生涯現役SE&コンサルが企業を救う / 下村 敏和

 先日、日経新聞に「日本のIT投資不足深刻」という表題で、2025年にシステム6割が老朽化そしてAI・ビッグデータ対応遅れという記事が掲載された。経産省によると日本企業のIT投資のうち、新規案件に回っているのは2割程度で、多くの企業は古いシステムを長く使い、43%の企業はIT関連の費用のうち9割を保守に使い、企業内SEも新規投資に手が回らない状況になっている。このような状況下で、シニアSEやコンサルタント(以下、コンサル)がもっと活躍できる社会にならないかと考える。

 

■生涯現役を考える

 「個人が生涯にわたって自立を目指し、全ての世代が活躍できる社会を目指す」として本年より、10月1日が「生涯現役の日」として設定された。いつも思うのだが、役者や映画監督そして指揮者や演奏家さらには画家や医師など生涯現役で活躍されている姿を羨ましく思うことがある。

 その反面、IT業界に目を向けるとIT人材不足の中、かつて話題に上った「エンジニア35歳定年説」は死語になりつつあるが、まだまだ50~60歳前後のシニアのSEは若手SEのもとでは使いにくいと敬遠されがちである。定年と共に、長年培ったIT技術や業務ノウハウそしてプロジェクトマネジメント能力等が活用されることなく、眠ってしまう現実の社会がある。医師は、病院の経営陣になることを成功とは思っていないが、SEの成功は企業の経営陣になることと思われている。

 スペシャリスト制度は企業ごとに制定されているが、概ね世間の見方はそうである。しかしその様な中で、日経SYSTEMS、2018年9月号に「一生稼げるヒトになるシニアSE再充電」という記事が掲載されていた。45歳以上のSEが「シニアSE」と定義され、今や主力にそして60歳代も現役並みの給料で企業努力しているところが現れている。

 

■流動性能力と結晶性能力とは

 その記事の中に、シニア世代が自分のキャリアを考える際に踏まえておきたいのは、私たちの能力には2種類あり、「流動性能力」と「結晶性能力」がある。イギリス生まれの心理学者レイモンド・キャッテル博士の理論で、流動性能力は新しい場面への適用能力などを指す。具体的には、推論する力、思考力、暗記力、計算力等が挙げられる。流動性能力を活かすことができれば、独創的なアイデアなどが生まれる可能性もあり問題解決能力ともいえる。一方、結晶性能力とは、学校で受けた教育や、仕事・社会生活の中で得た経験に基づいた能力である。例えば、語学能力や過去の経験・知識が土台となる専門的または個人的な能力で判断力、説明力、業務の手順等が挙げられる。

 流動性能力は30代でピークに達して60歳ころまで維持され、その後急速に低下する。これに対し、結晶性能力は60歳ころまで上昇を続け、その後なだらかに低下していくが、個人差が大きく80歳まで上昇する人もいるという。結晶性能力の発達は、個人の流動性能力によって左右される。つまり、二人の人間が全く同じ経験を積んだ場合、流動性能力が高い個人が、結晶性能力をより発達させることができる。ただし、いかに流動性能力が高い個人でも、知能を継続的に発達させる学習環境に晒されなければ、結晶性能力はあまり発達しないようだ。

 

■生涯現役のSEやコンサルタントが企業を救う

 上記のようなことから、シニアSEが意識して生かすべき能力は結晶性能力であり、常に自己研鑽に励み、体力の衰えなどを意識したリスク対策(人に任せる、断るなど)を行い、加えて年齢を重ねて培ってきた人的ネットワークの活用が重要となる。活躍するシニアSEの条件として、著者の崎山みゆきさんは、結晶性能力×人脈×リスク対応が非常に重要であると言っている。それらを活用すれば十分活躍できると考えられる。

 私の経験から、多くの人的ネットワークが相互に繋がりあって、運命の出会いのようなことが歳追うごとに増えていく、さらに知識・経験のコンポーネントが繋がりあってより物事を大局的に鳥瞰できるようになり、知識吸収力や理解力も高まる。

 冒頭のIT投資不足深刻の記事にIT関連の費用のうち9割を保守に使うと言うのは主に中堅・大企業であって、中小企業や小規模事業者などは、IT要員も充分にいなくて(採用できないか、経営者のIT経営への気づきがないか)投資以前のところも多くある。人生100年時代の今、健康が大前提ではあるが、生涯現役のシニアSEや中小企業診断士そしてITコーディネータのようなコンサルを活用しない手はない。彼らが企業を救う力を持っているし、もっと活用しなければ社会や企業の経営上の損失になる。その為には、IT人材不足の中、社会がそのようなシニア人材活用の受け入れに寛容になる必要がある。また、中小企業や小規模事業者にはIT経営の重要さへの気づきとIT投資のあり方やIT人材活用方法を見直してもらうことが喫緊の課題と考える。

 

(参考文献)

・「一生稼げるヒトになる シニアSE再充電」日経SYSTEMS、2018年9月号 崎山みゆき著

・「日本のIT投資不足深刻」 日経新聞10月14日朝刊

・生涯現役エンジニア 田邉 康雄著

 

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■執筆者プロフィール

 

 ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和

 ITコーディネータ&インストラクター

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