デジタルトランスフォーメーション ~ビジネスでのデータ活用のステップ~ /杉村 麻記子

いよいよ、平成最後の年末・お正月を迎えることになりました。

皆様にとっての平成30年間はどのような年でありましたか ?

 

私自身はこの平成時代を大学生、社会人として過ごしました。

パソコン、携帯電話が普及し始め、インターネットの発展によりグローバルでの情報の流れが加速化しました。SNS、スマホが普及しこの年代に生まれた子供はデジタルネイティブと呼ばれるようになりました。

このように個人の生活は大きく変わりましたが、企業経営でのデジタル化は進展したのでしょうか?

 

一般社団法人日本 情報システム・ユーザー協会の「デジタル化の取り組みに関する調査(2018.5.23)」によると、デジタル化の進展に向けて日本企業の取り組みは欧米企業に対して

 圧倒的に遅れている 39.4%(2016年) → 45.5%(2017年)

 多少遅れている   50.0%(2016年) → 35.8%(2017年)

と1年間でさらに水をあけられたという認識が強いようです。

 

AIやIoTという最新技術の活用に注目が集まる中で、実態はデータを活用してみたいものの着手ができていないという状況のようです。大手企業においても案外進んでいないというところもあります。ビジネスでデータを活用した経営を進めるためにはいくつかのStepを踏んで進めていく必要があります。そのStepとは以下のようなものです。

 

 Step1:データを集める・ためる

 Step2:見る・知る

 Step3:探る・予測する

 Step4:最適化・制御へ

 

Step1:データを集める・ためる

 “今”起きている状態を把握し、分析するためにはデータが必要です。工場内であれば生産状況や設備・機械の状況など様々なデータが存在します。店舗であれば商品別の売り上げや原価、顧客とのやり取りの記録などが蓄積されています。

 データとして記録されていないもの、把握できていないものは、改善活動などにつなげることはできません。データ活用の第一歩は、できる限り自動的にデータを収集できるようなしくみを入れるなどの工夫をすることです。

 また社内だけではなく、外部の情報(気象情報、SNS、交通・鉄道情報、Blog等)を活用すれば、社内では不足している情報を補完することができます。

 

Step2:みる・知る

 集めたデータを目的に合わせて、様々な切り口から見れば、潜在的な課題を見つけたり、新しい改善提案、付加価値創造につなげることができます。例えば、製造工程における加工条件、設備稼働状態等と過去の生産実績を組み合わせれば、どの製造工程に課題があり、そのときの加工条件や設備はどのような状態にあったのかを知ることができます。このように現状を知れば、次のアクションにつなげることができます。

 データをみるアプローチには、「仮説検証型アプローチ」と「探索型アプローチ」の2つの方法があり、状況や目的に応じて使い分けます。これらの2つのアプローチについては後述します。

 

Step3:探る・予測する・識別する

 データを集めて、中身を知ったあとは、現場では気づかないような新しい事実を探索し、今後どうなるかを予測できればそれに基づき必要な行動が取れます。最も注目されている段階だといえるでしょう。

 この「探る・予測する・識別する」Stepでは、データ分析や機械学習、深層学習などの手法を用います。

 例えば、生産設備に蓄積された情報から、異常状態の兆候を掴み、壊れるまでに保全するといったデータ活用は、製造現場で取り組んでいきたいテーマとして挙げられます。

 製品の検査工程で、カメラから取得した画像を分析しそれが正常か、異常かなどを識別分類することもデータ分析の目的として取り組む企業が増えてきています。

 マーケティングの例であれば、どのお客様に販促のクーポンを配布したら、来店や購買額が増えるのかといったマーケティングの領域でも予測が重要となります。

 

Step4:最適化・制御

 予測や識別ができるようになれば、そのモデルを使い、条件に合わせて制御を行います。

 例えば、生産設備の情報をリアルタイムに集めて予測をし、もし何らかの異常を検知したらそれに対して最適な制御を自動的に行うことができれば、人による監視がなくても生産の効率や品質を最適な状態に持っていくことができます。

 車の自動運転では、自動車に搭載されたカメラやミリ波レーダーなどのセンサー情報から、画像データ、数値データを使って瞬時に分析をして、AIがアクセルや、ブレーキ、ハンドルなどの操作を自動制御するというものです。

 

冒頭に記述した「日本企業におけるデジタル化の進展が欧米に大いに遅れている」というのは、このStepを切り口とした場合の成熟度が低いということでしょうか?

Step3やStep4というのは、高度な取り組みであることは間違いないです。ただ多くの日本企業が、まだStep1やStep2の段階にとどまっているというのが現状ではないでしょうか?

 

早急に取り組みを始めないと、欧米やAI大国となった中国などにどんどんと水をあけられてしまいます。

とはいえ、データがないからまずはデータをためましょう・・では、なかなか前に進めません。もしかすると社内にはそれなりにデータがたまっているけどうまく使えていないといったこともあるかもしれません。

社内でのデータ活用を促すために2つのアプローチ方法で進めてみることです。

 

1. 仮説検証型アプローチ

2. 探索型アプローチ

 

仮説検証型アプローチとは、社内のだれかが持つ仮説をデータによって正しいかどうかを検証するアプローチです。例えば、「京都を訪れる外国人観光客は、ここ数年リピータが増えた。静かな京都の雰囲気を楽しみたいと思っている人が多いので、混雑している観光地ではなく、限定公開されている観光地を回るツアーが人気だ。過去3年間のデータを比較してその内容を検証する。」といったものです。

その仮説を検証するために必要なデータが足りなければ、代替するものを探したり取得する方法を検討します。そのデータを集計し、仮説通りの傾向があるのかどうかを確認します。

探索型アプローチとは、すでにあるデータを使って様々な切り口から眺めてみることで、目的や仮説を生み出すものです。様々な切り口とは、日時や製品別、お客様別、同じ共通点をもつグループに分類できるものです。

製品の品質に問題があれば、それが発生した日時や設備、製品の分類、担当者等ごとに歩留まりをみてどこに問題の根本があるかを探索します。製造現場のQC活動ではごく当たり前に行われている活動です。これをデータ活用しながら実践します。

 

これらの「Step2:みる・知る」段階での2つアプローチは、どちらかのみをすればいいのではなく、双方をうまく組み合わせながらデータ分析を進めることが大切です。

AIやIoTといった言葉に踊らされるのではなく、まずはこの活動を何度も進めていくことで、ビジネスの様々なシーンでデータ活用といった意識や習慣を醸成することが大切です。そこで初めてさらなる高度な分析や予測、制御や最適化といったStepに進むことができるのではないでしょうか?

 

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■執筆者プロフィール

 

杉村 麻記子

ITコーディネータ・中小企業診断士