■ はじめに
国際労働機関:ILO(International Labour Organization)は,世界規模で1日当たり約6300名,年間約230万人以上の労働者が労働災害や労働疾病で亡くなっていると推計している[1],[2]。
19世紀,英国の産業革命における工業化の進展以降,最も重要な労働者の命が失われ続けている。
ここでは,紆余曲折の末,国際標準化機構:ISO(International Organization for Standardization)から,新しく発行された「労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)」規格とわが国の「働き方改革」について述べる。
■ 労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の国際規格名[3]
ISO 45001:2018 Occupational Health and Safety Management Systems
Requirements with guidance for use,「労働安全衛生マネジメントシステム-要求事項および利用の手引き」
本規格は,2018年3月12日に発行された。
■ 労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の紹介 [1],[4]
本国際規格の狙いは,労働安全衛生リスクを管理し,組織が労働安全衛生マネジメントシステムを計画・運用することで,組織の労働安全衛生パフォーマンスを向上させるための枠組みを提供することであるとしている。また,トップマネジメントがリーダーシップを発揮し,企業の労働安全衛生文化を醸成していくことの重要性を示している。
併せて,本規格は,大規模・小規模を問わず何れの組織にも適するものであり,組織にとって最も重要な資産である“人”を守り,卓越性と組織レジリエンス(強靭)性の向上を狙っている。
この規格の狙いとする効果に次のようなものが示されている。
・積極的なリスク予防,革新および継続的改善による組織レジリエンスの向上
・法令順守の強化による事業損失削減
・安全で健康的な職場環境を確実にし,ブランドの責任を示す
・あらゆる規模のビジネスに対応する世界的な労働安全システムの享受
また,ISO 45001:2018規格の章構成を参考文献[5]に示す。
■ ISO 45001導入のメリット
ご承知のようにISO規格は,国際認証規格であり,国家間で共通の標準規格を提供していることと,第3者の認証を取得し,P(計画)D(実施)C(評価)A(改善)サイクルによる継続的な改善活動をおこなうものである。
よって,ISO45001の導入・活動をおこなう組織は,安全衛生の水準を継続的に改善・向上することにより,「法令の遵守と自律的活動の推進」,「職場の安全意識向上」,「労働災害の軽減」などのメリットが期待できる。
併せて,国内・海外の様々な企業・団体などへ「安全で安心して働ける企業」であることを発信でき社会的な信頼を得ることができる[6]。
■ 働き方改革とは
日本政府は,平成30年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」を成立させた。
この法律の目指すものを次のように示している[7]。
即ち“我が国は,「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など,働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中,投資やイノベーションによる生産性向上とともに,就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は,この課題の解決のため,働く方の置かれた個々の事情に応じ,多様な働き方を選択できる社会を実現し,働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。”と述べている。
■ おわりに
労働安全衛生マネジメントシステムが,国際規格として成立したことは非常に重要であり喜ばしいことである。
この国際規格を基準とし継続的改善をおこない一層の充実を期待したい。
一方,我が国は“働き方改革”法案を成立させ,働き方の自由度を広げることを狙っている。
狙いとするところは理解できる。
しかし,すでに大きなニュースとなっている“過労死”の問題がある。
日本政府は,“働き方改革”と併せて“過労死の未然防止”と“過労死の根絶”の施策を大急ぎで具体化することを期待したい。
このためにも是非,ISO 45001の考え方を反映した施策の充実を望む。
引用・参考文献
[1] 増田武司,「ISOで初めて発行された労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)」について,公益社団法人 日本技術士会 近畿本部経営工学部会,2018.8.18
[2] SOMPOリスケアマネジメント NEWS RELESE, 2018.2.15
https://www.sompo-rc.co.jp/news/2018/20180215_1.pdf
[3] ISO45001の規格名
https://www.nsf.org/newsroom_pdf/isr_dis45001_guide.pdf
[4] ISO NETWORK, “特集1労働安全衛生マネジメントシステム ISO 45001”を読む”,Vol.29, pp.6-15
[5] 一般財団法人日本規格協会,ISO 45001:2018 の章構成
https://www.jsa.or.jp/iso45001sp/ISO45001about/
[6] JISHA-ISOマネジメントシステム審査センター,” ISO45001認証の特色とメリット”
https://jishaiso.jisha.or.jp/iso45001/merit.html
[7] 厚生労働省,“「働き方改革」の実現に向けて”
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
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■執筆者プロフィール
柏原 秀明 (Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都 理事,一般社団法人 日本生産管理学会関西支部 副支部長・理事
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),EMF国際エンジニア,APECエンジニア
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