「中庸」とは、(1) かたよらず常にかわらないこと。不偏不倚で過不及のないこと。中正の道。(2) 尋常の人。凡庸。「中庸(作品名)」とは、四書の一つ。1巻。天人合一を説き、中庸の徳と誠の道とを強調した儒教の総合的解説書。孔子の孫、子思の作とされる。(出典:広辞苑)
「中庸(作品名)」には心のありよう、儒学、特に陽明学が説く心とは何かが書かれている。心とは、何か物事が動いている時(関係性を持っている時)に心が表れやすく、心を育てることができる。心とは、人間関係を通じて知り、生活を通してわかるものである。
新型コロナウィルスで世の中が落ち着かない、政府や自治体や所属する組織の対策、メディアから発信される様々な情報、周りの人々の言動、たくさんの関わりの中でいま私たちの心はどうなっているだろうか? こんな時だからこそ、「中庸(作品名)」をひも解きながら自身の心と向き会う機会にしたいと思う。
■「中庸」第二段・第一節より
仲尼(ちゅうじ)曰わく、「君子は中庸し、小人は中庸に反す。君子の中庸は、君子にして時に中すればなり。小人の中庸に反するは、小人にして忌憚するなければなり」と。子曰わく、「中庸はそれ至れるかな。民能(よ)くすること鮮(すくな)きこと久」と。ここでは、君子の行いは自然の理にかなっており、大人はいつも変わらない(常)、節度にかなっている(時中)が、小人は環境に振り回され(不常)、遠慮がない(忌憚する無き)ということを伝えている。
また、「老子」には「それ物は芸芸(盛んに成長している)たるも、その根に帰る。根に帰るを静といひ、静を命に復(かえ)るといひ、命に帰るを常といふ」とある。生きとし生けるものはすべてその根(性、命)に帰る。常(庸)とは行われている一定不変の原則である。また道とはこの根に通じ、物の成毀に通じる原理原則である。静の状態の中で命に帰る。
ここで中庸とは、自然の動きであり普遍的に変わらないそのものであり、ここで言う根に帰るとは、静の状態の中で我々の心に戻ること、つまりは内省(内観)、私と私自身の対話であることを伝えている。いまならこんな対話だろうか…
- 新型コロナウィルスは良くわからなくて怖い、とにかく不安
⇔いつ感染してもおかしくないものとしてできる限りの注意をして行動する
- なぜこんなことが起こっているの? 対策が間違ってたんじゃないの ?
⇔大変な状況だけれども、いま何をすべきかを冷静に考え行動しよう
- 人が動かなくなることで影響を受け売上が減少している事業者が多数
複数の政策が打ち出されたものの、元に戻る見通しが立たない⇔企業経営におけるリスク管理を見直す良い機会
そもそもの事業の在り方、存在意義、提供価値を見直す良い機会
ロジスティックスを確認、見直す良い機会
働き方を考える良い機会、リモートワークにチャレンジしてみよう
コミュニケーションのあり方を考える良い機会
リモートワークを機に評価制度を考える良い機会
社員のモチベーションを維持する方法を考える良い機会
- 学校は休校になったし不要不急の外出は控えないと…
⇔自分で判断して行動し、消費しないと地域経済が落ち込んでしまう
- なんか落ち着かないし、外出もできないし、やる気もなくなる
⇔自分にとって本当に大切なことは何なのかを考える良い機会
優先順位を考える良い機会
せっかくだから日頃手付かずだったことをしよう
- マスクがないのはわかるけど、トイレットペーパーまでなくなるなんて
⇔消費に関する行動心理を学ぶ良い機会
人によって受け止め方が違うことからわかることがある
新たなサービスや価値を考える良い機会
- ◎◎日までの対策って本当にその先は大丈夫なの ?
⇔まだまだ感染者は増加傾向にある、長期戦を見込んでどうすべきか考える
- こんな状況はいつまで続くの ?
⇔社会の仕組みを良いも悪いも体感し、あるべき姿に意識を向ける良い機会
当たり前のことなどなく、いまに感謝をすることに気づく良い機会
他人事ではなく自分事として社会の課題に目を向ける良い機会
これを機に、SDGs(持続可能な開発目標)への意識を高め取り組む良い機会
目の前に起こっていること、ただそこにある事象に対して、どんな意味付けをして自分の中に取り入れ何を感じ考え行動するのか。結局は一人一人の心のありようではないかと思う。経営も個々人の生活も、自分が自分の心と対話しながら決めていく。「自分は何者か、自分はどうしたいのか、ただそれだけ」ではないがろうか。
■「中庸」第三段・第二節より
道をなすには、忠恕が不可欠である。忠恕とは誠意を持って思いやりを尽くすことであり、これはあるものごとを自分の身に経験してみて願わしくなかったら、他人に対してもその物事を仕向けるな、ということである。ここでは、人間関係を良好に保つ秘訣は忠(誠意)と恕(思いやり)である。誠意とは人に尽くすことであり人間の心が正常に働くことである。思いやりとは人の心の根底にある共同性であることを伝えている。
■「中庸」第三段・第二節より
自分自身に対しても、他人に対しても、常に一定の徳を行い、誠のある言葉を慎み守らなければならない。自分から反省して足りないところがあれば、努力せずにおれないし、他人よりも余力があれば、自制して他人をしのがないようにする。そして物事を言い出すときには、そのことを実行しおおせるか否かをよく考え、また、ものごとを実行しようとすれば、それが正しい考えに沿っているかどうかを考えて、言葉と行動の一致に努める。このようであるから君子でありたいと志す者は、常に謙虚で日々努力を惜しまずにおれない。ここでは、(1) 言葉が大事、(2) 自ら反省して、(3) 謙虚であれ、(4) 言葉を発する時は実行できるかどうか考え、(5) 言葉と行動の一致に努めることが大事であることを伝えている。これはまさに、生き方そのものであり、リーダーのありようではないかと思う。
■「中庸」第四段より
最後に、誠を身に着けるために必要な5つのことを紹介しておきたい。
- 博学:まず博(ひろ)く、学ぶこと。人を通じて、人の情を学び共感していく。
- 審問:知って行動しようとする時に疑問をそのままにしておかない。知れば知るほど、またこれを実行しようとすればするほど疑問がわいてくる。その疑問をそのままにせず細かく分けて問いただす。
- 慎思:人の受け売りではなく自分の頭で考え自分の身に置き換えて考える。学び知ったことを慎重に自分の立場に置き換えてそれをどのように自分の行いとするかを考える。
- 明弁:本当に自分が矛盾なく理解できているかどうか話してみる。自分から行っていくにつれて、ものごとに対する問いには前後矛盾する惑いがおこりやすいので、明確にそれを判断して惑をしりぞける。そうすれば確信に変わり自然と行動できるようになりそのスピードも速くなる。
- 篤行:飽きることなく心を込めてことにあたる。いかなる場合にも、いかなるところでも、忠実に一すじに善を行う(誠を尽くす)。失敗した時にはなぜ失敗したのかを考え学ぶ。
「中庸(作品名)」には、このほかにも、環境に振り回されず環境において主体となることの大切さ、心の本質的な働き、己を治めることは人を治めることにつながる、自分らしさを見出し心が願うことを実現する、そして心の力は無限であることなどが書かれている。先人が伝えてきた心理学の世界がいまとても大事だと実感する今日この頃。経営者としても、マネジメントにおいても大切なことがたくさん書かれてる「中庸(作品名)」をこの機会に手に取ってみませんか ?
■執筆者プロフィール
中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
福岡大学 産学官連携センター 産学官連携コーディネーター 客員教授
地域連携推進センター コーディネーター
(株)世利 SeyCorp. 取締役 in Busan
中小企業診断士、ITコーディネータ、(財)生涯学習開発団体認定コーチ
e-mail:fumie-na@k4.dion.ne.jp
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