現在の自粛下における未曾有の経済停滞は、規模の大小に関わらずあらゆる企業にとって苦難を強いられていますが、特に比較的社内留保などの財政基盤が脆弱になりやすい中小企業の経営者場合によっては明日の資金繰りにも窮するという立場の方もおられるであろうことは充分に推察されます。
まずは現状を乗り切るための、あらゆる手段を講じて、会社を存続させることは最も重要な事ではありますが、4/27のコラムで清水氏が指摘したように、それだけではこれからの経済で生き続けることはできません。まだ第二波、第三波があると思われるCOVID-19が、ワクチンや治療薬の開発などで収まったとしてもこれから何度もこのようなウィルスが発生し、また同じような現象が起きてしまうことを否定することはできません。
また、今回のCOVID-19との共存を選び、まもなく自粛そのものは一旦解除されたとして、人々は以前のような生活様式をそのまま続けるのでしょうか? 先日、安倍総理が「コロナ時代の新しい日常」という言葉を使いました。この時の文脈では「自粛下の生活」という意味で使っていたのだと思えますが、考えようによっては、この状況が収束し、自粛する必要がなくなった時もこの「新たな日常」という考え方が必要になってくるかも知れません。色々な説があるとは思いますが、少なくとも今動いている経済は、「コロナ以前」と「以後」とにわけることができ、消費者である私達の感覚も、大きく変わってしまうような気がします。 ひとつ言えることは「中小企業」にとって大いなるチャンスが生まれているということです。経済全体が悲観的な状況であることは間違いありません。たぶんGDPはマイナス成長になるでしょう。ただしこれは「既存の経済にとってのピンチ」なのです。もしも経済が好調だとすると既存の仕組みがうまく回っているということです。大企業は順調に業績を重ねていますし、お金を持っている人は賢く運用するので、ますますお金が集まるようになります。この状況で、中小企業は不利な立場です。何をするにしても潤沢な資金と能力があり、人的資源の豊富な大企業の隙間を縫って活躍することは困難でしょうし、もしそれができても既存の大企業がすぐに同じことをすることができます。
その状況を打破できるのは、今のように混沌とした時代、投資の神様ウォーレン・バフェットが5兆円もの損失を出してでも航空会社株すべてを手離し、「航空会社にとって世界が完全に変わってしまった。どう変わったのかもわからない」と言ったように、規模に関わらず、どの企業も「どうなるかわからない」状況なのですから。まさに今のような時代背景の時が中小企業のチャンスなのではないでしょうか? 変革期はチャンスです。今むしろ中小企業には、かってない最適な外部環境が整っていると考えましょう。今を生き残ることも大事ですが、次の明るい光が見えた時に「何を準備してきたか」が問われます。
今回のコロナ以後に変わる一番大きな生活変化は「密から疎へ」ということです。これまでほとんどのビジネスは「人を集める」ことに注力してきました。つまり「密」の状況を作り出してきたわけです。流通業がわかりやすいですが、百貨店は「人(もちろん消費者ですが)」を集めて、その人達にできるだけたくさん買ってもらうこと。観光業も人がたくさん来てほしいし、レジャーもそうです。飲食業ももちろんそうで、通常の「商圏」というものを無視したような範囲での移動も、実際に行われてきたわけです。
ところが、今の自粛下のような生活や企業活動のように「集まらない=疎」という状態でもやっていけるとすれば、もう「密」である必要はなくなるわけです。もちろん、現在の生活が全員にとって快適であるわけではないですが、それはいきなりこの状況に置かれていることで、ルールや装置などが、まだまだこの生活に適合していない事が多いからです。
これまでのビジネスは「人が集まる」ことによって成立ってきましたが、もう「集まる」「集める」というビジネスは成り立たなくなり、それによって「移動手段」や「繁華街」などというものは不要になって来るのではないかと思われます。
しかし、見方を変えたら、不動産のようなリソースが開くわけだから、「疎」のビジネスは成り立ちますね。たとえばネット空間はイベント会場のような「密」ではなくスペースは無限なのでエンターテイメントですら「疎」のビジネスになり得ます。飲食店での「テイクアウトやデリバリー」もそうですし、これが飽きられても「レシピの販売」「ミールキット」「食材通販」など、まだまだ「食」を提供できる手段はあります。
まず自社のビジネスの内容を分解してみて、もし「密」を前提にしているなら、どこかに「疎」を作れないか ?
集まることの劣化版ではなく新たなサービスや手法を作れないか。それを考えて見てください。「うちは◯◯だからテレワークは無理」と思考停止してしまえば、それで終わりです。すべての業務を分解すればいくらでも手は取れるはずです。
たぶん多くの部分でICTが貢献する場面は多いと思うので、ぜひお近くのITコーディネータやコンサルタントと相談して、「今の乗り切る」だけでなく「次の時代のこと」を考えてみてください。
■執筆者プロフィール
積 高之
京都積事務所 代表
株式会社リリク シニアコンサルタント
経営管理修士(MBA)
上級SNSエキスパート・上級ウェブ解析士・ITコーディネータ
広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。
大手子供服SPA,酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。
現在契約中の顧問先は30社以上。ITだけでなく小売業・広告業の実務経験を通じ、
リアルビジネスのマーケティングをベースにしたコンサルティングが好評。
関西学院大学大学院経営戦略研究科卒。
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