Uberの事例からデジタルトランスフォーメーションについて考える / 池内 正晴

1. はじめに

 2019年4月23日にUberとエムケイ株式会社の提携が発表され、京都でUberの自動車配車サービスが開始されることとなった。このUberの事例から、日本国内におけるデジタルトランスフォーメーションが社会に与える影響を考えてみたい。

 

2. Uberとは

 Uberはデジタルトランスフォーメーションの先進企業として、しばしば紹介される米国のウーバー・テクノロジーズ社の自動車配車サービスである。

 顧客はスマートフォンでUberアプリを使用して、自分の行きたい場所を指定して配車を希望すると、その時点で料金が明示されたうえで、配車される自動車およびそのドライバーの情報や現在地までの到着時間などが提示される。自動車が到着して乗車すると、ドライバーに行先の情報などが伝わっており、行先の説明をすることなく、目的地まで行くことができる。目的地に到着すると、料金はUberアプリを通じて決済され、ドライバーと金銭のやり取りをする必要もない。(チップを渡すことは可能であるが)

 ここまでの説明だけであれば、一般のタクシー配車サービスと変わりがないように見えるが、Uberで配車される自動車は、タクシー会社のタクシーではなく、事前にUberに登録したタクシー会社に属していない一般の個人が所有している自動車であるということである。

 タクシー会社が関与していない一般の個人によるドライバーの場合、対応や運転が粗雑であったり、法外な料金を請求されるのではという不安があるかもしれない。しかし、Uberの仕組みにより、料金決済がすべてアプリを経由することと、個人オークションサイトの出品者を評価する仕組みと同じように、利用者がドライバーの評価をすることができることより、不適切なドライバーを排除する仕組みを持ち、サービス品質を確保している。なお、利用者もドライバーから評価されているので、利用の仕方が適切でない利用者も排除されてしまう。

 これらの仕組みは、スマートフォンをはじめとするデジタル技術の活用が前提となっており、それらがなければ実現は不可能である。ゆえに、デジタルトランスフォーメーションの事例として、よく取り上げられるのである。

 

3. 日本におけるUber

 2014年より、東京でUberのサービスが開始された。しかし、日本で旅客自動車運送事業を行うためには、事業用自動車(緑ナンバー)と第2種運転免許をもったドライバーが必要となるため、米国で行われているような、一般個人ドライバーによるサービス提供は、いわゆる白タク行為となり、法規制により禁じられている。そのため、日本ではUberで配車されるのはタクシーに限られる。

 さらに、配車を希望した際に表示される料金についても、参考料金となる。日本ではタクシーの料金についても、その仕組みが法律等で定められており、自動車に備え付けられたメータにより距離・時間に応じて決められ、空港への送迎等で一部認められている定額制料金を除いて、乗車前に料金を決定することができないためである。

 米国では、ライバルであり対立関係にあるUberとタクシー事業者が、日本では協業でサービスを提供するという変わった構図になっており、その一つが今回のエムケイ株式会社との連携なのである。法規制により、日本においてはUberのサービスは、新しい移動手段の提供ではなく、既存のタクシー事業の配車システムが高度化されたものというのが、実態である。

 

4. Uberと日本の法規制

 このUberの事例は、日本国内での法規制が、新しいビジネスモデルの足かせになってしまっている一例であろう。これまでのタクシー事業に関する厳しい法規制により、安全で信頼できる交通システムとなってきたことも事実である。法規制により不適切な事業者を市場から排除する仕組みがしっかりとしていることが、海外と比較して事故やトラブルが少なく安心して利用できる要因の一つであることは間違いない。しかし、この法規制がタクシー業界自身の変革に対しても足かせになるぐらい厳しいものであるため、業界内部からも法改正の要求がでてくるようになり、一定範囲内での料金自由化などが行われるようになってきた。また先日、2019年秋からタクシーの事前料金確定も可能なるとの発表もあった。

 しかし、今後の法改正も既存のタクシー業界主導となれば、新規参入に対する障壁は無くならないどころか、場合によっては既得権を守るために厳しくなるという力が働く可能性もある。厳しい規制の要因となっている、不適切な事業者の排除については、デジタル技術により各ドライバーや事業者の評価をオープン化することにより、法規制に頼らずとも、市場原理により排除されるようになるのではなかろうか。

 

5. 地方におけるUberの事例

 日本で急速に進む少子高齢化により、特に地方の交通インフラ維持も大きな課題となりつつある。その対策としての規制緩和制度である「公共交通空白地有償運送」がある。これは一般旅客運送事業者による旅客輸送が困難な地域において、市町村やNPO法人による自家用自動車を使用した有償運送事業を認める制度である。

 京都府の京丹後市では、この制度を利用してNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が2016年より、ボランティアの地元住民がドライバーとして自家用車で有償運送する事業を行っており、その配車システムとしてUberが使用されている。この事業は開始から約3年たった現在でも継続されているが、ボランティアのドライバーのおかげで成り立っているという側面もあるため、地方の交通インフラ維持の手段として確立されるためには、行政の施策を含めた事業の発展が、これからの課題であると思われる。

 

6. まとめ

 デジタルトランスフォーメーションが進むことにより、これまで我々が当たり前だと思ってきた常識が覆されることが多くあるであろう。しかし法制度をはじめとする社会システムは、今までの常識を前提として造られているのが大半であろう。これから急速に進む少子高齢化による社会構造の変化においては、これまでの常識では対応できない状況が多く発生することは否めない。これから望ましい社会構造を考え、それを実現する手段の一つとして、このデジタルトランスフォーメーションの流れを積極的に取り入れることが必要ではなかろうか。

 


■執筆者プロフィール

 池内 正晴(Masaharu Ikeuchi)

 学校法人聖パウロ学園

     光泉中学・高等学校

 ITコーディネータ