■われわれはどこから来てどこに行くのか?
“われわれはどこから来たのか”“われわれはどこに行くのか”
最近読んだダン・ブラウンの『オリジン』で通底するテーマですが、ハーバードの宗教象徴学者ランドン教授の元教え子、若き天才的未来学者カーシュがこの問題の答えを明らかにすると発表。衝撃的な映像を流すという場面で彼は額を撃ち抜かれて絶命するというところから物語は始まるのです。この物語の中心となる一人として人工知能ウィンストンが登場します。
彼の作品は、『天使と悪魔』から魅了されて最新作『オリジン』まで全作読んで来ましたし、映画化されたものや登場したキーとなる場面はほとんど現地に足を運んできました。本作では、いつものテーマ「中世からの宗教と科学の対立」を現代の時代背景にうまく乗せて表現しており、ITツールが巧に駆使され、次の行動をどうすればよいかを客観的に的確にアドバイスしてくれるAIウィンストンが小説全体の中心的な存在として登場してきます。悩みや意見についてもコメントしてくれるコンシエルジュのようなAIウィンストン、こんなパートナーが身近に欲しいものです。
今回は、最近目にしたメディアからの記事を中心に、いよいよ2年後に迫った東京オリンピックを目標に動きつつあるAIやIoTの活用事例を取り上げました。
■スポーツの審判員もAIに取り替わられるか
スポーツの世界でも最近ビデオ判定が多くなってきました。サッカーのワールドカップロシア大会でも「ビデオ・アシスタント・レフリー(VAR)」が導入されました。プロ野球や相撲でもその判定にビデオが活用されるようになり、批判的な意見もありますが、より客観的な判定が行われてスッキリしたのではないかと思います。
街中には監視カメラがあちらこちらに導入されていますが、かってのようにプライバシーがどうのこうのという議論は最近はあまり聞かれず、うちの団地内にも多く設置されていて、社会にも広く浸透してきました。
近い将来人工知能が発達すればスポーツの審判もそれに取り替わられるかもしれませんね。
日経新聞にこんな記事が出ていました。「監視カメラが歩く」というものです。
セコムさんが東京オリンピックに向けて警備員の胸ポケットに取り付けたスマートフォンで動画を撮る。データはリアルタイムで監視センターに送り人工知能(AI)による画像認識技術などで分析する。目視では気づかない細かい異常も見落とさない。
ますますわれわれはどこへいっても監視されているようなものですね。
■採寸用ボディースーツでファッションの数値化
ファッション通販サイトの「ゾゾタウン」を運営する株式会社スタートトゥデイが採寸用のボディースーツ「ゾゾスーツ」を開発し体型にピッタリあった服を低価格で販売しています。
最新版「ゾゾスーツ」は着用してアプリに従って撮影するだけ。
新しいゾゾスーツでは全体に施されたドットマーカーをスマートフォンのカメラで360度撮影することで体型サイズを瞬時に計測できます。360度の撮影によって体型がスキャンされ、3Dモデルとして画面に表示されます。「人が服に合わせる時代から、服が人に合わせる時代へ」をキャッチフレーズとして、新しいファッションの世界を提案しています。
集まった大量の人体計測データをもとに「ファションの数値化」を目指しているそうです。“かっこいい”、“素敵”などの感覚的な言葉で語られることの多いファッションを客観的な数値で科学的に解明する研究をはじめられています。
■IoTの技術活用=使い手の要望に合わせたオーダーメイドの商品を低コストで
「自分の足や走り方の特徴をスマートフォンで送信するとオーダーメイドの靴が出来上がる。靴作りが盛んな神戸で産官学が協力して、そんな研究が進められている」という記事を新聞で見ました。
神戸大学大学院システム情報学研究科の貝原俊也教授が開発を進める「考える工場(スマートファクトリー)」のモデルプラントです。様々なモノをインターネットにつなぐIoTの技術を活用し、大量生産のように低コストで使い手の要望に合わせてオーダーメイドの商品を作る手法を研究しておられます。
その題材として選ばれたのが地場産業であるゴム底シューズ。スマホの専用アプリを開発し、「スマホのカメラで足の写真を複数枚撮影すればサイズや足の形状といった足型を計測し立体データを作成することができる。さらに早く走りたい、疲れにくい靴がほしい、といった要望や好みのデザインを入力すると専用の靴を提案、制作してくれる」。作り手が使用者の喜ぶ商品を提供し、使用者は商品の評価を送ると次の設計の際にその情報が活用される。作り手と使用者がお互いに情報提供しあって新しい価値を生み出していく「価値共創」が注目されます。
■2020年新たな時代を迎える兆し
住まいの分野でもIoTデバイスを家庭内に設置して多様な制御を可能にする「ホームIoT」の取り組みが発表されています。NTTドコモと横浜市は「未来の家プロジェクト」としてコンテナ大の住宅に家電やベッド、ソファーなどを完備し、様々な機器をネットワークにつなげて実証実験を行っています。洗面台の前に体重計が埋め込まれ、ベッドの下には睡眠センサーがあり、目覚めたあとに洗面台の前に立つと体重を自動で測定し、洗面台の鏡に大樹と睡眠時間を表示する仕組み。利用者が意識しなくても、生活動線の途中で体重を含め身体の様子を可視化できるようになっています。
いろいろな分野で新しい試みが現在進行形で行われています。2020年東京オリンピックというメルクマールを一つの目標に新しい時代はその歩みを進めています。ロボットやAI、観光や健康サービスの発達、社会の変化への意識などです。1964年の東京オリンピックで新幹線などの交通インフラが大きく進歩したように、2020年のオリンピックで新たな時代を迎える兆しが見えます。
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■執筆者プロフィール
藤井 健志 Kenji FUJII
藤井コミュニケーション・デザイン研究所 代表
NPO法人ITコーディネータ京都理事
一級建築士・中小企業診断士・ITコーディネータ
ken@fujii-cdl.com
経営とITとデザインを繋いでまちづくりに貢献します。
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