今回は中小企業の3大経営課題の一つと言われる組織の構造と運営、活性化を取り上げてみます。以下、多少抽象的な記述になりますが、読者の所属される組織の現況を思い浮かべながら一読いただけると幸いです。
新たな経営戦略を推進するにあたり、企業内に設営している複数の部署をどのように統廃合するかは重要な問題です。各部署の受け持っている業務には相互依存関係があるのが普通であり、企業全体としてのゴールを達成するために、それぞれの部署が対立したり自分の部署の利益のみを追求したりしないような仕組みを構築する必要があります。
一般的な組織構造論には、「コントロール」と「調整」という二つの解決指針があります。
コントロールの第一は、「権限による強制」です。これには、マネジャーに権限を与えることのほか、階層構造を明確にして下部組織を監督することも含みます。このような施策は、組織の置かれている市場環境が比較的安定しているときに有効に機能します。
二つ目のコントロールは、ルールやプログラムを作ることです。これにより、マネジャーによる意識的なコントロールがなくても、自動的にタスクが効率的に実行されることになります。
三つ目のコントロールは、コミュニケーションを円滑にするための物理的環境を整備することです。例えば、業務の相互依存性が強い部署同士を建物の同じフロアに配置したり、メンバーの情報交換を促すための休憩室や小規模な会議室を設置したり、部署間で共通の情報を参照するためのコミュニケーションシステムを構築する等です。ここで注意すべきは、部署内コミュニケーションの行い易さと部署間コミュニケーションの行い易さの間には、トレードオフ関係がある点です。つまり、部署内コミュニケーションが促進されると、その部署の結束力は強くなりますが、他部署との情報共有が疎かになりがちです。コミュニケーションを円滑にするための物理的環境は、どちらのタイプのコミュニケーションを戦略的に補完する必要があるかを常に考えて構築する必要があるのです。
四つ目のコントロールは、ワークフローにおいて重要な役割を持つ部署にコントロールパワーを持たせることです。これは、一つ目の戦略の階層構造による公式なコントロールではなく、水平関係における非公式なコントロールに位置付けられます。通常、部署の間には様々なコンフリクトが起こります。それぞれの部署に属するメンバーは、企業そのものではなく自分の部署に忠誠を誓うことがあり、それにより部署間の目的の不一致が起こることになります。ここで、特定の部署が他の部署にはない重要な情報(例えば、顧客や市場に関する情報等)を持つ場合、その部署が他の部署よりも強い発言力を持ち、他部署をコントロールするケースがあります。特定の部署が力を持つことで非効率が生じる側面もありますが、不必要なコンフリクトを軽減するという意味では、有効なコントロールにもなるのです。
組織統廃合のもう一つの要である調整については、二つの側面から考えてみましょう。
まず、ゴールの違いから生じる部署間コンフリクトをどのような手段で解決するかですが、以下の4つの方法があります。
1) 部署間の違いから目を背けてコンフリクト自身をうやむやにする。
2) 階層や権限によって命令を上から強制する。
3) 部署間で交渉させる。
4) 部署間の違いを議論させることで新たなイノベーションを模索する。
一般に、「調整」は「コントロール」よりもコストが掛かります。
通常は、1) < 2) < 3) < 4) という順番で組織構成員の統合コストが高くなります。
しかし、上述したようなコントロールがうまくいかない場合には、3)の部署間交渉や4)の部署間をまたいだ議論は有効に働くことがあるのです。
次に、従業員一人一人のゴールを企業のゴールとどのように統合するかという側面から調整を考えてみます。
第一に考えられるのは、上司が部下に影響を与えることによる強制的な統合です。これは、ルールに基づいた権力による解決策です。
二つ目は、これよりも非公式な仲間や同僚による影響力、プロパガンダによって企業組織としての一体感を形成する方法です。これは、権力を用いた統合に比べて、従業員は企業ゴールを自主的に受容するようになります。
三つ目は、研修や勉強会などを通じて従業員を再教育し、企業価値を植え付ける方法です。これを効果的に行うには、教育の中で従業員自ら自主的に考えさせたり、他の部署の異なる価値観を理解させたりすることが不可欠です。
企業の組織力統合のために取りうる方策として、ここでは代表的な例を見てきましたが、他にも報酬体系や職務デザインを通じた方法等、複数の解法があります。重要なのは、各方策が整合的に設計されていることであり、全体として企業の置かれている環境や技術特性に適応していることです。部署間の相互依存関係のレベル、環境の不確実性、企業サイズ、市場からのフィードバックのスピード等に応じて、これらの方法は柔軟に変更できるよう設計しておくことになります。
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
プライバシーマーク主任審査員、ITコーディネータ、中小企業診断士
e-mail: ohnakamura@gmail.com
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