グループ会社再編における業務システム対応(前編) / 岩本 元

 本稿では関西電力グループの情報通信子会社の再編(2019年4月1日実施)における、社内システムの対応について紹介する。今回は前半として業務システム対応の基本方針および要件定義内容、社内インフラの対応内容を説明する。

 

1. グループ会社再編の概要と業務システム対応の必要性

 従来、関西電力向けの情報通信に関する設備や要員は3社(関西電力、その子会社のケイ・オプティコムと関電システムソリューションズ)に分かれていたが、ケイ・オプティコム(以下O社)の事業競争力の強化を目指し、関西電力(以下K社)が保有する社内LANなどの「通信サービス提供機能」をO社へ移管するとともに、K社が保有する「情報システム開発機能」を関電システムソリューションズ(以下S社)に集約することとなった。これにより、O社の情報通信にかかる投資や業務の効率化を図る。また、情報通信事業のさらなる成長を目指し、クラウドやIoTに代表される情報と通信が一体のソリューションサービスをより迅速に提供するため、S社が保有する「情報通信インフラ」や企業・自治体向けの「情報システム開発機能」をO社へ移管する。なお、今回の再編を契機にO社の商号を株式会社オプテージ(以下、新O社)に、S社の商号を株式会社関電システムズ(以下、新S社)に変更した。

 再編を人・物・金の観点で説明すると、人「社員約1,300名の新規編入(K社から300名、S社から1,000名)、1,300名が携わる業務の編入」、物「19事業所の新設、大量の設備(固定資産)の譲渡」、金「事業の編入、財務諸表の統合」となり、いずれも業務システムの対応が重要となる。私は組織再編における業務システム対応の統括プロジェクトマネージャーとして、再編の18ケ月前からプロジェクトに着手した。

 

2. システム対応の基本方針

 S社およびK社からO社(新O社)に業務が編入することに伴い、S社とO社の業務システムの対応が必要となるため、その基本方針を示す。まず、業務システムの対応方法を「廃止」「一本化」「継続使用」「再構築」の4つに整理した。

(1) 廃止

 S社・K社の業務システムを使用せず、EXCELまたはACCESSを用いて業務を行う。

(2) 一本化

 O社の業務手順および業務システムを用いてS社・K社から編入する業務を実施する。S社・K社における業務手順に応じて業務システムの改修が発生する際は、必要最小限の範囲とする。

(3) 継続利用

 S社・K社の情報システムをO社のITインフラに移設して(O社の資産として)使用する。なお、S社・K社からの受託業務専用に使用する業務システムについては、S社またはK社の資産のままとし、それをO社(新O社)が借用する形で継続利用することも考える。

(4) 再構築

 継続利用する対象の業務システムの規模が極めて大きい場合や、それに付随する業務手順がO社において実施困難な場合、O社の資産として業務システムを再構築する。ただし、短納期を考慮してパッケージをカスタマイズせずに導入する等の措置が必要となる。

 

 本プロジェクトでは、プロジェクト管理における基本的な要件(管理項目)であるQCDのうち、2019年4月(再編時)における業務継続性の確保すること(納期)を最優先とし、続いて業務を継続するための機能を業務システムが提供できること(品質)を優先とした。したがって、システム対応としては業務の「廃止」を検討し、できなければ業務をO社に合わせる「一本化」を基本とする。ただし、当該業務がO社に存在しない場合のようにS社・K社から編入する業務に支障が出る場合は「継続利用」を適用可能とした。ただし、上記のように「継続利用」に大きな問題がある一部のケースでは「再構築」を適用した。

 

3. システムの棚卸し

 S社およびK社の業務システムの棚卸しを実施し、基本方針に基づいて、各システムの対応を判定した。棚卸しに際し、業務システムを基幹システム等に分類した。

1) S社システムの棚卸し結果

(1) 基幹システム 51システム

 会計業務系システム(財務会計、管理会計、購買):15システムについては、O社の会計ルールと業務手順を適用するため廃止または一本化する。

 販売業務系システム(営業、契約、請求):5システムについては、4システムを一本化/1システムを継続利用する。

 生産業務系システム:8システムについては、O社にとっての新業務(受託SI他)をサポートするシステムであり、1システムを継続利用し、7システムを廃止しその必要機能を1システム(パッケージソフト)にまとめる形で再構築する。

 他は総務業務系システム(人事、労務、庶務)であるが、詳細は割愛する。

(2) OA系システム 14システム

 メールシステム、ファイルサーバ、ポータルシステム、会議システム等がある。S社、O社共に汎用製品を利用しており、1システムを廃止/11システムを一本化/1システムを継続利用する。

(3) インフラ系システム 21システム

 社内ネットワーク、クライアント端末(パソコン、タブレット)、情報システムおよびITインフラの監視システム等がある。S社、O社共に汎用製品を利用しており、7システムを廃止/11システムを一本化/3システムを継続利用する。

(4) セキュリティ系システム 19システム

 マルウェア対策システム、アンチスパム、ログ管理システム等があり、詳細は割愛する。

(5) その他 19システム、

 社内SNS、DWHおよびBIなどがある。10システムを廃止/4システムを一本化/5システムを継続利用する。

(6) 全体 124システム

 廃止:31システム、一本化:60システム、継続利用:23システム、再構築:2システムとなり、廃止と継続利用の合計が91システム(79%)と基本方針が実践されている。

 

2) K社システムの棚卸し結果

 K社からO社に移管する業務は通信設備の構築と維持運用の業務であり、編入する社員数は約300名とS社からの編入と比較して少ない。そこで、通信設備系システムのみを対応検討し、それ以外の全社共通システムについては、O社の業務システムをそのまま利用すること(一本化)を基本とする。

(1) 通信設備系システム 47システム

 K社においては送配電設備の工事積算システムを用いて、通信設備の工事積算を行っている。このとき使用しているのは一部の機能であるため、Accessで代替して廃止する。また、情報共有のための掲示板システムについてはO社のシステムへの一本化が割と容易である。最後に、従来からK社はO社の業務システムを借用して通信設備の設計業務を実施しており、継続利用の対象となる。また、再構築すべきシステムがあるが、短納期を考慮して暫定的に借用(継続利用)することとした。

 上記の様に整理した結果、9システムを廃止/13システムを一本化/25システムを継続利用となった。

(2) その他 2システム

 重要性が低いため、廃止する。

  

4. システム対応の進め方

1) 体制

 プロジェクトを推進するにあたり、S社システム統合作業会、K社システム統合作業会、社内インフラ統合作業会の3つを設置した。各作業会は、主にO社の社内IT部門のメンバーから構成する。

 また、S社・K社・O社の主要な業務部門が業務ワーキング(以下、業務WG)を構成し、再編時の業務統合にあたっての重要課題を検討することとなった。業務WGには業務システムの対応にあたり、主管部としての役割も担うよう依頼した。

 

2) 業務システムの対応内容の調整と要件定義

 プロジェクト事務局が作成した各システムの対応案(廃止/一本化/継続利用/再構築)を業務WGを介してS社・K社の業務部門(ユーザ)に提示した。再編対応の納期が短いことを説明、理解いただいた上で、概ね対応案のとおりの了解を得た。一部のシステムについては調整の結果、継続利用から廃止、廃止から継続使用へ変更した。

 また、一本化および再構築の対象システムについては、業務WGにおいて再編までに対応する必要最小の要件を定義いただいた。再編までに対応しない要件は、残案件として記録することとした。

 

5. 社内インフラ対応

 棚卸しにおいてインフラ系システムと分類したもののうち、以下については純粋なITインフラとして、社内インフラ作業会にて対応する。

1) 社内ネットワーク

 あらたな19拠点(事業所)にLANを設置し、WANでデータセンター拠点に接続する。重要な拠点におけるネットワーク機器は冗長構成とし、必要な場合は電源の増強工事を実施する。

 

2) クライアント端末

 あらたな社員の約1,300名および委託先のうち約100名にクライアント端末を配備する。従来からO社では全社員にシンクライアント端末とVDIを組み合わせて配備していたため、その両方を増設することとした。また、O社の既設VDIのOSはWindow7であったが、増設VDIのOSは2010年1月のWindow7サポート終了を受け、Windows10を先行導入する。

 

3) 電話端末

 O社ではPHSを用いたソフトバンク社のFMC(Fixed and Mobile Convergence)サービスを内線電話として利用していたが、O社が法人向けに提供予定のスマートフォンアプリによる内線電話サービスを自社に先行導入することとした。したがって、あらたな社員の約1,300名にはスマートフォンを配備する。また、スマートフォンの管理のためEMM(Enterprise Mobile Management)システムを導入する。

 

 後編では、業務システム対応の具体的な内容および移行手順について紹介する。

 

[参考文献]

・オプテージ社ホームページ

 https://optage.co.jp/

・プレスリリース「関西電力および情報通信グループ会社の組織再編について」

 http://www.k-opti.com/press/2019/press08.html

・ソフトバンクFMCソリューション

 https://www.softbank.jp/biz/mobile/fmc/

・今更聞けない「MDM」「MAM」「MIM」の違いとは? EMMの3大要素を比較

 https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1704/16/news01.html

 


■執筆者プロフィール

 岩本 元(いわもと はじめ)

 ITコーディネータ、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)

 &情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、システム監査他)

 企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援