■はじめに
2019年12月に報道され始めた新型コロナウイルス(武漢ウイルス:COVID-19)は,2020年3月12日にWHO(World Health Organization: 世界保健機関)からパンデミック(pandemic)であると発表された。パンデミックとは,“ある病気(感染症)が国中あるいは世界中で流行すること”と説明している[1]。このウイルスは,現在,国内で感染者が相次いでいる。また,世界中(五大陸)に拡散し幾何級数的に感染者が増加している状況である。ここでは,現在進行形であるこの新型コロナウイルスの脅威がおよぼす様々な影響とその対応状況および教訓について述べる。
■新型コロナウイルス感染症の初期症状と課題
初期症状は,“37.5度以上の発熱が4日以上続くこと,強いだるさや息苦しさがあること,高齢者や糖尿病,心不全などの持病がある人で発熱が2日続くこと”などが目安と報告されている[2]。但し,症状に気づかない場合でも感染している場合があるとのことである。そして,現状の最大の課題は,その治療薬やワクチンがないことである。両方共に現在開発中とのことであるが,治験等の段階を経て承認さなければ使用できない。一方,既存のインフルエンザ用の抗インフルエンザウイルス薬やエボラ出血熱用の治療薬が有効であるとの報告もある[3]。
■危機への対応・対策の現状
中華人民共和国湖北省武漢市において,2019年12月以降,新型コロナウイルスの発生が複数報告されている。この発生報告に関して日本政府をはじめ関係機関・組織・団体が対応しているが,この危機といえる緊急事態への対応・対策は,必ずしも良好とはいえない。
・新型コロナウイルス感染者数・死亡者数
2020年3月14日現在,報告されている感染者数・死亡者数は,日本国内ではそれぞれ714名,21名(除く,ダイアモンド・プリンセス号乗客等)である。世界では,それぞれ142,559名,5,398名(含む,日本)である[4]。
・世界経済
新型コロナウイルスにより実体経済の悪化によって,世界の株式時価総額は10兆ドル(1080兆円)減少したと報告されている(日経)。加工貿易の我が国では,人の移動が制限されると国内生産にも大きな影響が発生する。これから,急速に悪化する懸念がある。
・国内経済
2019年10月の消費税10%と新型コロナウイルスの影響で日本のGDP(国内総生産)の下方修正は,年率7%以下になると予想されている。また,東京オリンピックの開催が予定通り実施できるかどうか危惧されている。ここで,わが国の中小企業数は,約350万社である。この内,小規模事業主は,約85%である。“消費増税による消費の落ち込み”と“外出自粛”などが大きく影響し体力のない小規模事業主を中心に売上の大幅減少に見舞われ始めている。日本政府は,間髪を入れずリーマンショックや東日本大震災の対策以上の資金投入と大幅減税をおこなう必要がある。
・教育
小学校・中学校・高校を中心に一斉休校に入っている。生徒も大変だが,共稼家庭などは子供の世話をどうするかの対応とその費用も含めて大変な苦労をされている。また,給食の食材・乳製品などを扱う業者は,仕入れた材料の処分をどのようにするかの対応で苦労している。教員もこの変化への対応のため大急ぎで学期末・新学期への対応に努力されている。
・医療
医療現場では,マスク・防護服・殺菌用アルコールなどが,大きく不足している。治療で必要なものですら対応できない状況で大至急供給する必要がある。また,PCR検査の依頼をしても難しい状態が続いている。
・製造業
ものづくりで必要な部品を海外生産していると良く聞かれる。その部品が入ってこないので完成品が作れないといわれている。これは,部品在庫もそれほど多くなく顧客への納品ができないのである。これより,海外生産を含むサプライチェーンのあり方が見直されはじめようとしている。
・観光・サービス業
ホテル・旅館・レストラン・映画・娯楽・小売店などは,色々な顧客と直接対応をしなければいけないので感染リスクが高まる。一度,感染が表面化すると売上に直接影響する。
■教訓
新型コロナウイルスが発生したといわれて,約3.5カ月が経過している。もっと早く,すなわち2020年12月初旬に「水際対策」を最大限に強化するべきであった。感染によって亡くなられた方を,救うことができたはずである。
現状は,「水際対策」中心の対応ではなく「感染の拡散防止・クラスターの撲滅」対応と早期に治療薬・ワクチンの開発に期待する段階であろう。
初動対応の遅れが,現在のパニックを起こしている。その1つが,買い占め行動:マスク・トイレットペーパー・殺菌用アルコールなどである。一度,このような事件が発生すれば,付和雷同型の行動に連鎖する。事件が発生した時に危機が発生したと気づくことが大切である。その為にも新聞・TV以外のSNS, YouTube,インターネット,海外報道などの情報を積極的に入手し総合的の判断することが重要である。
■おわりに
新型コロナウイルスは,まだ,収まっていない。それどころか,益々全世界に拡散しつつある。まだまだ,全世界に甚大な負の影響を与えると予想する。WHOがもっと早くパンデミックを宣言していれば,それなりの早期の対策ができたはずである。不思議でならない。
また,今後発生が予想される東南海大地震・東京直下型大地震・巨大台風や新たな感染症の対策は,今から「危機管理対応と訓練」を中心としたプロジェクト構築と継続的活動が強く望まれる。
引用・参考文献
[1] “パンデミック”,Wikipedia
[2] “時事メディカル”,2020/02/18
https://medical.jiji.com/topics/1549
[3] “新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】”,2020年3月13日
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/
[4] 厚生労働省,“新型コロナウイルス感染症の現在の状況について(3月14日12時時点版)”
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10201.html
■執筆者プロフィール
柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都 理事,一般社団法人 日本生産管理学会関西支部 副支部長・理事博士(工学)ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),EMF国際エンジニア,APECエンジニア
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