■はじめに
数年前から、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation。以下、DX)という言葉をよく聞くようになりました。
経済産業省が東京証券取引所と共同で「攻めのIT経営銘柄」を選定していたのですが、2020年から「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」に変え、ビジネスにITを活用する段階から、デジタル技術を前提として、顧客価値の実現、ビジネスモデルや組織、業務、企業文化・風土等の変革、新たな成長・競争力強化につなげていく段階へと切り替えが進んできています。
■DXとは
このDXについては、2004年に、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という定義がDXの用語の初出と言われています。
ただ、中小企業や地域企業で、このDXという考えが広く普及しているかというと、そうでもないようです。DXという言葉は聞いたことがあっても、それを指す中身や進め方について理解できていない企業も多々あります。
■DXを考える2つの視点「目的」「フェーズ」
DXを実現するにあたって、「目的」と「フェーズ」を考えることが必要です。
「目的」は、ITなどのテクノロジーを使って、どのような効果を得たいのか、という視点です。生産性向上なのか、コスト削減なのか、納期の短縮なのか、現場の見える化と言った現行ビジネスに立脚した効果なのか、新ビジネスの創出、価値基準の転換、スピードの加速と言った新しい価値を生み出すため効果なのかによって大別されます。
「フェーズ」は、自社がどこまでITを活用できているのかという成熟度になります。ITを活用した業務プロセスを構築することができているのか、人がやっている業務をITに置き換えることができているのか、業務とITをシームレスに連携できているのか、といった3つの成熟度に分け、自社の状況を理解することが必要です。
■DXをはじめる前に
DXと聞いて、新しいビジネスの創出と言われると尻込みをしてしまいますが、まずはITに慣れるためにも、「ITを活用した業務プロセスを構築する」ことから始めることが必要です。
とは言っても、最初のフェーズである「ITを活用した業務プロセスを構築する」こと自体、意外と難易度が高く、中小企業だけでなく、大企業であっても、ITを活用した業務プロセスを構築できず、人手をかけて作業をしているケースをよく見ます。
中小企業であれば、そもそも何をしてよいのかわからない、どういう風に進めていけばよいのかわからない、どのようなソリューションがあるのかわからない、と言った声をよく聞きます。大企業であれば、同一の業務を複数人で進めているため、業務のやり方が異なっており、業務の標準化ができていない(部署によってはExcelマクロなどで別の効率的なやり方を構築してしまっている)、ソリューション導入のために、社内の決裁を通すのにハードルが高いなどがあります。
個別の対応策については、言及しませんが、中小企業であっても、大企業であっても、「業務を変えていくという覚悟を持つこと」が、「ITを活用した業務プロセスを構築する」最初の一歩になります。
DX化の前に、まずはITを活用した業務を実施できるようにしていくこと。そのために、自身の業務を変えていくことからはじめ、少しずつDX化に近づいていけるようにしましょう。
■執筆者プロフィール
小笠原 知広(おがさわら ともひろ)
e-mail:t.ogasawara1101@gmail.com
中小企業診断士、ITコーディネーター、PMP(Project Management Professional)、TAM(ターンアラウンドマネージャー)。
大学卒業後、公益財団法人での事業統括、コンサルティング会社でのシステム導入の定着化支援、業務可視化、コストマネジメントの仕組み構築、業務改革等のBPRプロジェクトに従事。
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