昨年からまとめサイト、キュレーションサイト、リンク税、リーチサイトなど、聞きなれない言葉がインターネットやニュースで飛び交いました。これらはすべて著作権に関係するもので、デジタル時代を象徴するように著作権のありかたが今大きく変わろうとしています。インターネットの普及と共に海賊版の反乱で作家や音楽家などの権利が侵害されるケースが増えています。FANGに代表される巨大プラットフォーマーの増大に対して危機感を抱き、これを規制しようする各国の動きもあります。ビックデータ、AIの登場でこれらのテクノロジーをさらに発展させるようとする試みもあります。著作権は、もともと18世紀初頭のイギリスにおいて、印刷技術の独占権として発生したと言われています。これには諸説あるようですが、無秩序に本が複写されることを問題視した国王が、ライセンスに関する法律を制定したことが始まりと言われています。インターネットが爆発的に普及した今日に至ってはITを使って簡単に著作物をコピーすることができ、リンクの形で自由に引用することが可能になりました。この権利自体は、莫大な利益を生み出す源泉となることから、国家が税収を上げるため介入する傾向も見られます。今後の著作権がどのように変容していくか分かりませんが、最近の動向をウォッチすることで今後の流れを予想することは可能と考えます。以下、最近の状況を見ていきます。
1. EU著作権指令の改正案
今年9月12日に、欧州議会は、EU内のインターネットに関連する著作権指令の改正案を可決しました。その改正案には、反対の声も多く上がっていた「アップロードフィルター/著作権フィルター」や「リンク税」も一部変更のうえ盛り込まれています。これは、FANGを代表する米国発の巨大IT企業が提供するプラットフォームビジネスに影響を与えると考えられています。今回の改正により、欧州のプライバシー規制「一般データ保護規則(GDPR)」と同じように、欧州以外の国にも大きく広がる可能性があります。では、「アップロードフィルター」、「リンク税」とはなんでしょうか?
1) 「アップロードフィルター/著作権フィルター」:著作権指令案13条
アップロードフィルターとは、投稿される全てのコンテンツが、著作権違反でないかをデータベースと自動的に照合する仕組みです。具体的には、権利者はオンラインプラットフォームに著作物のカタログをアップロードします。そして、プラットフォームはユーザの投稿がデータベースに登録された既知の著作物であるかどうかを比較し、一致すると思われるものをブロックする「フィルター」を構築します。これを「アップロードフィルター」または「著作権フィルター」と呼んでいます。ビデオのサウンドトラックだけでなく、映像、静止画、さらにはテキストも対象となり、ブロックする著作物リストはデータベースで管理され、著作権所有者自身によってアップデートすることが可能になります。では誰がこのフィルターを構築するのでしょうか。オンラインサービスの提供者に構築義務があります。現時点では、オンラインサービス運営社は、FANGのような大企業であるプラットフォーマーを想定しています。既にプラットフォーマーの一部は自発的に同様の機能を実装しています。最も有名なのはYouTubeのコンテンツIDです。しかしながら、EUの著作権指令案13条のチェック対象は、YouTubeが対象とする楽曲や動画コンテンツだけでなく、テキスト、写真、ソフトウェアなど、ありとあらゆるものに広がる可能性があります。規制の対象が広がり閲覧の自由が狭められ、フィルターの自動ブロッキングがオーバーブロッキングを起こし、また不正に悪用される問題があることが指摘されています。
2) 「リンク税」:著作権指令案条11条
税と付きますが、実際は税ではありません。簡単に言えば、外部のウェブサイトにリンクを張る行為に著作権料を請求できる権利です。具体的には、ニュースアグリゲーションサービスなどが、報道メディアがオンラインにアップしたニュースなどのコンテンツにリンクを張っていると、そのリンクに対しても利用の対価を請求できる権利です。本条は、外部のウェブページ上にリンクを貼る行為を著作権の複製権や公衆送信権の対象にすることで、ウェブ上のコンテンツの権利者に著作権料の請求権を認めます。また、サイト所有者はスニペット表示の際に料金の支払いを義務付けられるようになりますが、ハイパーリンクや検索エンジンのリスティングは対象とならないと言われています。著作権料を請求できるのは、報道機関や出版社などのコンテンツの製作者であり、ドイツ、フランスのような国の政府ではないので「税」ではありません。法案の反対派がこれを「リンク税」と呼んでいることから、「リンク税」の名で呼ばれています。
2. まとめサイト / キュレーションサイト
まとめサイトとキュレーションサイトは、ほぼ同義と考えてよいでしょう。名前は違いますが、インターネット上の情報を収集しまとめることを目的とします。何故まとめサイトやキュレーションサイトがこれほどまでに世間を騒がせ、問題になったのでしょうか。そもそも、これらのサイトは、既に出版社や個人などが公表した記事を引用によって作成されていることに起因します。つまり、正当な権利を有する他人のコンテンツを使用し、収入を得ようとする行為が著作権侵害行為に当たるのではないかという点と、その行為を行っているのが大手企業であった点が世間の注目を集めることになりました。まとめサイトは、広告収入で成り立っていると言われています。運営主体は、大手企業から個人まで様々ですが、大企業が無断転載や著作権侵害の可能性がある状態で収益を上げる行為を行ったことで、世間からの批判が集中しました。
これにはつい先日、注目すべき判例が出されました。インターネットに無料で投稿したイラストを「まとめサイト」に無断で転載されたとして、イラストレーターの女性がサイト側に損害賠償を求めました。東京地裁は、著作権侵害を認め、イラストの原稿料相当額の支払いを命じる判決を言い渡しました。この判例は、ネット上の無断転載をめぐる訴訟が相次ぐ中、無料で公開した投稿であっても損害賠償を求められると異例の判事がなされた点で注目を集めました。
3. リーチサイト
海賊版漫画ビューアサイトである「漫画村」で一躍有名になりました。政府が海賊版対策に力を入れている分野で、「漫画村」は現在接続できなくなっています。著作権者の許可を得ずにインターネット上にアップロードされた漫画や書籍に利用者を誘導するためのリンク(URL)を集めて掲載するサイトのことをリーチサイトといいます。現状では、行為自体を罰する法律がないため違法ではないと解釈されています。しかしながら、リーチサイト自身は、著作権侵害コンテンツを掲載していませんが、違法な著作権コンテンツへのアクセスを助長し、コンテンツを不正に流通させ,インターネット上の著作権侵害による被害を助長していると考えられています。ここでいう著作権を侵害するコンテンツには、音楽、映画、アニメやマンガなどが含まれます。
政府は、このような状況に対処するため、「知的財産推進計画」をとりまとめ、「リーチサイト」対策に本格的に乗り出しました。文化庁は、「リーチサイト」を規制するため、著作権法を改正する方針を固めたと一部報道機関が報じています。リーチサイトにリンク(URL)を張る行為を、著作権侵害行為とみなして著作権者に差止請求権を付与し、リーチサイト運営者に罰則規定を設けることが検討されています。
一方で、政府の対応に対して憲法が保障する「通信の秘密の侵害」に当たるとして反対を唱える団体もあります。今年に入り、NTTグループのISPが海賊版サイトをブロッキングする発表を行い、団体や個人による抗議や電気通信事業法違反の訴訟が行われました。
ここまで最近話題になった著作権にまつわる状況を見てきましたが、共通しているのは「インターネット」における著作権のあり方をめぐる問題に端を発しています。インターネットの爆発的な普及が著作権のあり方を大きく変える力になった事実は大きな驚きです。最たる例は、EUによる、グーグルやフェイスブックのようなネット企業を服従させることを優先課題として取り組む動きです。それほどまでに、インターネットが生み出す経済的利益が莫大なものであり、その利益を国が享受しようとするために色々な手を打とうとしているように見えます。
これまでのネガティブな話題に対して、最後に今年、日本において行われた著作権法の改正に少し触れます。改正の目的は、ビックデータ・AIなどのデジタル化社会への対応を促すためです。これにより、ビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用促進、イノベーションの創出を促進するために著作物を利用する法的基盤が整備されました。詳細は、文化庁のホームページで確認いただきたいのですが、デジタル化社会の新たなニーズに対応した法改正と評価できる内容であり、その内容を研究していきたいと考えています。
(参考文献)
・文化庁ホームページ:著作権
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/index.html
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プロフィール
松山 考志
上級文書情報管理士/行政書士/ウェブ解析士
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