コミュニケーション手段として活用される経営デザインシート / 藤井 健志

■はじめに

 先日(2020年2月1日)、ITコーディネータ京都が主催した経営セミナーで「経営デザインシート」と「ビジネスモデルキャンバス」を活用して『中小企業“未来”をデザインするワークショップ』が開催されました。

 講師は大阪府中小企業診断士協会経営デザイン研究会代表の井上朋宏氏。たまたま参加させていただいたのですが、自社(あるいは支援先等)の現状のビジネスモデルと、今にとらわれない視点から隣の人の顧客ターゲットを自社のそれと入れ替えたりして描いた未来のビジネスモデル像を、ビジネスモデルキャンバスを使って考え、シェアするプログラムで有意義なひとときを楽しませてもらいました。

 

■そもそも経営デザインシートとは

 発表された当時、その名称に惹かれてチェックしていたのですが、そもそも経営デザインシートとは、内閣府知的財産戦略本部の「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」が2018年度に策定したものです。

 日本経済の今後の発展のためには「知財」の活用が不可欠という認識のもと、知財を将来ビジネスにどう活かし、それによってどれくらいの価値を生み出せるのか、具体的な構想が描けていれば過小評価を防げるという発想からこのフレームワークが作られていったそうです。

 知財は企業のビジネスモデルと結び付いてこそ価値を生むという認識から、企業のビジネスモデル変革を促すツールとして作成されました。

 

 これまでの「価値を生み出すしくみ」を把握し、これからの「価値を生み出すしくみ」を構想する、これを「経営をデザインする」こととしています。

 実際の経営デザインシートの左半分では現状の「内部資源」と、それをどのように用いて価値を生み出してきたかという「ビジネスモデル」、提供してきた「価値」を中心に枠を埋める形で、右半分は同様な枠で将来構想を記述する部分となっています。

※実際の作成事例です。(大和合金株式会社)

 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou10.pdf

 

■なぜ経営デザインシートが必要なのか

 多様化する顧客のニーズやウォンツに対応するためには、「経営をデザインすること」が重要とテキストには記載されています。「価値を生み出すしくみ」とは必要な資源を調達し、それらを組み合わせ、顧客の求める価値へと変換させ提供するしくみです。

 

 経営デザインシートは、社会、市場へ伝えたい自社/事業の思い・イメージを明確にし、「これまで」の価値を生み出すしくみを把握し、「これから」の価値を生み出すしくみを構想し、今から何をすべきかを策定するための、1枚のシートで俯瞰することが出来る思考補助・デザインツールです。

 我々がよく耳にするAs Is(現在の姿・潜在的課題)を把握し、To Be(あるべき姿・経営目標)を構想し、そのギャップを埋めていくという考えと同様であり、その1つの手段がIT経営であるわけですが。

 

■これからの価値を生み出すしくみを考えるに

 これからの価値を描くステップとして、将来の社会や顧客の変化と、その中で自社がどのような価値を提供するのか?(資源を価値に転換するのか ?)を構想するのですが、例えば2025年の社会どんな変化があるでしょうか?

 

 労働力不足、IoT、ITの進展、働き方改革などが喧しいですが、いま全世界的に広がっているコロナウィルス。この文章を書いている時点では南極大陸以外のすべての大陸で感染者が確認されました。

 わが国では大規模なイベントの2週間自粛、小中学校などの臨時休校要請が首相から出され、大変な状態になりつつあります。

 不要不急の外出は控え、テレワークやら時差通勤などがにわかに広がってきました。広告大手の電通本社で感染者が出たことで、約5000人がテレワークというニュースも流れてきました。必要に迫られて働き方の仕組みが実際に大きく変化していく契機となっていきそうです。

 

■コミュニケーションツールとしての経営デザインシート

 先のワークショップではビジネスモデルキャンバス使って、はじめに「これまでの価値を生み出すしくみ」を、そしてその後「これからの価値を生み出すしくみ」を、それぞれポストイットを使って次々とあまり深く考えずに思いつくままをポンポンとシート上に貼り付けていきました。

 そして隣の方とシートの内容をストーリーづけて話し、シェアし合って自分の気づきや、その気づきをどう活かしていくかなどを書き記しました。

 

 経営デザインシートの活用は、経営者が中心となるでしょうが、幹部候補、若手社員、あるいは支援者と対話するなど、コミュニケーションのツールとして活用し、ブラッシュアップすることで充実した内容になっていきます。戦略検討、社内の意識合わせ、経営支援など、コミュニケーションに活用される場面は増えています。

 

■まとめ

 多様化する顧客のニーズやウォンツに対応するためには、経営をデザインすることが重要です。技術的に優れたモノやサービスの提供だけではビジネスに勝てない時代です。顧客の求める価値を提供できる「価値を生み出すしくみ」を描くこと、これまでの価値を生み出すしくみを把握し、これからの価値を生み出すしくみを構想すること。そしてそれを実現するために何が必要なのか ? を明確にして事業戦略を立てることが求められます。

 そのためのツールのひとつとして「経営デザインシート」が、中小企業にとっても自社を見つめ直し、わが社の将来を導くのに有効に活用できるでしょう。

 

<参考資料>

・経営をデザインする(知財のビジネス価値評価)

 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/

・「経営デザインシート」──経営をデザインする── 首相官邸

 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou01.pdf

・経営デザインシート作成テキスト

 https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/document/zaisanken-seidomondai/2018_08_text.pdf 


■執筆者プロフィール

 藤井 健志 Kenji FUJII

 藤井コミュニケーション・デザイン研究所 代表

 NPO法人ITコーディネータ京都理事

 一級建築士・中小企業診断士・ITコーディネータ

 ken@fujii-cdl.com

 経営とITとデザインを繋いでまちづくりに貢献します。