本稿では関西電力グループの情報通信子会社の再編(2019年4月1日実施)における、社内システムの対応について紹介する。今回の後編では、主な業務システム対応の内容と移行手順、および今後の予定を紹介する。
[前編の振り返り]グループ会社再編と業務システム対応の概要
関西電力向けの情報通信に関する設備や要員を保有する3社(関西電力、その子会社のケイ・オプティコムと関電システムソリューションズ)は、ケイ・オプティコム(以下O社)の事業競争力の強化を目指し、関西電力(以下K社)が保有する社内LANなどの「通信サービス提供機能」をO社へ移管することとなった。また、情報通信事業のさらなる成長を目指し、S社が保有する「情報通信インフラ」や企業・自治体向けの「情報システム開発機能」をO社へ移管する。なお、今回の再編を契機にO社の商号を株式会社オプテージ(以下、新O社)に変更した。S社およびK社からO社(新O社)に業務が編入することに伴い、S社とO社の業務システムの対応が必要となるため、再編の18ケ月前からプロジェクトに着手した。
6. 主な業務システム対応
1) 会計業務系システム
S社の会計業務系システムは全てO社システムに一本化し、勘定科目や減価償却方法といった会計ルールはO社のルールに合わせることとした。組織再編後の(第一四半期における)財務諸表を正しく作成する財務会計を最優先とし、資産データ(主に固定資産)の変換・登録を実施した。管理会計においては予算の執行管理手順の統合を組織再編時の目標とし、事業の原価管理はS社の方式とO社の方式を当面は併用することとした。また、組織数の増加に伴い、新O社ではO社の「本部」と「部」の間にあらたに「部門」の階層を導入し、それに合わせて会計データの集約単位を追加するようにシステムを改修した。
他に、データ増加に備えてシステムの性能を改善した。アプリケーションの改修により画面のレスポンスおよびバッチ処理のスループットを改善した結果、CPUやメモリ等のサーバリソースの追加は不要となった。
2) 販売業務系システム
組織再編のポイントは、S社からO社への事業移管およびK社から移管される通信設備を用いたO社の(K社への)サービス提供(セール&リースバックと保守を組み合わせたサービス)の2つであるが、どちらも販売系業務システムに大きな影響を与えた。
(1) S社からO社への事業移管
S社からO社へ移管される事業はB2Bであり、その内訳は一般企業を中心とする約600社に69種のサービスを提供する一般サービス事業(受託SI、データセンター関連、クラウド、パッケージ販売他)、約200社を対象とするリース事業、関西電力グループ会社を中心とする約150社を対象にサービスを提供するグループサービス事業(Finder事業)である。
S社では、それら3事業ごとに契約情報に基づき料金を計算・請求を行う契約管理システム3つと、請求書を発行し売上債権を管理するための売上管理システムを保有していた。一方、O社はB2Bのサービス事業とリース事業それぞれについて契約管理~料金計算・請求~売上債権管理を支援する販売システム2つを保有していた。
S社のサービス販売システム(受委託管理システム)と売上管理システムはO社のサービス販売システムClarisへ一本化し、S社のリース販売システムと売上管理システムはO社のリース販売システムFACEに統合した。残るFinder事業販売システム(Finder課金システム)は特殊な機能を持っているため継続利用とした。
O社のClaris、FACEについてS社の販売業務を取り込むための改修要件を抽出した上で、必須要件と優先度の高い要件の計62件に対応した。主にサービス契約テンプレートと実契約情報の追加登録、各部署権限の変更、請求書フォーマットの追加、半期・四半期単位の請求といった改修を実施した。Finder課金システムは売上情報を整形してClarisへ連携するように改修した。
(2) K社から移管される通信設備を用いたO社のサービス提供
O社のサービス販売システムClarisにあらたに契約情報を登録した。納期を考慮して、組織再編時の暫定対応として30件程度に集約した契約情報を登録し、各契約の明細をEXCELで管理している。今後、恒久対応として通信回線単位に契約を登録する予定である。
3) 生産管理系システム
S社の主要事業の1つである受託SI事業においては、社員の直営作業の工数を管理することが必須である。S社では基幹システムである受委託管理システムが工数管理機能を持っていたが、O社ではEXCEL等を用いて手作業で直営作業工数を管理していた。システム対応の基本方針によるとシステムを廃止できない場合は継続利用することになるが、受委託管理システムには「大規模かつ複雑であり維持運用費用が高額」という問題があった。そこで、工数管理の機能のみを単独システムとして再構築することとした。
工数管理システムの要件定義を実施したところ、工数管理に加えてプロジェクトの収支管理と品質管理の要件があがった。実装方式としてスクラッチ開発とパッケージ開発を比較した結果、品質およびコストの面で優位なプロジェクト管理ツールを用いたパッケージ開発を選択した。
4) OA系システム
・メールシステム
社名変更(ケイ・オプティコム→オプテージ)に伴い、メールドメインをk-opti.comからoptage.co.jpに変更した。また、社員および常駐するパートナー企業社員の編入により社内メールのユーザが約1900名増加するため、メールボックスを増設した。
・ポータルサイト
社内ポータルサイトは、これまで各種ニーズに応じて建て増しを繰り返した結果、使いやすいとは言えなかった。そこで新会社発足のタイミングでデザインを刷新してユーザビリティを向上すると共に、旧O社と旧S社の情報に効率的にアクセスする動線を検討した。
7. 移行手順
システムの移行にあたって、トラブル等のリスクを考慮して以下の施策を実施した。
1) システムの順次リリース
3月末に全システムを一斉にリリースせず、2月下旬から順次リリースし、O社社員が改修済みシステムを実業務で利用することでバグ等を早期発見できるようにした。S社とK社から移行するデータについては、3月末に一斉に有効化した。ただし、2019年3月期の決算情報(B/S)は決算処理後の5月に移行した。
2) 精緻かつ柔軟なアカウント移行
ユーザーアカウント(所属コード、ユーザーID)とアクセス権限の移行計画を詳細に立案し、全システムの移行担当者と共有した。また、O社社員については、組織編制前後の両方の所属のアカウント情報を保持し、一部のシステムにおいてはログイン時に旧所属・新所属を選択できるようにした。
3) 手厚いユーザ教育
S社、K社から編入する部署では、可能な範囲で社内システム、社内インフラを先行で試用した。また、各部署の代表者を集めて説明会を実施し、部署内への展開とトラブル・問合せの対応窓口を担当してもらった。
8. まとめ
総額十億円を超えるプロジェクトとなったが、大きなトラブルなく、納期とおり完了できた。また、システムの廃止と一本化を優先する対応方針により、機能重複するシステムの保有を最小化し、社内システムのTCOを抑えることができた。
プロジェクトの成功要因は以下を考えている。
・システム対応の基本方針
納期─コストー品質の優先順位により、各システムの対応方法を廃止、一本化、継続利用の順に検討する旨の方針を経営層までオーソライズすることで納期の確保とTCOの低減に結び付けた。
・社内システムの改修要件と社内インフラの仕様の簡素化
社内システムの一本化および再構築においては、納期を確保するために改修要件を抑える必要があった。また、社内インフラにおいても追加機能の開発や工事を低減することが求められた。O社・S社・K社の経営層からトップダウンで業務WGに対し、システム要件とインフラ仕様の簡素化を要請いただくことで実現した。
・システム改修の体制
大規模な改修を要する会計業務系システム、販売業務系システム、OA系システムは、偶然であるが従来からO社がK社に維持運用を業務委託していた。したがって、改修における業務要件を正しく迅速に理解し、製造に結び付けることができた。また、S社事務所の一部が新O社の事務所になるため、社内システムと社内インフラの先行試用の環境をスムーズに準備できた。
[参考文献]
・ITC京都コラム「グループ会社再編における業務システム対応(前編)」
<https://www.itc-kyoto.jp/2019/04/22/グループ会社再編における業務システム対応-前編-岩本-元/>
・プレスリリース「関西電力および情報通信グループ会社の組織再編について」
<http://www.k-opti.com/press/2019/press08.html>
■執筆者プロフィール
岩本 元(いわもと はじめ)
ITコーディネータ、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)&情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、システム監査他)
企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築
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