顧客視点の価値提案その1 空港ラウンジ (3) / 丸山 幸宏

◆まえがき:Before/現在改装中/After

(前回の続き)過去2回にわたって空港ラウンジを題材にしてきましたが、今回がたぶん最終話です。実はいつも利用しているラウンジが順次改装中で、まだ完成していないのですが、とても素敵にリニューアルしているところも最後に触れますね。

 

◆論点:丸と四角

 空港ラウンジで、どんな価値提案の工夫が求められているのか ? 前回までは利用者のジャーニー分析でシーンを分解してきましたが、今回は「顧客のプロファイリング(丸)」と「提案する価値のマッピング(四角)」のバリュー・プロポジション・デザインの文法で整理します。

 

 顧客のプロファイリングは以下3つ。

  1. JOB(大事にしていること)

  2. PAIN(チクチク・シクシクすること)

  3. GAIN(ワクワク・ドキドキすること)

 

 提案する価値のマッピングは以下3つ。

  4. PAINを緩和・除去する処方箋

  5. GAINを促進・達成する処方箋

  6. 処方箋の素材目録(もの・こと)

 

◆本文

(0) ジャーニー分析によるシーン分解

 過去2回のメルマガにて、以下のシーンで整理しました。

  1) 受付

  2) 席を得る

  3) 飲食物を得る

  4) 食器を返す

  5) 読み物を得る

  6) 待ち時間をたのしむ

  7) その他

 

(1) JOB

 私が大事にしていることは「ストレスフリー」ですね。毎週のように関西の自宅と東京の事務所の間を移動しており、状況によってはラウンジをサテライトオフィスのようにも使いますが、等しく抽出できる要求は、やはりストレスを感じたくないということです。

 

(2) PAIN

 私のPAINは、思わず強いられること。例えば、「動線がクロスしていて立ち止まる」とか、「配置がまずくて局所的な待ち行列にハマる」とか、「暗くて雑誌が読めない」とか、構えて期待していないところで「なんだかなぁー」と普通が思い通りにならないことです。

 「動線クロス」は、駅からの動線はスペースが許せば日本標準の左側通行なので、登るときは自分が選択するエスカレーターは左側で、右側は選べない降りる側です。ところが、ラウンジ受付への登りエスカレーターは右側通行で、ゲートやラウンジの出入り口の方向との兼ね合いで、ラウンジから出て来て降りる人達と上下のフロアでクロスします。

 ラウンジの場合、動線設計次第で多くのPAINが緩和されるはずだと思うのに、そうならないのは、自分がピークタイムばかり使っているからかも知れません。

 

(3) GAIN

 出稼ぎ拠点の事務所と自宅の往復とは言え、やはり旅は旅。私のGAINは、少しだけスペシャルな感じがあると、めっちゃ嬉しいんですね。例えば、おにぎりやスープに「季節や土地の匂い」とか、お酒に「知らない銘柄」とか、高価なものでなくても、旅の文脈でなんかスペシャルな感じさえあれば。

 旅の途中のひとときを、リラックスして過してくださいねっていうおもてなしもしかり、ひっきりなしに小さなワゴンの返却食器をガチャガチャ回収ばかりしている給仕の方々が、もう少しだけフロアに気持ちを割く余裕が増えたらなぁって思うことありますね。

 

(4) PAINへの処方箋

 「動線クロス」には、空港全体でデザインして、海外や関西の人たちみんなが自然に感じるように、ガイドをもっと多用して、お節介して欲しいです。エスカレーターを歩かないのと同じで慣れでしょうから。

 ラウンジ内の「動線クロス」には、1本にしないというのが有効です。もちろん通路が広い前提ですが、右回りでも左回りでも目的地に行けるように選択できる動線にします。また、棚への動線も同じで、特定のものだけ取りたいときは、その棚へダイレクトにアクセスできるように配置や空きスペースを工夫します。

 「暗くて困る」には、個別照明に頼りすぎずに、間接含めた全体照明で部屋全体を読書に足る照度で設計します。流行りのカフェのように。

 

(5) GAINへの処方箋

 オープン当初は、コンビニ系食品会社のおにぎりを提供していてクオリティが高かったんですが、程なく業者が変わってあれ~っておにぎりが長らく続いて、最近ようやく我らがソウルフードに工夫が戻って来ました。

 例えば、沖縄だと、もずくのスープやパパイヤのスープに始まって、じゅーしぃの焼きおにぎりや紅芋のあんぱん他いろいろ。お酒はオリオンビールに琉球泡盛と沖縄三昧。地方空港のラウンジは、その土地らしさに工夫を凝らしています。

 東京や大阪の空港でも、以前は販売促進の一環で色んな酒蔵のお酒を特設カウンターで頻繁に提供されていたのですが、ここ最近随分と減ってしまいました。どんな形であれ、旅は新たな発見に満ちていて欲しいもの、何でもよいので「ワクワク・ドキドキ」するもの、工夫してもらえたらいいなぁ。

 旅する人々が、心寄せ合う場のような集う場としてのおもてなしみたいな、カフェの丸テーブルやバーの樽テーブルのような演出ができるとおもしろいと思います。

 

(6) 元になるもの・こと

 5年以上のリニューアルの周期で登場する空間設計の専門家や、内装などの各カテゴリーで腕を振るう専門家も、ピークとアイドルタイムの変遷や、利用者の変化に直接対応するわけではありません。しかるに運用中に、常駐が難しくとも空間設計や動線設計のプロの目をもう少し取り入れる工夫はできると思います。もちろん、CXの専門家も、この「おもてなしの探求」という継続的な改善であり時にイノベーティブな活動に加わって欲しいと思います。

 また、「ピーク時はしょうがない」というのも合理的選択で、私のPAINが増えているのも実は合点のいく話なんですね。ピーク時に合わせた設計はToo MuchでROIなどの効率性をスポイルしますから。

 しかしながら、価値提案のほんとうの狙い次第では、実はひとつひとつの出来事に大事なことが託されていて、ブランドに対するロイヤルティみたいなものを育むものかも知れない。そう、先日利用した沖縄のラウンジは、「また是非沖縄に来たい」って気持ちのまま見送ってくれたようでよかったなぁ。

 

◆あとがき

 冒頭で触れましたが、いつも利用している羽田のラウンジが、区画ごとに分けて営業しながらリニューアルを実施中です。これまで触れたPAIN/GAINにも多くの工夫がされ始めています。

 特に「カフェの心地よさ」が家具と内装で作り込まれている点で、シートがとても良くなりましたし、照明もどこに座っても読書には困らなくなりました。それと「動線クロス」が、食器を返却する平面が以前の10倍位に増えたことで返却する人の動線が分散していました。そうそう、スープと味噌汁も、それぞれにアクセスできるようになっていました!

 

(参考文献)

・バリュー・プロポジション・デザイン  顧客が欲しがる製品やサービスを創る

 https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00V9M5R7E

・顧客視点の価値提案その1 空港ラウンジ (1)

 https://www.itc-kyoto.jp/2018/07/02/顧客視点の価値提案その1-空港ラウンジ-丸山-幸宏/

・顧客視点の価値提案その1 空港ラウンジ (2)

 https://www.itc-kyoto.jp/2018/11/19/顧客視点の価値提案その1-空港ラウンジ-2-丸山-幸宏/


■執筆者プロフィール

 Principal Consultant

 Yukihiro MARUYAMA(丸山 幸宏)

 ITC(0015202003C), IT-CMF(Tier3)

 Business Design TSUMUGi LLC

 ボスはお客さま。夢は外から地球を眺めること。

 得意分野は、グローバルなソーシングやガバナンス、エンタープライズでのBPMやEAMと、デジタルトランスフォーメーションの推進。

 ymaru.tsumugi@gmail.com

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