてでてきます。またブルウィップ効果としてよく知られていることですが、需要変動の幅は川上程大きくなります。
これまで好調であった取引関係に強く依存していた企業ほど、今後大きな打撃を受ける可能性が大です。影響が全世界にかつ長期間におよぶ今、経営レベルの人々は元に戻ることを期待して、耐えるということでは駄目です。新たな日常にしっかりと目を向けてビジネスモデルの変革を急ぎ進める必要があります。
3.働き方への影響
従業員レベルでの影響としては、生産現場と間接部門とで異なります。
間接部門は本社、工場共にリモートワークが基本となったことから、クラウド移行ができていない企業では、会社の自席PCに自宅からVPNでログインして仕事をすることが多く行われました。打ち合わせはZoomやTeamを利用したWeb会議となり、会議の効率化が進んだ反面、特にデジタル慣れしていない中高年ではちょっとしたコミュニケーションがとりづらい、勤務の切れ目が分からなくなるなどの弊害がでてきていることがネットニュース等でよく見受けられました。
非常事態宣言解除後は、旧ノーマルの非合理な点に気づき、ハイブリッド型に移行できた企業と、旧ノーマルに戻ってしまった企業とに分かれます。自社のビジネス環境が変わってしまうことに気づけた経営者は前者を、そうでない経営者は後者を選択しています。
一方生産現場は、リモートワークが採用できないところがほとんどであり、出勤者の感染リスクを極力減らすように、作業環境やミーティングのスタイルが変更されていました。
4.製造業におけるNew Normal
大手企業では、これを機にスマート工場への取り組みを開始した事例が多く見られます。これは、需要が大きく変動するかもしれないことを前提として、フレキシブルな生産体制を構築すること、および出勤する必要のあるオペレータの数を大きく減少させることを目的としています。
もちろん、IoTやAI、クラウドといったデジタルの急速な進歩がその後押しをしていることはいうまでもありません。日本版Industry4.0であるSociety5.0への取組が、ここにきて今後の企業の生命線を握る施策となったということです。
以上の取り組みはデジタルの活用ではまだ守り、受け身の範囲にとどまっていて、これではデジタルトランスフォーメーションにはなっていません。この大変革をコスト削減や効率化にとどめるのではなく、新たなビジネスモデルの創出につなげることが実は求められています。
New Normalへの対応、そしてさらに一歩進めてDXへの取り組みを開始すること、いずれも経営層のリーダーシップがなければ実現しえません。今一度、自社や自組織の向かっている方向がこのままで良いのか、しっかりとチェックして頂く機会になれば幸いです。
■執筆者プロフィール
氏名 宗平 順己(むねひら としみ)
所属 武庫川女子大学経営学部教授
ITコーディネータ京都 副理事長
Kyotoビジネスデザインラボ 代表社員
資格 ITコーディネータ、公認システム監査人
専門分野
・デジタルトランスフォーメーション
・サービスデザイン(UX)
・クラウド
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・エンタープライズ・アーキテクチャ などなど
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