人手不足や生産年齢人口の低下を背景に、政府が外国人人材の受け入れ拡大の検討スピードを速めている報道を最近よく見かけるようになりました。日本は、世界に類を見ない少子高齢化社会に突入していますので、人口を維持するための具体的な施策が必要だと感じていました。また、多くのお客様から人材の採用が以前よりうまくいかない、残業を減らさないと人が定着しないなどといった、人材に関する経営上の悩み事を聞く機会が増えました。すぐにできることとして、ITの活用を通じて、生産性の向上と労働力減少に備える取り組みに今すぐ取り組むべきだと実感しています。どれほど深刻な状況であるか確認するために、生産年齢人口の減少と今後の推計を調べてみて下記の事実がわかりました。
まず、生産年齢人口と総人口の長期推移です。総人口とは、外国人を含む日本に住んでいる人の総数です。一方、生産年齢人口とは年齢別人口のうち労働力の中核をなす15歳以上65歳未満の人口層をいいます。1986年の総人口は1億2,166万人、2016年には1億2,693万人と527万人増加しました(2018年5月1日時点の概算値は、1億2,649万人)。対照的に生産年齢人口は、1986年の8,315万人から1997年に8,699万人となりピークを迎えました。その後は、減少が続き(2016年7,665万人)、ピーク時と比較すると、1,034万人減、11.9%減少しています。
将来については、2030年にかけて、生産年齢人口は現在から12%減少するとの試算が出ています。諸外国と比較しても日本の生産年齢人口の減少率は減少が大きなグループに属します。G8諸国内で見てもアメリカ、イギリスは生産年齢人口がプラスで維持するのに対し、日本の減少は顕著です。就業者数の見通しでは、2015年の6,376万人に対し、2030年は現状のままで推移すると5,561万人、815万人減少する見通しです。
私は、この数字を見て、具体的な施策をとらずに過ごすと早晩多くの企業で労働力不足に直面し、企業の存続すら危うい状況に陥るのではないかという危機感を感じました。
生産年齢人口の減少に対する対策として、政府は専門的な技能を持つ外国人労働者の受け入れ拡大の検討を加速化しています。現在、就労目的で働くためには、「教授」や「介護」「技能」などの18業種に限定されます。これに農業、建設などを加える検討がされています。農業については、試験的に国家戦略特区の指定を受けている新潟市、京都府、愛知県の3カ所で解禁される予定です。どの業種を緩和の対象にするかの基準にITの要素が入っているのが大変興味深いです。ITを使っても生産性を向上させられないという点が判断ポイントの一つになります。そうすると、人材不足をITの活用で補える業種は外国人人材の活用に活路を見出すことができません。中小企業においても今以上にITの活用を検討しなければならない時期に差し掛かっていると思われます。
こうした中、政府の働き方改革関連法案成立に向けた動きもあり、ホワイトカラーの業務効率化の救世主として、人間が行わなければならないPC作業を自動化するRPAに注目が集まっています。RPA=ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)とは、認知技術(ルールエンジン・機械学習・人工知能等)を活用した、主にホワイトカラー業務を効率化・自動化することを目的にしたソフトウェア・ロボットです。私が係わっている案件では、国内市場で先行するNTTデータ社と米国発の世界的なRPAツールのリーディングカンパニーであるUiPath社、それぞれのツールを利用して、請求書発行業務の自動化を試みています。2名の担当者が3日間かかって行っていた請求書発行業務をRPAで代替させました。別の例では、複数の自治体で公開されている情報を定期的にチェックし、情報の更新があったかどうか確認する調査業務を自動化しました。今後は、RPAが得意としている入力作業をOCRも利用して自動化する予定です。ここで示した事例は、実際に中小企業で取り組むことができる事例です。RPAは、大手企業での導入が先行していますが、人材の採用が難しい中小企業においてこそRPAを活用した業務改善を早い段階で取り組むことが重要だと考えます。一方で中小企業がRPAを導入するには、まだコストが割高であるため、中小企業が導入しやすいライセンス体系やRPAを活用したサービスの登場が待たれます。しかし、RPAを導入する前にできることはあります。自社の主業務でクラウドサービスを導入し、ITを活用する体質を定着させるという試みです。労働力不足による企業の生産性低下に直面する前に、今から実験的にでもIT活用の準備を進めていく必要があるのではないでしょうか。
(参考文献)
・総務省「国勢調査」「人口推計」
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.html
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sh2401top.html
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■執筆者プロフィール
松山 考志
文書情報管理士/行政書士/ウェブ解析士
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