3Dプリンタは今 / 馬塲 孝夫

●昨年、東京のビッグサイトで開催された製造技術や機械技術関係の展示会を久しぶりに訪れた時に、ふと目に留まったのが3Dプリンタでした。そういえば、数年前の2013年ぐらいに生産革命の寵児として3Dプリンタが脚光を浴びていましたが、最近あまりトピックスを聞かないなと気になっていましたので、今回のコラムでは、「3Dプリンタは今」を考えてみたいと思います。

 

●3Dプリンタの正式名は「Additive Manufacturing Equipment」であり、乱暴に簡略化すれば、材料を繰り返し重ねることで立体造形を作成する装置です。一般に材料を加工するには、削っていくのが従来の方法でしたが、インクジェットプリンタのように材料を吐出しながらヘッドを動かし、立体造形するので、3Dプリンタと呼ばれています。この技術は、1980年代からあったのですが、材料技術等の技術進歩により実製品生産に使えるようになったのが2010年代です。当時、C.アンダーソン氏の著書「21世紀の産業革命が始まるMAKERS」が出版されたこともあり、新しい時代のものづくりモデルとして大いに注目されました。

 

●また価格も低価格化が進み、安いものでは数万円から十万円代のものまで現れ、3Dプリンタを使えば、製品開発と製造販売まで簡単にできるようになると、筆者の友人なども早速購入して遊んでいたのを思い出します。

 

●さて、現在はどのような状況でしょうか。専門調査会社 IDCJapanによると、国内3Dプリンティング市場の2016年実績は5.2%減の272億円。内訳は、プリンタ本体が19%減の115億円、プリンティングサービスが7.4%増の100億円、そして造形材料は9.4%増の57億円です。また、産業別では、殆どが製造業向けで76.8%を占めるとの事です。

 

●プリンタ本体市場の内訳をみると、一般消費者向けに家電量販店で売られていたデスクトップ機市場の縮小が顕著で、現在は、高価なプロフェッショナル機が主要市場となっています。

 

●以上の状況を踏まえると「3Dプリンタで何でもできる」という幻想の時代が去り、製造業における着実な実用化が進行していると理解できます。技術的にも、材料押出法、光造形法、インクジェット粉末積層法、インクジェットUV硬化積層法、レーザ焼結法等が開発され、樹脂のみならず金属材料までをプリンティングすることができるようになり、各種用途に特化して利用されつつあります。

 

●特に金属3Dプリンタは、産業界での期待が大きく、現在はステンレス鋼や、鉄を主材料とする特殊鋼等による造形も可能となり、国内外で航空機部品分野、自動車部品分野、金型分野、医療・福祉分野等で導入され、試作品のみならず、一部には量産品への対応も実現しているようです。

 

●そして今後、期待されるのは医療分野と言われています。MRIやCT等のイメージング技術の技術革新により、この2次元画像データから映像部位を3次元データ化し、人体や臓器の立体模型を作ることができ、個々人の生体情報を実体化し、医師による正確な手術計画策定が期待されます。その他、個人の体に応じた義肢製作や、歯科領域ではカスタム化したインプラント構造の作成等が期待できます。前出の調査会社 IDCJapanによれば、現在、医療分野の国内売上規模に占める割合は、3.7%で小規模ですが、2016年~2021年の平均成長率を見ると、製造業が10.7%に対して、医療分野が18.8%と最も高い成長率を予想しており、この分野の有望性を垣間見ることができます。

 

●このように3Dプリンタは、現場において技術、実用化実績ともに着実に進歩しているようです。材料技術の進歩により樹脂だけでなく、多様な金属材料が扱えるようになり、さらなる成長が期待されます。現在、世界各国では第4次産業革命との認識のもと産業のデジタル化を推進し、日本も「コネクテッドインダストリ」を、国を挙げて推進しています。3Dプリンタはその中核技術の一つに間違いないですが、この分野では日本の技術力は欧米に比べかなり遅れています。実際、3Dプリンタに関する特許ランキングをみると、主要特許は海外メーカが握っており、日本は不利な立場にいます。現在、経産省が「産業用3Dプリンタ開発プロジェクトTRAFAM」を立ち上げ、実製品生産が可能な3Dプリンタの研究開発を推進していますが、このようなプロジェクト成果を通じて、早急な国内メーカの挽回を期待したいものです。

 

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馬塲 孝夫(ばんば たかお) (MBA)

 

ティーベイション株式会社 代表取締役社長

(兼)大阪大学 産学共創本部 共創人材育成部門 特任教授

(兼)株式会社遠藤照明 取締役

e-mail: t-bamba@t-vation.com

URL: http://www.t-vation.com

 

◆技術経営(MOT)、産学連携、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報システムが専門です。◆