●5月1日、日本は30年続いた「平成」から「令和」の時代を迎えました。物理的には、時間に切れ目がありませんので、なんら変化がないのですが、一つの時代が始まるという意味では心理的な節目となり、今後、社会がどのようになっていくのか、また自ら関与しているビジネスをどうしていくのか、を考える良い機会ではないでしょうか。
●その意味では、今世界がどのような状況なのか、を正しく理解しておく必要がありますが、一体、我々はどのくらい現状に対する知識があるのでしょう。もちろん、学校で習った知識、日々、新聞やテレビなどのマスコミから流される情報や、個別の人脈による生の情報から、それらの知識を得ているわけですが、これらは断片的なもの過ぎず、世界の全体像を正確に表しているとは限りません。
●最近、読んだ本で、この問題を鋭く指摘していたものがあります。「FACT FULNESS」。実は、この書籍、書店に平積みになっているのはよく見かけたのですが、なかなか手に取る機会がなく、先日ようやく読むことができました。内容は予想外に面白いものでした。
●世界の現状に対するクイズが、世界の有識者や専門家に対して出されるのですが、その正答率が、何も知らずにランダムに答えた時の確率を下回ることが多々ある事を、調査データのもとに論じた内容です。例えば、「世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年間でどう変わったか」。A. 約二倍、B. あまり変わらず、C. 約半分のどれでしょうか ?
●この問いの正答率は、日本で10%、他の先進国、例えばアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ドイツ、フランス等でも軒並み数%程度という、とても低い正答率とのこと。私も、アフリカやアジアの一部の貧困の状況をニュース等で目にしており、また、グローバル経済の影響で持てる国と持たざる国の格差が広がり、貧困層が拡大しているのではないか、と考えていましたが、正解は、C. の約半分。
●また次の質問はいかがでしょうか。「世界中の1歳児の中で、何らかの病気に対して予防接種を受けている子供の割合は ?」。A. 20%、B. 50%、C. 80%。正解は、C. 意外ではありませんか ?
●著者は、スエーデンの医師で公衆衛生の専門家です。ユニセフの仕事等で世界中に赴き、データ収集をした結果をもとに、我々の世界観が、如何に誤ったものであるのかを、データを基に指摘した事で有名になった人だそうです。そして彼の主張するところは、「世界は、この20年間で、加速的に良くなってきている」という事。それを、データを基に正しく認識しなければならないという事。貧困率、電気の利用率、携帯電話利用率、予防接種率を見ると、世界は確実に良くなってきており、我々がマスコミを通しての情報からイメージする貧困国や途上国のイメージは、一部の最貧層(一日の収入が2ドル以下、約10憶人)に当てはまるものの、その他の先進国以外の生活レベルは、すでに中流レベル(一日の収入が、2ドルから32ドル)に達しており、世界の大部分(約50億人)を占めているといいます。
●以上の内容は、言い換えれば、世界はこの20年間に急速に変化しているにもかかわらず、我々は、その現実を正確に理解していない、新聞社やダボス会議に出席する世界的な経営者でさえ、未だに、学校で学んだ知識や社会生活で経験的に学んだ知識に縛られているので、正しい世界像が見えていない。それを改善するには、多くの最新のデータに接し、それを読みこなし、現在の知識を絶えずアップデートする事が必要なのである、ということだと思います。
●確かに、我が身を振り返れば、世界情勢に関することでは、学校時代に習った事をそのまま、信じていることが多々あります。卑近な例では、最近起きたテロ事件の舞台となった、スリランカという国。この国を私は学校ではセイロンとして習いました。そのため、スリランカってどこの国 ? と質問した事があります。ビルマがミャンマーになり、バングラデシュがパキスタンになったこともその例です。
●またビジネス分野でも、BOP(base of the pyramid/bottom of the pyramid)ビジネス、すなわち経済ピラミッドの底辺にいる年間所得3000ドル以下の低所得者を対象にしたビジネスが今後有望とされています。これは、年間所得で分類した低所得者層の分布が、ピラミッド型をしている事を前提としています。しかしいまや、世界の年間所得分布はピラミッド型ではなく、中間層が最多の卵型に変化しているのであれば、それを再認識して、その状況に適した経営判断をすべきです。まさに、このマーケットは急速に実態が変化しているのですから。
●多くの経験を経ると、その経験が自信になり、またそれが成功体験であればあるほど、その経験や知識を正しいものと信じ、その上で多くの経営判断をしてしまいます。しかし、現代社会は、加速的に環境変化をしている世界であり、最新の正確なデータを収集し、それを自分なりに正しく判断しなければ、正確な経営判断ができない時代になっているのではないでしょうか。そのためにも、謙虚な「知識のアップデート」が不可欠であると再認識させられた著作でした。
参考)
・「ファクトフルネス」 オーラ・ロスリング他、日経BP社、2019
■執筆者プロフィール
馬塲 孝夫(ばんば たかお) (MBA)
ティーベイション株式会社 代表取締役社長
(兼)株式会社遠藤照明 取締役
e-mail: t-bamba@t-vation.com
◆技術経営(MOT)、産学連携、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報システムが専門です。
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