次世代移動通信システム「5G」は我々に何をもたらすのか / 池内 正晴

 最近、次世代移動通信システム「5G」という言葉が盛んに聞かれるようになった。携帯電話をはじめとする移動通信技術の発展が、我々の生活や社会を大きく変えてきた。

 この5G技術の普及により、これからどのような変化が生じてくるのであろうか。携帯電話会社などのPRの内容を見てみると、高速通信や低遅延などのメリットが言われているが、それがどうなるのかピンとこない人も多いのではないだろうか。ここで、これまでの移動体通信の進化について振り返ってみる。

 

第1世代移動通信システム(1G)

 1979年にアナログ方式の携帯電話のサービスが開始された。それまでは、電話で話すといえば、家やオフィスにある固定電話だけであったが、携帯電話を使うことにより、自動車などでの移動中にも電話で話をすることができるようになったのである。

 

第2世代移動通信システム(2G)

 1993年ごろから第2世代の携帯電話がサービス開始され始めた。第1世代との大きな違いは電波で送る音声をデジタルデータ化したことである。これにより電波の使用効率が上がり、コストダウンが図られたことにより、携帯電話を使用するために必要な費用が安くなるとともに、電話機の消費電力を抑えることができるため、電話機の小型化や、待ち受け時間の長時間化が進み、個人で携帯電話を持つ人が大きく増加した。

 また、電話機と電話交換機との通信がデジタル化されたことにより、音声データとあわせて文字データを送ることが可能となり、1997年ごろからは携帯電話同士で数十文字程度のメッセージをやり取りできるサービスも開始され、携帯電話機が通話以外の用途でも使用され始めることになった。

 その後、第2世代の技術が進化してデータ送信容量が増加し、長文の文字データや小さな画像データの送受信が可能となり、カメラを搭載した携帯電話機や登場するとともに、容量等の制約はあるものの、インターネットとつながり、ホームページの閲覧や電子メールのやり取りができるサービスも開始された。

 

第3世代移動通信システム(3G)

 2002年前後からサービスが開始された方式で、NTTドコモのFOMAやAUのCDMA 1Xなどが、これにあたる。特徴の一つとして、データ通信の容量が大きくなったことがあり、大きな画像データが送れるようになったことにより、インターネットのホームページ閲覧などは、有線で接続されているパソコンなどと、ほぼ同等レベルで使用できるようになった。

 これまでは携帯電話機が高機能化して、メール送信やホームページの閲覧ができるようになってきたのであるが、2007年ごろになるとパソコンや携帯情報端末(PDA)を小型で持ち運び可能な形にしたものに電話などの通信機能をつけたものが登場した。これがスマートフォンである。前者は通話することがメインの端末にデータ通信機能をつけたものであるが、後者はデータ通信がメインの端末で通話もできるということで、これまでの携帯電話の概念を大きく変化させた。

 このスマートフォンは、日本においても大きく普及が進むとともに、高機能高性能化が一気に進んだ。この要因として、第3世代の別の特徴が大きく関係していると考えられる。これまでの第1世代・第2世代の仕組みとしては日本独自の仕様が採用されており、海外の電話機を日本で使用するということは、ほぼ不可能であった。一部海外メーカーの電話機が販売されていることもあったが、これは日本仕様に合わせて開発されたものであった。しかし第3世代においては、日本を含む多くの国が同じ方式を採用した。(使用する電波の周波数が異なるなど、すべての端末が世界中で使えるということではないが、異なる電波の周波数を切り替えて使えるなどの仕組みを備えていれば、同じ端末を多くの国で使うことが可能)これにより、日本国内だけで争われていた端末の開発競争が世界レベルになることにより、高機能高性能化が一気に加速したのである。

 

第4世代移動通信システム(4G)

 2012年ごろからサービスが開始された方式であり、第3世代よりさらにデータ通信の高速化が図られ、家庭用として使われている光ファイバーによるインターネット接続と比べても遜色ない速度となり、高画質の動画なども安定して再生できるようになった。

 

第5世代移動通信システム(5G)

 これから新たにサービスが開始される方式であり、これまでの方式に比べて、高速大容量、低遅延、多数同時接続などの利点があるとされている。

 

5Gによって何が変わるのか

 みなさんの一番身近な移動通信システムは、やはりスマートフォンであろう。このスマートフォンの利用で見てみると、3Gから4Gに進化することにより、動画の再生やアプリのダウンロードなどもサクサクと動き、ほとんどストレスを感じることは無くなったのではないかと思う。そのような状況でさらに高速大容量化するといっても5Gに対する魅力はあまりないのではないだろうか。

 しかし、ここでこれまでの移動体通信の進化を思い起こしてほしい。固定電話しかない時代ではそれで満足していたが、携帯電話が普及することにより我々の社会や生活が大きく変化し、それがあることが普通になった。さらにスマートフォンが普及することにより、携帯電話機というものの使い方が大きく変わり、キャッシュレス決済が広まる原動力にもなった。

 通信技術の進化は、今あるものが便利になるだけではなく、これまでになかった新しいものを生み出す大きな力を持っている。5Gが普及すると、人間のコミュニケーション能力を大幅に上回る通信環境が構築されることになる。そうなると人間がコミュニケーションを行うための携帯電話機としての利用ではなく、AIやIoTなどの技術が生かされるプラットフォームとして威力を発揮することとなり、これまでになかった新しいものが生み出されるのであろう。時代が大きく変化するときには、大きなビジネスチャンスもあるのが常であるので、みなさんもこのチャンスをぜひ掴んでいただきたいと思います。 


■執筆者プロフィール

 池内 正晴(Masaharu Ikeuchi)

 学校法人聖パウロ学園

    光泉中学・高等学校

 ITコーディネータ