明けましておめでとうございます.
新年にあたり謹んで皆様の益々のご発展をお祈り致します.
平成最後の年の最初のコラムは,僭越ながら私が担当させていただくことになりました.いつものように拙い文章になりますが,よろしくお願いします.
■マイ・フェア・レディ
マイ・フェア・レディは,元々はブロードウェイのミュージカルだったそうです.1964年にオードリー・ヘプバーン主演でミュージカル映画としてハリウッドが作成しました.アカデミー作品賞を受賞しています.
ヒギンズ教授は,コクニー訛りの酷い花売り娘のイライザ(オードリー・ヘップバーン)の訛りを直すことで上流階級のレディに仕立て上げられるか,友人のピカリング大佐と賭けをします.イライザは訛りを直して上流階級の仲間入りを果たして…プリティ・ウーマンにちょっと似た,「シンデレラ・ストーリー」です.ハリウッド映画ですが,イギリスの階級社会を上手く描いているように思います.
■階級社会
残念ながら,私はかろうじてオーストラリア訛りとかが分かるくらいで,英語の訛りを聞き分ける語学力はありません.「クロコダイル・ダンディ」という映画の中では主人公がオーストラリア訛りの英語を話していて面白かったですが,マイ・フェア・レディーの面白さをちゃんと理解しているとは思えません.それが分かると面白みが増すと思います.
私はイギリスの冒険小説が好きなのですが,その中でも訛りで出身地を推測するシーンがよく出てきます.高尾慶子さんというイギリス在住の方の一連の本を読むと,イギリスでは階級によって言葉使いだけでなく,体格から顔つきまで違うそうです.
確かにイギリス映画とか観ていると,ビール腹の労働者階級とガッチリとして長身の中産~上流階級が典型的に描き分けられているように思います.昔々「小さな恋のメロディ」を見たときにもそんな風に思いました.
■ブルーオーシャン戦略
競合相手がいない市場でビジネスを展開することを「ブルーオーシャン戦略」と言います.この場合,第一の問題は「競合相手がいない市場」をどのように見つけるかです.
ビジネスは「マス」「ボリューム」に目が行きがちです.
特に日本の場合,その傾向が強い感じがします.多くの商品やサービスは,ボリューム・ゾーンを狙っていて,その「レッド・オーシャン」の中で身を削って戦っているように見えます.相当「高級」なホテルや旅館でも,ボリューム・ゾーンの上側の人が「無理すればたまには行ける」レベルになっているように思います.
ジニ係数というのがあります.全ての収入が一人に集中している場合は1に,全員が同じ収入だと0になります.ジニ係数が0.5を超えると,暴動が起こりやすくなるといわれています.国際統計格付センターのHPによれば,日本のジニ係数は0.38(2011年)で,米国0.45(2007年)中国0.47(2013年)となっています.世界的に格差は広がっていますので,この値は大きくなっていると思います.
1970年代,日本は「一億総中流」と言われました.イーズ未来共創フォーラムのHPによれば1972年のジニ係数は,当初所得で0.35,所得再配分後で0.31です.同じHPによれば,2014年のジニ係数は,当初所得で0.57,所得再配分後で0.38です.このように日本の場合「中流」は,相対評価だと思います.普通は絶対評価なので,中流階級や中産階級以上の人はおそらく5%もいないのではと思います.
以前,邱永漢氏だったと思いますが「自分の資産がどれくらいあるか分かる人は,本当の金持ちではない」と言っていました.確かに,世界には考えられないくらいのお金持ちがいます.F1モナコグランプリを(TVで)見ると,大型のクルーザーが港を埋めています.こういった大型クルーザーの維持費は,プライベートジェットよりも高額になると思います.現在,日本はインバウンドで浮かれていますが,こういった大型クルーザーを所有するような本当のお金持ちが来日してくれているかというと疑問です.
我々は旅行に行くときに予算の「上限」を決めますが,こういったお金持ちは予算の「下限」を設定するようです.人口のパーセント的には,小数点以下にゼロがいくつも並ぶくらいの小数でしょうが,可処分所得が圧倒的に大きくリピート率も高いので顧客として獲得できれば十分ビジネスになると思います.港や街を丸々一つそういった形に改造する必要がありますが,モンテカルロやカンヌ,ニースを(TVで)見るとこういったお金持ち以外にも一般の観光客が来ていますので,波及効果もあると思います.莫大な資本投下が必要ですが,一つの「ブルーオーシャン」だと思います.
■セグメンテーション
以前,我が家には視聴率の測定装置が付いていました.その時にちょっと調べたのですが,一般的な個人視聴率の集計では以下の区分を使うそうです.
男性
M1層=男性20~34歳
M2層=男性35~49歳
M3層=男性50歳以上
女性
F1層=女性20~34歳
F2層=女性35~49歳
F3層=女性50歳以上
C層=4-12歳の男女(CはChildの意味)
T層=13-19歳の男女(TはTeenager(ティーンエイジャー)の意味)
例えば「F1層の視聴率の高い番組」にCMを打つとかはできますが,この分類では粗すぎるので自分が狙っている本当の顧客への訴求効果が見えません.ブルーオーシャン戦略として「競合相手がいない市場」を探すには,もっと細かい分類・分析が必要です.
「競合相手がいない市場」を探すには,前述のように社会階級をもっと細かく分割して,顧客(市場)を探すこともできます.
「ゼクシィ」という結婚情報誌があります.リクルートからこの雑誌が出版されたときに「上手いな」と思いました.普通の雑誌は,継続して購入してもらうことを中心とした誌面作りをしています.しかし結婚しようとしている人は一定の割合でいますので,読者は毎年のように次々に出てきます.
長期にわたって継続して購入してもらおうと思うと,同じような記事を何度も続けるわけにはいきません.しかし結婚情報誌だと,平均購読期間を超えたら同じ記事が載せられます…楽です(笑)
しかもCMが載せられますので,スポンサーが集めやすいといった利点もあります.普通の雑誌は,出版にかかる費用はほぼ広告で賄います.このスポンサーが集めやすいという利点は大きいと思います.
昔「小学一年生」とか「蛍雪時代」とかの雑誌がありましたが,人生の一時期を切り取って,その時期に必要な情報を提供する雑誌というのも一つのブルーオーシャンだなと思います.同じ発想で,ベネッセから「たまごクラブ」「ひよこクラブ」とかも出ていますが,就活情報誌のノウハウがあるリクルートの方が一枚上手のように思います.
そのうち「終活情報誌」が発売されるかも知れませんね.
このように,社会階層を細分化する,人生のある時期を切り出すといった方法で顧客のセグメンテーションを考えることができそうです.他にも住んでいる場所や仕事の場所,移動方法等もセグメンテーションの要素になります.ざっくりいうと5W1Hで考えられます.
「いいちこ」という焼酎があります.三和酒類という会社が作っていて,CMが美しいです.以前,三和酒類の社長のお話を聞く機会があったのですが,このCMデザイナーさんが社長との会話のなかで「御社のライバル企業は ?」と聞かれたそうです.社長は「キリンビールさんとかアサヒビールさんとか…」と答えられたそうですが,デザイナーさんは「御社のライバルはトヨタや日産です.自動車を運転している人は,お酒が飲めませんから」と答えられたそうです.
その結果「いいちこ」のCMは路面にはなく,列車の中吊りと駅の構内を中心としています.
■経営戦略を考える
ITコーディネータでは,経営戦略を立てるときにSWOT分析やユーザーエクスペリエンスという手法を使います.どれも決して難しいものではありません(経営戦略を考えるときに難しい手法は使い物になりません)が,対象としている顧客を明確にイメージできていないと,上手くいきません.
何度かIT経営のセミナーで講師を務めましたが,どうもこの顧客をイメージするということが上手くいかない方が多いような気がします.前述のように5W1Hでセグメント分けをして,まずイメージを作ることが必要なように思います.上手くセグメンテーションができれば,ブルーオーシャンを見つけることもできそうです.
個人的にはペルソナという手法が好きです.この手法だと顧客を完全にイメージできますが…残念ながらプライベートで大型のクルーザーを所有して,ニースやモンテカルロで遊ぶ人の生活はイメージできません.どなたか招待してください(笑)
最後になりましたが,本年もITコーディネータ京都をよろしくお願い致します.
参考資料
1) 「マイ・フェア・レディ」 DVD
2) 「イギリス人はおかしい」「イギリス人はしたたか」他 高尾 慶子
3) 国際統計格付センター
4) イーズ未来共創フォーラム
https://www.es-inc.jp/index.html
5) MarketingPedia (マーケティング用語集Wiki)
https://marketingis.jp/wiki/M1%E3%83%BBF1
■執筆者プロフィール
上原 守
ITC,CISA,CISM,ISMS審査員補,情報処理安全確保支援士
IPA プロジェクトマネージャ,システム監査技術者 他
エンドユーザ,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています.
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