中高年のビジネスパーソンを取り囲む雇用環境 / 坂口 幸雄

 読売新聞の先月11月29日朝刊に3日間連続で、「定年後も働く」というテーマで特集が掲載された。特集では中高年が厳しい雇用環境の中で生き抜く術を事例を交えて判りやすく解説していた。中高年が自分の思い通りに主体的に働いていくことは至難の技となっている。中高年は自分を取り巻く雇用状況の変化を冷静に把握するこ<とが大事である。ここでは「雇用状況とその対応方法」についてまとめてみた。

 

1. 中高年世代の雇用の不安定化

 最近の日本の雇用環境は、少子高齢化・顧客ニーズの変化・情報技術の進展により、ますます不安定化・流動化している。三井住友銀行・三菱UFJなどの大手銀行でさえ生き残りをかけて大量の人員削減を計画しており、大量の中高年の失業者の発生が懸念される。地元の関西では、三洋電機はパナソニックに吸収され、シャープは台湾の鴻海精密工業の傘下に入った。グローバル競争の激化により、企業のリストラや統廃合が促進され、その結果少数の勝者だけが生き残り、残りの大多数は敗者となり職場から退場を余儀なくされている。その時狙い撃ちされるのは中高年である。

 

2. 主体性不足だった私のビジネス人生

 私は団塊の世代の前期高齢者である。私のビジネス人生を振り返ると、バブル崩壊までは仕事は概ね順調だったが、バブル崩壊後はリストラによる中高年の転職で苦労の連続であった。今から振り返ると、私のビジネス人生は、好景気や不況の潮流に流されただけで「主体性不足」だったと反省している。

 

 私はリストラによる早期退職の後、外資系企業や政府系外郭団体等で働いた。

1) ITベンダーでは、リストラで退職

2) 外資系企業では、能力不足により退職

3) 次の外資系企業では、成績不振により退職

4) 政府系外郭団体では、民主党政府による事業仕分けで仕事が消滅

 

 外資系や政府系の企業風土はこれまでの民間企業とは異なっており、私の得意技としていた「社内での根回し」はあまり役に立たなかった。苦労して米国の資格を取得したが、これはスキルアップや人脈形成に大変役に立った。プロジェクト管理(PMP)やシステム監査(CISA)等の米国の資格は、「考え方・プロセス」や「権限・義務」が体系的に整理されておりグローバルビジネスでは大変役立った。

 

3. 日本は先進7カ国の中で「最低の労働生産性」とされている

 OECD加盟国の調査によると、労働生産性については日本は「先進7カ国の中で最下位」である。バブル崩壊以降、日本の競争力は低下している。グローバル化した情報化社会では、日本人の得意とする「勤勉さ・頑張り」が競争力向上に繋がらなくなっているからだ。

 従来の伝統的な人事・雇用制度を根本的に見直す必要がある。大きな苦痛を伴うが、覚悟して日本人の考え方を変革しなくてはいけない。日本経済の低迷の原因は「ディジタル化」と「グローバリゼーション」への対応が遅れているためである。

 

 「ディジタル化」については、日本と欧米の異文化コミュニケーションの問題でもある。日本の仕事のやり方は依然として農耕型である。長幼の序である年功序列制度と終身雇用制をベースにしたボトムアップである。最たるものが稟議制度で、関係者全員が責任者であるが誰も責任を取らない。雇用契約について、日本の慣行は従業員を解雇するのに大変手間がかかるが、米国は「EMPLOYMENT AT WILL法」により、日本と比較して従業員を解雇しやすくなっている。

 欧米の仕事のやり方は狩猟型で契約社会である。少数の優秀なプロフェッショナルがトップダウンでリードして企業の生産性を大幅に高める。プロ野球の選手の給料の様に、成果を挙げた社員は成果に応じた高額の待遇を受ける。

 

 「グローバリゼーション」については、グローバル化により今までの障壁(国境、通貨、言語、制度、人材)が取り払われてきている。以前は、日本と海外の業務を統合せずに運用しても対応できたが、グローバル化が進展すると、日本がグローバルスタンダードである海外の制度を受け入れざるを得ない。グローバル化により外国の資本・人材・商品・サービスが日本国中を自由自在に移動する。

 また企業間の統廃合も活発化する。そのために組織や人材は流動化し、ビジネススピードは急速に速くなる。それに伴い仕事は複雑かつ短納期化するので、組織はライン型からプロジェクト型になり、そのプロジェクトを推進する「即戦力のプロフェッショナル」(プロジェクトマネジャー)が求められる。

 

4. 結論 中高年の生き方としては

 ビジネスパーソンには「日本的な伝統的な価値観」と「グローバルな欧米の価値観」の両方のいいとこ取りが出来る「二重人格の和魂洋才」が求められている。中高年のビジネスパーソンは、会社に頼る受動的な働き方から思い切って決別する必要がある。「自分の強みや主体的な生き方」を確立し、「プロフェッショナル」として世間から認められるよう独立心を養う必要がある。但し、人間自分一人では生きていけないので自分を理解してくれる友人・人脈も大切である。

 

 現在のビジネス競争社会では、いわゆる「少数の勝者」と「残りの大多数の敗者」に分かれる。中高年は自分独自のドメインを創造して、誰も真似できない個性的な生き甲斐を見つければいい。

 

参考資料  中小製造業のグローバル化プロジェクト

(異文化コミュニケーションから見た海外拠点のガバナンス)

http://www.saajk.org/wordpress/wp-content/uploads/saaj20170721.pdf

 

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■執筆者プロフィール

坂口 幸雄

ITベンダ(東南アジアや中国でのマーケティング、日系企業の情報システム構築の支援、JAIMS(日米経営科学研究所、米国ハワイ州)、外資系企業、海外職業訓練協会(キャリアコンサルティング)、グローバル人材育成センターのアドバイザー、ITC京都 会員

 

趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)

ホームページ:http://ysakaguchi.com/

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コメント: 2
  • #1

    坂口幸雄 (水曜日, 20 12月 2017 23:44)

    中高年は、同じバックグランドを持っている訳ではない。10人の中高年がいたら、
    ‟運不運、好き嫌い、経験、収入、資産、人脈、家族、健康、趣味“、十人十色なのだ。また五木寛之の「林住期」の様に、「働くだけ」が人生ではない。様々な理由で働かない選択もあるが、自分の好きな趣味を仕事に出来れば最高である。中高年は自分の責任で、自分の生き方を切り開いていかないといけない。私はボケ防止を兼ねて近所で趣味のボランティア活動をやっている。

  • #2

    吉田健一 (土曜日, 30 12月 2017 18:06)

    新年あけましておめでとうございます。
    コラムを楽しく読ませていただきました。
    今度カラオケで、テレサテンをお聞かせください。