電子書籍の出版を経験して / 藤原 正樹

 今回は、電子書籍を出版した私自身の経験を書きます。

 

 私たちが電子書籍を手に取る機会はかなり普通になりました。

 新聞や雑誌は電子版を購読するのが一般的ですし、Kindleなどの電子書籍専用端末で読書をしている方をよく見かけるようになりました。また、電子書籍はスマートフォンでも読めますし、重い紙の本を鞄に入れて持ち歩く機会も少なくなりました。

 他方で、本を出版する側にとっても、電子書籍の登場は画期的といっても過言ではないと思います。極端な言い方をすれば、原稿さえ持っていれば誰でも出版することが出来ます。出版にかかる費用も、自前で対応すれば数万円というレベルで本を出版できます。

 私自身が20年ほど前、初めて本の出版を企画し出版社と交渉した際には、「出版にかかる原価として、X百万円かかるので、それを十分に上回る販売実績が見込めること」との条件を示され、すごすごと帰ってきた経験があります。

 電子書籍は、書籍の出版に関わるいくつかの”壁”を劇的に低くするのに役立っています。

 それでは、電子書籍はどのように出版するのか?

 私自身の経験に即して、書いていきます。

 

■電子書籍出版までのプロセス

 電子書籍出版までの作業は、きわめてシンプルです。

(1) 出版する予定の原稿を準備する。

(2) 原稿を電子書籍出版に必要なフォーマットに整える。

(3) 電子書籍の販売サイトにそのデータを登録する。

 たったこれだけ?と言われるかもしれませんが、単純に表現すればこれだけで電子書籍は出版出来ます。

 自分で出版する場合はこれだけですが、出版社を通す場合はこれに加えて、編集者とのやりとりなどが加わります。ISBN番号(注)を取ったり、表紙のデザインを外注したりする場合は、これらの作業も増えることになります。

 「(2) 原稿を電子書籍出版に必要なフォーマットに整える。」という作業は、結構めんどうで時間のかかる”力仕事”です。しかし、特別な技術が必要なわけではありませんので、時間をかければ何とかなります。作業が面倒な方は、データ整形を請け負ってくれる会社などに外部委託する方法もあります。

 私の例では、「コンテン堂」という電子書籍専門の出版社の方からアドバイスを受けつつ、(1)~(3)までの作業をほぼ自前で行いました。表紙のデザインは、デザインを学んでいる学生に依頼し、データの整形作業はゼミの学生にアルバイトとして依頼しました。

 (1) の原稿はすべてそろっていましたので、(2)~(3)の作業だけで約2ヶ月間で出版にこぎつけました。

 

■電子書籍をいかに販売するか!?

 これが一番大切な活動ですね。電子書籍でも紙の本でも、この点では変わりません。

 電子書籍を出版するだけならきわめて簡単に低コストでできます。

 しかし、電子書店のサイトに掲載しただけで売れる本はありません。一般のネット通販と同じように、誰にどのような価値を届けるかを明確に意識した販売戦略が必要となります。

 本格的に売れる本をめざすなら、紙の本と同様に出版社を通すことをお勧めします。とりわけ重要なのは、優秀な編集者を介することだと思います。以下は、私が2010年5月に本メルマガに書いた内容の引用です。

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 私は、これまでに経験した数少ない出版の経験から、出版社のなくてはならない機能を主張したいと思います。それは、編集者の機能です。編集者は、読者と執筆者の間に立ち、読者の求める本はどのような内容か、執筆者がどのように表現することで読者に受け入れられるかを示すことが出来る専門職です。執筆者と読者との間のコミュニケーションを司る専門職といえます。

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■電子書籍の可能性

 このように電子書籍は、出版に関わる多くの壁をとり除きましたが、売れる本を作る困難さは変わることはありません。本が売れないという世の流れは、電子書籍になっても変わることはないと思います。

 他方で、電子書籍は出版に関わる新たな可能性を生み出しています。

 卑近な例で恐縮ですが私のような大学の研究者の場合、電子書籍はとても重宝です。

 「学術書」というジャンルは、最も売れない分野です。学術書のほとんどは、大学などの「出版補助」費によって出版にこぎつけており、補助なしで出版出来ている学術書は限られています。そのため、学術書の分野では、書籍の電子化はますます進むと思います。

 「教科書」という分野も同様だと思います。

 書籍は、体系化された知識の集積に他なりません。インターネット上には膨大な量の知的生産物が散乱していますが、多くは断片化された知識にとどまっています。インターネットの時代でも書籍の重要性は変わることはないと思います。

 電子書籍によって書籍の出版が容易となり、私たちはより多くの”知の体系”と出会うことが出来るようになりました。他方で、電子書籍が生み出す知の体系は、玉石混合となりますので、”目利き”が必要となるでしょう。

 本を読む側、本を出す側、双方にとって新しい読書を楽しむ環境が広がったことだけは間違いないと思います。

 

<注>

・ISBN番号:ISBN(国際標準図書番号:International Standard Book Number)は、

 固有の書籍出版物を識別するユニークなコードとして普及している。

<参考URL>

・「東北復興支援eビジネスモデルの創出」藤原正樹・有馬昌宏・高力美由紀、

 2017年3月

 コンテン堂

 https://goo.gl/Yj9MnV

 アマゾン

 https://goo.gl/Kpoqmk

・「電子書籍元年」藤原正樹、ITコーディネータ京都メルマガ2010年5月

 http://www.itc-kyoto.jp/2010/05/17/電子書籍元年-藤原-正樹/

 

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■執筆者プロフィール

 

藤原 正樹(フジワラ マサキ)

公立大学法人 宮城大学 事業構想学群 教授

博士(経営情報学) 中小企業診断士

e-mail:fujiwara@myu.ac.jp