■ はじめに
今日,イノベーションをめぐる国際競争は大変革をもたらす新しい段階に入った。例えば,ドイツでは,“第4次産業革命”サイバー・フィジカル・システム(CPS: Cyber Physical System)を,米国では“生産インターネット(Industrial Internet)”と,イノベーション・コンセプトを掲げ活動している[1]。一方,わが国では,この国際競争のトップランナーとなるため“超スマート社会 - Society 5.0-”を発表し先行する欧米のそれを包含・凌駕するイノベーション・コンセプトを提示し具体的な活動を実施している[2]。
■ 超スマート社会の姿
超スマート社会の姿とは,「必要なもの・サービスを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供し,社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき,あらゆる人が質の高いサービスを受けられ,年齢,性別,地域,言語といった様々な違いを乗り越え,活き活きと快適に暮らすことのできる社会」である[3]。
■ 超スマート社会実現の4本柱
ここでは,超スマート社会の実現のための取組・対応・強化および構築の4本の柱について紹介する。
・未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組
自ら大きな変化を起こし大変革時代を先導していくことを目指し,非連続なイノベーションを生み出すための取組を進め,ICT(Information Communication Technology)の進化やネットワーク化といった大きな時代の潮流を取り込んだ「超スマート社会」において新しい価値やサービスが次々と創出され,人々に豊かさをもたらすための仕組み作りを強化する取組としている。
・経済・社会的課題への対応
国内又は地球規模で顕在化している様々な課題に対して目指すべき国の姿を踏まえつつ,国が重要な政策課題を設定し,当該政策課題の解決に向けた取組を総合的かつ一体的に推進するとしている。
・科学技術イノベーションの基盤的な力の強化
科学技術イノベーションの基盤的な力の強化の為,先行きの見通しが立ちにくい時代を牽引する若手人材の育成・活躍促進と大学の改革・機能強化を中心に,基盤的な力の抜本的な強化に向けた取組としている。
・イノベーション創出に向けた人材,知,資金の好循環システムの構築
企業,大学,公的研究機関の本格的連携とベンチャー企業の創出強化などを通じて,人材,知,資金があらゆる壁を乗り越え循環し,世界を先導する我が国発のイノベーションが次々と生み出されるシステムの構築を進めるとしている。
■ 超スマート社会実現のためのキーワード
“第4次産業革命”や“生産インターネット(Industrial Internet)”などにおける新しい技術革新のキーワードは,IoT(Internet of Things),人工知能(AI:Artificial Intelligence),ビッグデータ(Big Data), ロボット(Robot),クラウド(Cloud)に代表されるものであろう。これらのキーワードの実現には,情報通信工学,電子・電子工学,機械工学,応用化学工学,材料工学などの技術が大きく貢献している。特にIoTを実現する起爆剤になったのは,IPv6(Internet Protocol Version 6)の標準化であろう。これにより無限に近い数(2の128乗)のモノを識別できるようになった。もう一つは,第3次人工知能ブームの到来といわれているAIである。その基盤となるものは機械学習の進化,すなわちニューラルネットワークを利用した“ディープラーニング(Deep Learning)”である。
我が国が先導している“超スマート社会 - Society 5.0- ”もこれらのキーワードを反映して第1段の超スマート社会実現をしようとしている。
■ 具体的な取り組み
[IoTの活用]
IoTの活用事例を以下に紹介する。これらの中には,大手企業だけでなく中堅・中小企業でも十分にビジネスにつながる可能性がある[4]。
・IoT家電・スマートハウス分野のIoT活用
(例) 住人の好みを察して自動で温度調節「Nest Thermostat」
・スマートシティ分野の活用
(例)ゴミの蓄積状態がリアルタイムにわかるスマートゴミ箱「BigBelly Solar」
・医療・ヘルスケア分野の活用
(例)愛犬の体調データを管理するウェアラブルデバイス「FitBark」
・自動車分野の活用
(例)ドライバーの心拍数をリアルタイムに計測し事故を減らす「hitoe」
・製造業(工場)の活用
(例)製造業×IoTの先駆け「カンバン方式」(トヨタ)
・農業分野のIoT活用
(例)圃場に行かなくても農作物の状態がわかる(ベジタリア)
・その他のIoT活用
(例)世界中の船舶800隻をIoT化して正確な気象予測と最適航路の提案を実現「Safety Status Monitoring」
[AIの活用]
AIの活用事例を以下に紹介する。これらの事例は,大手企業だけでなく中堅・中小企業でも十分に活用できる可能性がある[5][6][7]。
・小売分野
(例)パン屋のAI(機械学習・画像認識)
・医療分野
(例)人工知能(AI)を活用した統合的がん医療システム 開発プロジェクト
■ おわりに
わが国が先導し提案・活動している「超スマート社会 ?Society 5.0 ?」の取り組みの特長的な部分を紹介した。今や付加価値の源泉は,「誰も着想しないことを着想し実施できること」といっても過言ではない。本取り組みは,まさにそれであり,産学官が一体となった超ビッグプロジェクトである。プロジェクト進行中に様々な課題やリスクの発生が予想されるが,それに果敢に挑戦し解決した暁に生まれる多くの成果は,わが国の将来に大きく貢献するものと期待される。
一方,ビジネスの世界では,大手,中堅,中小企業を問わずIoT,AIなどの技術を具体的に活用し効果を上げているところが出現している。ほんの数年前までは,“超スマート社会 - Society 5.0- ”の具体的なイメージが見えなかった。しかし,今や急速に見え始めている。是非とも“超スマート社会”の実現によるビジネス活動の発展を期待したい。
参考文献
[1] 柏原 秀明,ものづくりの新たな潮流-第4の産業革命-,NAIS Journal, p.60,Vol.10 2015
[2] 柏原 秀明, 超スマート社会の実現に向けて,NAIS Journal vol. 12, pp.51-53, 2017
[3] 内閣府, 第5期科学技術基本計画,平成28 年1月22日
[4] 日本と世界のIoT活用事例39選~スマート家電から産業事例まで~
https://smarthacks.jp/mag/25339
[5] パン屋やラーメン屋でも導入事例 中小企業とAIの付き合い方
https://www.projectdesign.jp/201704/ai-business-model/003527.php
[6] 人工知能の活用事例とは?最新6選を詳しく解説!
https://blog.codecamp.jp/ai-case
[7] 自社の経営効率改善,生産性向上に繋げる中小企業におけるAIの活用事例,企業経営情報,2017 07
http://www.sekisoken.co.jp/pdf/report201707_1.pdf
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■執筆者プロフィール
柏原 秀明 (Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都 理事,一般社団法人 日本生産管理学会関西支部 副支部長・理事
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),EMF国際エンジニア,
APECエンジニア
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