音声で操作するということ / 積 高之

 前回、YouTubeの視聴年齢が上がってきたという話をしました。この段階では「元々のネイティブ世代の年齢が上がって来ている」というだけの話だったのですが、最近はさらに大人の視聴者が増えて来ています。それは「きちんと話を聞けるコンテンツ」を配信するユーチューバーが増えて来ているからです。

 

 最近、以下のチャンネルが人気を持ちはじめ、頻繁にアップロードされる動画が毎回数百万回再生されています。

・メンタリストDaigo 176万人

 https://www.youtube.com/user/mentalistdaigo

・中田敦彦のYouTube大学(非公開 100万人以上)

 https://www.youtube.com/channel/UCFo4kqllbcQ4nV83WCyraiw

・堀江貴文ホリエモン 80万人

 https://www.youtube.com/user/takaponjp

 

 これは、プレミアム機能でバックグランド再生の設定が可能になり、通勤などの移動時間にバッグの中に入れたまま音声だけを聞くことができるようになったことが大きいと思われます。このような聴取方法になると、しっかりと聞くに値する上記のようなコンテンツが歓迎されて来ているわけです。

 

 また、「音声だけのメディア」というものも台頭してきています。例えば、2018年後半頃からライブ感を高めている音声メディアが相次いでリリースされました。メディアによって選ばれた人がアカウントを開設でき、使い勝手のいい専用アプリで配信するVoicyや、逆に誰もが自分のチャンネルを配信可能なRadiotalk、こえのブログなど、さまざまな難易度とユーザー数のメディアプラットフォームがあり、コンテンツ発信側はその目的に応じて、ふさわしいプラットフォームを選ぶ事ができるようになって来ています。

 

 さらに音声入力デバイスも増えて来ました。思えば、昔のアニメや特撮のヒーローが自分のデバイスを通じてロボットやビークルへの指示を伝えるコマンドは「音声」でした。スーパージェッター(1965年~1966年)におけるエアカー型のハイチタン合金製タイムマシン流星号を呼び出すために、腕時計型デバイス「タイムストッパー」に呼びかけるコマンド、「流星号、流星号、応答せよ」や、ジャイアントロボ(1967年~1968年)で主人公草間大作が、ジャイアントロボを動かす命令(「行け!ジャイアントロボ!」など)も音声でした。当時、キーボードなどでのコマンド入力はまだまだ現実的ではなく、腕時計型のデバイスに至っては音声以外のコマンドは思いもつかなかっただろうし、物語でその設定をしたところで誰も理解は出来なかったのでしょう。本来、機械(やロボット)にコマンドを伝えるには、音声の方が自然だったわけです。

 

 最近ではAIスピーカーやスマホで、音声によって各種の装置に指示を与えることが珍しくなくなって来ました。「Alexa 電気消して」「OK Google 音楽かけて」「Hey Siri 今日の天気は ?」というコマンドが普通の生活に溶け込んでいる人もさほど珍しくなくなってきました。買い物を音声だけで行うことはまだ難しいですが、「購入履歴」から商品を選ぶのは簡単で、繰り返し注文するようなものは一部のワードだけでも購入することができ、便利です。

 

 コンテンツは益々パーソナライズされ、デジタルデバイス内では「自分の嗜好音」に包まれて生活するようになるかもしれません。自分の好きなメディアやパーソナリティ、ブランドが提供する世界観の中にいることを好み、必要な情報も同じテイストで流れて来としたらどうでしょう。例えば、自分の関係する業界だけの日経ニュースのBGMがジャック・ジョンソンで、セクシーな声を持つシンガー、シアラがニュースと自分の住んでいる街の天気予報を読み上げてくれる。目は庭で遊ぶペットの子鹿のピピンから離れない。

 その世界感の中に自然に「今半の黒毛和牛焼肉(もも)」430g[化粧箱入り」を食べたいかどうかという質問を、花澤香菜からされる。「食べる」と言っただけで、Amazonのカートに商品が入り、「チェックアウト」と言うだけで明日の夕食はすき焼きになる。冷蔵庫で冷えていたはずのビールがなくなっていることを知っているAmazonが指示を出した最寄りの酒屋からは、Uber EATSで冷えたビールが届く。

 体験そのものは完全にフィジカルなものですが、その廻りにあるテクノロジーが消費生活のすべてをシステムとして支え、人間は本能のままに自然に生活するだけで消費行動を起こし、ものやサービス、体験などを手に入れることができるわけです。

 

 こうなった時、消費者は人間本来が持っている欲望、たとえば「肉が食べたい」という欲望を口に出すだけで、適当なタイミングでそれが届き、食べることができる。このような体験は、音声というコミュニケーションの空間が必要であり、それはすでに始まりつつあるわけです。

 

[参考]

・コミュニケーションメディアの変化には積極的に対応しましょう/積高之

 https://www.itc-kyoto.jp/2019/08/05/コミュニケーションメディアの変化には積極的に対応しましょう-積-高之/

 


■執筆者プロフィール

 積 高之

 seki@sekioffice.jp

 株式会社 リリク シニアコンサルタント

 京都積事務所代表  ITコーディネータ・上級SNSエキスパート・上級ウェブ解析士  

 大手子供服SPA,酒販小売業チェーン,保険代理店 などの顧問・コンサルタントを歴任。