へこんでもへこたれないレジリエンス(resilience)/ 丸山 幸宏

◆災害や災難があったときに思うこと

 レジリエンスとは、元は物理学や心理学の用語ですが、社会や組織が持っている自発的治癒力のことで、「弾力性」とか「回復力」などと訳されます。現在直面しているこの状況から、どのように回復できるかというのは、個人の行動やその背景にある価値観までも含めて問われているんだろうなぁと思いながら、このレジリエンスという能力について、少し考えてみました。

 

◆竹の持つしなやかな強さ

 かなり昔、長岡京市に住んでいた頃、アパートの裏に結構立派な竹林がありました。ある年の台風で、竹林の向こう側が見える位うねる程の強い風が吹きましたが、翌朝は何事もなかったかのように、シュッとしていました。地面にはたくさんの小枝や葉っぱが散乱していましたが、幹まで損傷している竹はなく、竹林としての佇まいは相変わらずで、竹ってすごいなぁって思いました。

 

◆回復に必要な備えと、瞬発力と持続力の両立

 つい先日のこと、自粛でしばらく乗っていなかった自家用車のバッテリーが弱っていて、セルモーターが回らずに「カチカチカチ」と聞き覚えのある嫌な音が鳴りました。仕方がないので取り外して充電することにしましたが、うちのクルマはディーゼルエンジンに加えて寒冷地仕様でもあるため、1個20キロ以上の大型のバッテリーが2個付いていて、ギックリ腰に注意しながら作業しました。

 実は時々こういうことがあるため、我が家には業務用の充電器があり、普通の充電器だとエラーになる電圧が10V以下になっちゃった場合でも、電流が2-40Aの幅で、電圧は17V位まで変化しながら、ダメージを修復して劣化状態から救い出してくれる優れものです。

 また、キャンプ用に特性の違うディープサイクル型のバッテリーも常備していて、名前の通り80%以上の深いサイクルの放電を前提に設計されたものなので、今回9V位まで電圧が下がっていましたが、しばらく走れば充電されて元に戻ります。こちらはセルモーターを回すような瞬発力はありませんが、車中泊等での照明やクルマの燃料を使うファンヒーターを朝までずっと動かし続けてくれて、日中の移動でまたフル充電されて次に備えてくれます。

 

◆「レジリエンスを築く10の方法」(アメリカ心理学会)

 なるほどこれは個人のことであるからこそ、組織や社会を構成するピープルのことでもあり、支え合うことで育まれるからこそ、集団が持っている弾力性や回復力が大事で、「前を向く」、そんなエールがありますね。

  • 親戚や友人らと良好な関係を維持する。
  • 危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする。
  • 変えられない状況を受容する。
  • 現実的な目標を立て、それに向かって進む。
  • 不利な状況であっても、決断し行動する。
  • 損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す。
  • 自信を深める。
  • 長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する。
  • 希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する。
  • 心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う。

◆COBITやAPQCにも出てくるレジリエンス

 COBITとは、control objectives for information and related technologyの略称で、ITコーディネータには馴染みのあるITガバナンスとマネジメントの成熟度を評価するのに役立つフレームワークのことです。

 このCOBITでレジリエンスは、「資産管理」や「ビジネスの継続性管理」の領域で触れられていますが、特に後者については以下の文化要素の記載が今を示唆していますね。

 「ビジネスレジリエンス(回復力)を事業体の文化に含めるようにする。事業体の安定とイメージをあらゆる状況で維持するために、中心となる企業価値、望ましい行動、戦略的目的について、定期的かつ頻繁に従業員に伝達する。事業継続手続と災害復旧を定期的にテストする」

 

 APQC(American Productivity and Quality Center)とは、米国生産性品質センターのことで、長年改訂され続けてきたビジネスプロセスのリファレンスモデルがあり、自身の支援活動でも時々参照しています。

 このAPQCモデルでレジリエンスは、組織におけるガバナンスの主要領域4つの内の1つとして触れられています。以下目次の抜粋にある「3.修正力」と「4.回復力」が、「1.リスク」や「2.コンプライアンス」と並んでいるところは、平時に戦時の備えをという教訓を示唆していますね。

 

11.1 Manage enterprise risk(リスク)

11.2 Manage compliance(コンプライアンス)

11.3 Manage remediation efforts(修正力)

11.4 Manage business resiliency(回復力)

 11.4.1 Develop the business resilience strategy

 11.4.2 Perform continuous business operations planning

 11.4.3 Test continuous business operations

 11.4.4 Maintain continuous business operations

 11.4.5 Share knowledge of specific risks across other parts of the organization

 

◆おわりに

 転ばぬ先の杖的なリスクマネジメントとは違い、不確実性という大変やっかいなことに備える上で、「修正力」で素早く自らを変容・変態させながら、「回復力」で受けたダメージを修復し次に備える、みたいなことがキチンと組織に実装されていないといけませんね。今、そういう心持ちで当事者としての日常にいるように思います。1995年や2011年もたぶんそうだったように。

 ある先生曰く、豊かな社会ほど弱者に優しいそうで、竹のようにしなやかで強い未来を皆でつくりたいなぁと、合掌。

 


■執筆者プロフィール

 Principal Consultant

  Yukihiro MARUYAMA(丸山 幸宏)

  ITC(0015202003C), IT-CMF(Tier3)

  DX? 根っこにある変わりたい気持ちに向き合い・寄り添う

  Business Design TSUMUGi LLC

 得意分野は、

  グローバルなソーシングやガバナンス

  エンタープライズでのBPMやEAM

  サービスデザインによるDXの推進

 ymaru.tsumugi@gmail.com

 https://www.itc-kyoto.jp/2014/04/14/ボスはインド人-丸山-幸宏/

 https://ivi.ie/it-capability-maturity-framework/

 https://ivi.ie/capability-improvement-program/