スーパーマーケットにもAIがやってきた / 中川 普巳重

 今日は10年程前から個人的にウォッチしてきた「TRIAL」の取り組みを紹介したい。

 TRIALのHPに掲載されている沿革によると、1974 (昭和49)年4月故、永田大海氏により福岡市中央区住吉に「あさひ屋」開業。1981 (昭和56)年7月組織を変更し株式会社あさひ屋となる、資本金200万円、永田久男、代表取締役社長に就任。1984(昭和59)年4月資本金800万円、福岡市南区高宮にソフトウェア開発室設立、10月株式会社あさひ屋を株式会社トライアルカンパニーに商号変更・・・とある。なぜスーパーマーケットがソフトウェア開発 ? しかも1984年という時期に ? その理由は後半にお伝えするとして、まずは、2018年2月14日に福岡アイランドシティにオープンした「スーパーセンター トライアル アイランドシティ店」についてレポートしたい。

 店内に入ると、まず目に入るのは大型のLEDディスプレーで、スマートレジカートの使い方やプリペイドカードの案内、メーカー各社の商品が繰り返し表示されていた。カートはタブレット端末とバーコードスキャナー付きの「スマートレジカート」で、事前に購入したプリペイドカードをカートに読み取らせてから買い物をスタートする。店内を見渡すと、たくさんの「スマートカメラ」が天井側から主通路や陳列棚に向かって、また、陳列棚上部にも設置されていた。

 酒類コーナーの副通路入口上部にあるタブレットには自分の姿が写っていた。ここでは年齢等判断されているのだろうか?! スマートカメラは約700台あるらしく、約600台は主として陳列棚と商品を認識し、残りの約100台は人を認識しているらしい。店内を歩きながら買いたい商品のバーコードをスキャンすると、タブレット端末のディスプレーに買い上げ点数と合計金額が表示される。商品によっては、「お客さまへのオススメ」商品や「オトクなクーポン」情報が表示される。「バーコードのついていない商品」についてもメニューボタンをタッチし、「食品」→「野菜」→「キャベツ1玉」→個数入力で対応している。もちろん「買い物中止」や「商品キャンセル」メニューもあり、キャンセルしたい商品をスキャンして棚に戻せばOKだ。レジカート専用のエリアへ移動し、「支払画面へ」のメニューを選択、レジ袋(有料)の枚数やポイント利用を入力後、店員さんの買い上げ点数チェックを受け、そのまま進むとゲート横からレシートがピューッと出てきて会計は終了した。なんとも簡単で、「え ? もう終わりなん ?!」という感じであった。

 出口付近にはマイバスケットが販売されており「くまもん」等のキャラクターバスケットもあった。スーパーマーケットの多くでは、買い物をしながら買い物かごに商品を入れ、レジで店員さんがバーコードをスキャンしながら別のかごに商品を入れ(この時重いものを下に入れていく)、サッカー台でエコバックなどへ商品を詰めて持ち帰る。袋詰めの際にも重いものから下に入れたいわけで上のものをサッカー台に出してから下のものを取りだすという手間が発生している。トライアルアイランドシティ店は駐車場も広く立地的にも車での来店が主だと思われ、マイバスケットをスマートレジカートに入れ、サクサクとスキャンしながら買い物をし、スマートカート専用レジを通過すれば、あっという間に買い物が終わりそうだ。

 ちょっと話は飛ぶが、働く女性たちのスーパーマーケットに対する顧客価値分析の中に、「レジが混んでいる」という不満や、「とにかく早く買い物を済ませて店を出たいのに、買い物かごに入れ、セルフレジで1つ1つスキャンし、さらに袋詰めもするなんて面倒だ」などというコメントもあった。トライアルのスマートレジカート+マイバスケットならこんな不満要素の解決にもなりそうだ。

 なぜトライアルカンパニーはこのような取り組みをしたのだろうか。「リアル店舗の逆襲」(日経BP出版)に掲載されているトライアルホールディングス代表取締役会長 永田久男氏のインタビューを一部引用させていただく。

「40年前の創業期は、ITとオーディオビジュアルなどが中心事業であり、私自身がコンピューターエンジニアをしていたこともあり、最新技術への興味は常に持っていました。その後、主軸事業をスーパーセンターなどの小売業に転換した時も「ITで流通改革を起こし、お客様の役に立つ」というビジョンを掲げ、IT投資を行いながら、小売業を展開してきました。事業形態は創業期とは変わっていますが、ITが持つ可能性は常に事業の本質の中にあり、IT関連に投資をした金額は創業当初から累計で300憶円を超えています。・・・AIは産業構造を一変させる、その影響力を経営者に伝えていきたい・・・」なるほど、そういうことだったのか。

 リアル店舗を主とする小売業は、陳列やPOP等のインストアプロモーションに注力しているものの、個々の顧客の情報は把握しきれていないのが現状である。顔なじみという関係はあるものの、アマゾン・ドット・コムが展開するレコメンデーション機能(購入履歴や閲覧履歴または登録した情報に基づいて、ユーザーの趣味嗜好に合致した商品を紹介する機能)はない。トライアルのスマートレジカートのタブレット端末には、プリペイドカードの登録情報や購入履歴から、おススメ情報や買い忘れ情報、料理のレシピ提案と、あと何を買えばいいのかなどを表示する機能がある。店入り口の大型LEDディスプレーや店舗奥の壁にある横長の液晶マルチディスプレー、エンド陳列に設置された小型ディスプレーやタブレット端末、更には主通路の商品棚の一部には価格表示とデジタルサイネージの両方の機能を持つディスプレーが棚板の前面(通常、商品名、価格、バーコード等が表示されている部分)に設置されており、これらを「リテールメディア」と位置づけ、収益事業化を模索しているようである。

 なるほど、Web上の検索連動型広告やディスプレー広告のリアル店舗版なのかと理解した。

 店内に設置されたスマートカメラでは、商品棚の欠品や商品の鮮度落ちを把握するほか、顧客の店内行動を観察しており、顧客の動線、特定の棚前での滞在状況、商品を手に取ったり棚に戻す等の行動をデータ化しているのだ。ECサイト上での顧客行動の分析は既にアマゾン等が得意としているところだが、リアル店舗でもサイト上と同様に顧客行動のデータ化が可能となり、更には小売業の課題である万引き防止につながるだろうと思われる。AIを導入することで、店舗オペレーションの効率化はもちろん、データが蓄積されることで顧客ニーズに対して店舗を最適化していくことが可能となり、欠品による販売機会ロスや万引き等による棚卸減耗費削減、売れ残り削減、何よりも、顧客が欲しい商品が棚に並ぶことが売上の向上につながる。スーパーマーケットなどの小売業にとって、これまでの常識が覆るような変革が期待できそうだ。もちろんトライアルの人材やノウハウがあるからこそ取り組めることも多々あるが、消費人口減+労働人口減に直面していく小売業にとっての改革となることに期待したい。個人的には、営業時間外に無人店舗内でロボットが店内を回り商品を補充する日が来るかもしれないと勝手にワクワクしている。

 

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■執筆者プロフィール

 

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)

福岡大学 産学官連携センター 産学官連携コーディネーター 客員教授

中小企業診断士、ITコーディネータ、(財)生涯学習開発団体認定コーチ

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