パラレルキャリアのすすめ / 下村 敏和

 パラレルキャリアやプロボノという言葉が、最近よく聞かれるようになってきた。人生100年時代には、先の坂口様のコラムの「林住期」も「家住期2/3」があった後に来るのかもしれない。自らやりたいことをキャリデザインし、2枚目の名刺を持って、さらに人生が楽しく豊かなものになれば、これほど幸せなことはない。会社人から社会人になるためのくつかのヒントをまとめてみたい。

 

■パラレルキャリアとは

 パラレルキャリアとは、P.F.ドラッカーが『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社1999年3月初版発行)で紹介した考えで、寿命が延びた現代において、個人は一つの組織に依存して同じ仕事を続けるだけでなく、「本業を持ちながら第二の活動をすること」で、新たな世界を切り開くべきだと述べている。

 パラレルキャリアは、お金を稼ぐことが目的ではなく、「社外活動と本業が相乗効果を生み、人生を豊かにする」ことが本質である。それに対して副業は、収入の増加を目的として本業以外の仕事を行うことである。パラレルキャリアの緩やかな定義では、本業に加えてボランティア活動などの非営利活動団体(以下、NPO)への参加や自身のスキルアップの学習機会を得たり、趣味を極めたり、別企業への就職、自営業の開始など幅広い活動を総括しており、今後の社会の多様性に合っていると思われる。

 このようなパラレルキャリアの重要性が提唱されるようになった背景には、様々な社会の環境変化が挙げられる。P.F.ドラッカーは著書の中で「組織より人間のほうが長命になった」ために定年前に企業寿命が訪れてしまう可能性も高く、その時に路頭に迷うことのないように第二、第三の活動を始めておくべきだと述べている。現に大企業の経営破綻や終身雇用と年功序列の実質的破綻によるワークスタイルの変化が起きている。自らの生き方を真剣に考え、したたかに夢の実現に向けて舵を切る必要性に迫られている。

 

■自己実現として、何がやりたいか?

 上記のようなことを述べながら、私自身は38年間一つの大手IT企業に属していた。その中でSEや営業そして経営の立場で多くの組織間異動を経験し、さらに分身・関連会社の非常勤社外取締役として9社を歴任している。

 これらはパラレルキャリアの本質ではない。唯一言えるものとして、40歳代半ばに500世帯からなる自治会組織の副会長(広報担当)として休日に奔走したことや50歳くらいで大学の母校の現役企業人との異業種の交流会に参加したことや50歳代後半に産学連携活動にボランティアで参加したことがあった。 

 しかし、このような社外経験は、多様な価値観を知ることとなり、私にとって目から鱗の貴重な経験であったことが、今になってよく理解できるのである。

 私の場合は、定年前に改めて自らやりたいことは何かを問い、現役時代に本業で出来なかった中小企業への経営支援のコンサルティングや研修活動そして大学で情報系の非常勤講師として教鞭をとること、さらにITベンダーの顧問や監査役を通じて営業・技術的な支援を行うことそして大学の先生とIT企業の現役とOB間での上級SE育成に関する勉強会などに参加している。

 本業で培ったスキルの延長線上でプロボノと呼ばれるボランティア活動と仕事としての収益を兼ね備えた形でパラレルに行っている。

 趣味の延長線上では、大学時代に入っていた交響楽団のOB会支援や自宅での地域社会に向けたコンサート活動支援などを行っている。

 結局、パラレルキャリアは純粋に心からやりたいことの自己実現が一番良くて、「生きがい」にもなると実感している。

 

■2枚目の名刺はどこから生まれて、何を変えるか?

 現在、私は個人事業主としての名刺と他企業と契約した4枚の名刺を持っている。定年後に持った名刺は8枚になる。これらの名刺は、現役時代に出来た人脈と定年後に行っているNPO活動や産学連携活動とその勉強会などいくつかのコミュニティから生まれている。

 一度出合ったご縁は大切にする方で、しつこくお付き合いしている。これは打算で行っているのではなく、「一期一会」を大切にするという考え方からきている。すべて結果論だが、出会いによるいくつかの人脈が不思議なご縁で繋がっていき、相乗的な効果が多く生まれている。

 パラレルキャリアの実践により、多くの人脈が広がり、知見を広げ、複眼思考を養い、自らの判断基準(物差し)を磨き、多様な考え方に接して曖昧さが許せるようになってきたと思う。スキル、知識、人脈は無形の財産で人生を楽しく豊かにしてくれる。

 最近、企業でこのパラレルキャリアを人材育成として取り入れ、NPOで社会貢献やボランティアをあるいは「留職」として新興国の社会課題に現地のNPOと協力して数か月から1年くらいのプロジェクトに参加させるプログラムを実践している企業がある。また、それらを仲介するNPOも出来ている。

 金太郎飴の組織から抜け出し、2枚目の名刺を持つことで多様な価値観の人々と接し、自らの可能性にチャレンジしないとこれからの社会の変化に対応していけないのではないでしょうか。

 

(参考文献)

・明日を支配するもの P.F.ドラッカー著 上田惇生訳

・パラレルキャリアを始めよう! 石山恒貴著

・夢を実現するパラレルキャリア 一木広治著

・人生が変わる2枚目の名刺   柳内啓司著

 

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■執筆者プロフィール

 

 ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和

 

 ITコーディネータ&インストラクター

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