インターネットは空気かスノコか太陽か ? / 下村 敏和

 数か月前、非常勤講師をしている大学の図書館で古くなった本を自由に持ち帰っても良いと、多くの本が並べられていました。ふと目に留まった中に村井 純著「インターネット」(1995年11月30日第1刷)がありました。現在、慶應義塾大学教授の村井先生は日本のインターネットの父とされ、大学間ネットワーク(JUNET)の構築に尽力されて86年にはJUNETをインターネットに接続して日本の世界のインターネットへの仲間入りを果たされています。世界のさまざまな場面で色々な人間がかかわってできたインターネット、この本から、その黎明期を少し紐解いてみたいと思います。

 

■インターネットは空気かその設計哲学とは?

 村井先生はその本の中で、「インターネットによって、人間は新しい感覚をもって地球上で生きていくようになり、その意味では、インターネットは地球を取り巻く新しい空気のようなものになっているかもしれません。」と言われています。まさしく、20年経った今、水や空気のように朝起きたら当然あるものとしてインターネットを特に意識することなく我々は利用しています。

 また、「新しい技術を作ろうというときには、原理とか哲学そして、技術的な仕組みについて議論しながら決めるのですが、インターネットの技術を決めていくときには、どれだけの技術者がその技術を支えられるだろうかという、人間の能力の問題を非常に重視します。このことが、世界中のコンピューターを包むという、たいへん大きなネットワークを作っていくための技術を進める土台にある根本的な哲学だと言えると思います。」とあり、簡単な仕組みで「いいかげん」な技術の集合で何となく動く、データもコンピューター間で絶対着かなくてもいい、でも「ほとんど着く」という、ラフ・コンセンサスな設計思想が重要だと述べられています。短期間に世界中にインターネットが広がったベースにこのような設計哲学があっただと改めて考えさせられました。

 そして、「インターネットのテクノロジーが発展していくときに重要なのは、そのテクノロジーの発展とそれを利用していく人間社会が遊離しないようにすることだと思います。人間が持っている財産としてのデジタル・データに文字や画像、映像、音があり、個人の視点を大規模な人達と共有することになる。従来のメディアでは普通の個人には許されなかった感覚の共有が自由にできるというのは、人類にとって大切なことになるのではないかという気がします。」と、これは後に登場するSNSにつながる考え方だと思います。

 

■インターネットはスノコか太陽か ?

 また、「インターネットの研究グループの中では、インターネットは『地球上のスノコ』だ、我々はスノコを作っているのだ、それはちょうどスノコが風呂場の隅から隅までゆきわたる台であるように、地球上に、とにかくどこにでもある環境を用意したい。そしてスノコの上に人間が立つと、スノコなしの時よりは、ほんのちょっとだけ背が高くなって、新しいことが見えたり、出来たりするようになるかもしれない。」と、インターネットを世界に広げる雄大な構想と執念が感じられます。

 当初、インターネットは色々なもの(本、テレビ、政府、国など)を破壊してしまうのではないかという危機感がありました。村井先生は『イソップ物語』でいう「北風」と「太陽」にたとえ、「つなぐこと」がいかに重要かを「インターネットを使わなければ時代に置いていかれる」という「北風」のごとくの強迫観念で迫るのではなく、「こんなに良いことが起こるのだ、こんなに有効ものなのだ」と「太陽」のやり方で、相手がコートを脱ぐまでコンピューターネットワークを支えていこうとの考え方でした。

 しかし、95年に起きた阪神・淡路大震災という不幸な出来事が、人々のネットワークに対するイメージを大きく変えるきっかけになったようです。先行してインターネットを利用している組織からいち早く海外に被害状況が届きました。家庭では、まだインターネットがあまり使われてなくて私自身もPC-VANでした。連絡を取りたくても電話が通じなくて、PC-VANなどが大いに活躍したのです。

 

■インターネットが支える未来は?

 95年には、世界で1,000万台超えのコンピューターがインターネットにつながっていましたが、いまではスマホも含め、全世界でユーザーは32億人に達し、日本では1億人以上が利用し、とどまるところを知りません。

 コンピューターが生まれて70年、インターネットが生まれて30年(日本での一般の普及は20年)、スマホが10年。この間の技術の変遷を目の当たりにしてきましたが、20年前に今の状況は想像もつきませんでした。成るようになるのに、ひたすら付いてきました。今や、時間と距離の壁が無くなり、多くの情報やサービスを無料で共有でき、コピペなどにより資料作成の生産性、効率性は大幅に上がりました。そしてクラウドなどで資産を持たなくてよくなりました。結果としてパソコンやスマホの普及で、本より画面を見る時間が大幅に増えました。

 これからは、スマホとクラウドのコラボで、シェアリングエコノミーサービス(民泊、車、会議室、駐車場、家事、介護他のシェアサービス)が大きく伸びると思われます。IoTやロボットの導入により、工場の品質や生産性は大幅に上がり、IoTやAIそして通信の更なる高速化により、自動車の自動運転で大幅に死亡事故は減ることでしょう。AIやウェアラブル端末の活用により、人間の健康寿命は確実に伸び、AIやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)によって人間の能力をはるかに超える力を人間は持つようになるでしょう。

 

 我々は、インターネットによって多くの恩恵を受け、これからもIoTやAIと絡めながらテクノロジーは終わりなき発展を続けることでしょう。しかし、戦争は無くなっていません。テロやサイバー攻撃はテクノロジーの発展で予知能力などにより軽減は出来ても全てを押さえることが出来ません。

 インターネットの未来が、「北風」よりも「太陽」の考え方で、悪いことより良いことの方が僅かに、いや多く上回っていくことを願っています。

 

(参考文献)

・インターネット 村井 純 著

・インターネットが変える世界 古瀬幸広 廣瀬克哉 著

・<インターネット>の次に来るもの ケヴィン・ケリー 著 服部桂 訳


■執筆者プロフィール

 ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和

 ITコーディネータ

 e-mail:t-shimomura@zeus.eonet.ne.jp