この時節に「農」を考える / 松井 宏次

桜の季節が過ぎたと思うと、これほど皆が好きだったのかと思うほど、ハナミズキの白い花と赤い花にあちこちで出会いました。今は、道端にサツキが鮮やかに賑わっています。顔を上げ、山を見ると、そこは色とりどりの緑です。

 

■今年は、農業についての関心が、あらためて広がっているようです。実数として把握しているわけではないのですが、生産者や農業と繋がることを求める消費者が表面化して来ているとも感じています。

医療従事者や、物流やインフラ維持に携わる方たちとともにエッセンシャルワーカー*1である農業生産者。その再認識から、農業や、農業生産者にも、あらためての関心が寄せられているようです。

 

都市部に住む人々が、市民農園 *2 を求める動きも増えています。農業は、文字通りの意味では「農」を、「業」として、農作物を育てて提供する仕事として行うことで、市民農園での農業は、それとは異なります。漁業に対しての、釣りだとかフィッシングだとかいう言葉が、もし農業にあれば、その言葉で表わされていることでしょう。

「農」と言う語が、仕事として行うかどうかに関わらず作物を育てて収穫することを表わすとすると、業であろうがなかろうが、プロの農業も、家庭菜園や市民農園、ベランダ菜園も同じ農だと言えるでしょう。

今、広まっている関心は、農業に対してでもあり、農に対してでもあると思います。

 

■農業、林業の第1次産業 *3 は、近年では産業別就労人口割合では数パーセントですが、遡ってみると、例えば昭和の半ばごろ1960年にはまだ32.7%ありました。この年は、第3次産業が38.8%ともっとも高い割合の位置を占めるようになった年です。そして、急増しつつ、この時点で29.1%だった第2次産業は、その後、1970年には34.0%に達します。戦後の高度成長期*4でのことです。

この間、第1次産業の労働人口比率は急速に低下しました。また、日本の食料自給率が大きく低下をしてきたことも、よく知られていることです。

人やものの動きが制限されるなかでは、この自給率に対する危機感もあらためて浮上して来ているようです。

 

いずれにしても、かつては身近にあった「農」が、急速に生活とは離れた存在になっていった時代が、60年ほど続いたことになります。

 

■今再び、人が農に接する機会が増え、そこでリアルな作物の姿を見る。育てるなかでそれを知る。このことは自分や家族の食についての意識を変える強いきっかけになっていくでしょう。暮らしのありかた、生活の文化にまで、その影響は及び得ます。

 

卑近なところでは、以前のコラムで触れた、食品のロス削減の課題への取り組みにも繋がるでしょう。また、米食で得ていたカロリーを、畜産物や油脂類から取るように変化して来てしまった食生活を、見直すことにもなるでしょう。これは国の食料自給率の改善にもなれば、何より、私たちそれぞれの健康に役立ちます。新しい食の豊かさや暮らしかたも、見えてくるはずです。

 

社会での行動の制限は、これまで「豊か」と感じていたことの幾つかを、人によってはその多くのことを、いったん手放す経験をもたらしています。

そのなかで、いつまで続くともわからない苦境をやがて超えていった先には、さまざまな新しい豊かさを求めるお客様が待っている。そのように考え、社員とともに進まれている経営者のかたもいらっしゃいます。

まずはあらゆる手段でキャッシュを確保する、守りの経営をなさってくださることを願っています。そのいっぽうで、情報通信が維持されているお陰で、そんな経営者のかたとも話をさせていただけています。

 

*1: 社会生活の維持に不可欠な仕事に就く人々を指す言葉として、パンデミックへの対応のなかで普及した用語。特定の仕事に携わる人びとを一意的に指すのではなく、それぞれの地域やその社会によって定義されるものと考えられます。

*2:農地に関する法制度上では、大きくは貸し農園と体験農園の二つの方式があります。貸し農園が農地の賃貸であるのに対し、体験農園は、地域住民とともに農作物の共同栽培や農業体験の場の提供などを行おうとする、農業の営業形態のひとつです。

*3:日本においては、総務省告示「日本標準産業分類」という分類が用いられます。産業分類を考案したクラークの分類とは異なり、鉱業を第2次産業に分類しています。

「第1次産業」…「農業,林業」及び「漁業」

「第2次産業」…「鉱業,採石業,砂利採取業」,「建設業」及び「製造業」

「第3次産業」…「電気・ガス・熱供給・水道業」,「情報通信業」,「運輸業,郵便業」,「卸売業,小売業」,「金融業,保険業」,「不動産業,物品賃貸業」,「学術研究,専門・技術サービス業」,「宿泊業,飲食サービス業」,「生活関連サービス業,娯楽業」,「教育,学習支援業」,「医療,福祉」,「複合サービス事業」,「サービス業(他に分類されないもの)」及び「公務(他に分類されるものを除く)」

*4:1955年から73年の約20年間、年平均10%前後の高い水準での経済成長が続いた期間を指します。1964年に東京オリンピック、1970年には、大阪万国博覧会が開かれました。日本のGNPが自由主義経済国内でアメリカに次いで第2位になったのが1968年。第1次オイルショックが起きたのが1973年です。

 

参考文献

2019/12/16 ITC京都コラム ITと経営の話 『この時節に「食」を考える』松井 宏次

平成30年度食料自給率について 農林水産省

<https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-12.pdf>


■執筆者プロフィール

 松井 宏次(まつい ひろつぐ)

 ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター

 健康経営アドバイザー

 焚き火倶楽部京都 ファウンダー