産学連携を考える / 中川 普巳重

 産学連携とは何か。まずは、産学連携の実態について、文部科学省科学技術・学術政策局により各国公私立大学、各大学共同利用機関法人研究協力担当部課長、各国公私立高等専門学校向けに毎年実施されている「大学等における産学連携等実施状況」平成27年度のデータを見てみましょう。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/03/29/1380185_001.pdf

 

1. 民間企業との共同研究において、「研究費受入額」は約467億円と、前年度と比べて約51億円増加し、本調査開始後、初めて450億円を超えた。また「研究実施件数」は20,821件となり、前年度と比べて1,751件増加した。なお、民間企業との共同研究実施件数のうち中小企業と行った件数は5,903件と、前年度と比べて530件(9.9%)増加し、外国企業と行った件数は238件と、前年度と比べて29件(13.9%)増加した。共同研究の受入額規模は100万円以上~300万円未満が一番多く7,666件(36.8%)、次いで1円以上~100万円未満が6,487件(31.2%)。

 

2. 民間企業との受託研究において、「研究費受入額」は約110億円と、前年度と比べて約1億円減少した。また「研究実施件数」は7,145件となり、前年度と比べて192件増加した。共同研究とは異なり民間企業からの受託研究の研究費は少ない。

 

3. 「特許権実施等件数」は11,872件と、前年度と比べて1,070件増加した。また「特許権実施等収入額」は26.8億円と、前年度と比べて約6.9億円増加し、本調査開始後、初めて25億円を超えた。

 

 以上のデータから産学連携に取り組む民間企業は増加傾向にあることがわかります。「産学連携って大企業が大学と一緒に何か難しい研究しているんでしょ。うちには関係ないよ」なんて思っている方おられませんか?いえいえ、経営資源に限りのある中小企業が持続的に成長していくためにこそ重要な活動なんです。「でもなんか大学って敷居が高くて、何をどう相談していいのかわからないよ」という方も多いのは事実です。ではいくつか事例を見てみましょう。

 例えば食品、「風味長持ち」の無添加蕎麦の開発:岩手県釜石市の製麺会社「川喜」が岩手大学の三浦靖教授(食品化学工学)と共同開発、従来3日ほどだった生そばの賞味期限を独自の殺菌技術で10日ほどに伸ばすことに成功しています。この無添加生そば「いわて南部地粉そば」は、2015年度優良ふるさと食品中央コンクール新技術開発部門で、最高賞の農林水産大臣賞を受賞したそうです。食品メーカーにとって伸びている無添加食品市場に向けて賞味期限が伸ばせたことの経営的メリットは大きかったのではないでしょうか。

http://en-trance.jp/news/kamaishishinbun/7051.html

 

 次は産業用刃物メーカー、ガラス代替特殊樹脂板切断加工用の刃物の開発:株式会社ファインテックは硬くてもろいプラスチックの切り抜き加工という難題に産学官連携で挑戦し、光学特性を損なわない外形成形切断加工技術を確立しました。現在では、セラミック加工業界から、通信機器、電子部品、高機能フィルム業界まで主要な取引先は随時拡大しているそうです。リーマンショックを機に磨いてきた超精密・超硬加工技術を活用できる道はないかと模索した結果です。

https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2016/01/articles/1601-02-4/1601-02-4_article.html

 

 次は伝統工芸、筑前織物株式会社×吉田カバン×福岡大学による博多織バッグリュック考案:このプロジェクトは、自ら考え新しいことに挑戦するアントレプレナーシップ(企業家精神)を持つ人材を育成しようとする福岡大学商学部の多彩な取り組みの一環です。二宮麻里准教授の指導の下、筑前織物株式会社と株式会社吉田の協力を得て、商品コンセプトの策定からプロモーションに至る商品開発・販売の全プロセスを学生たちが実践しました。学生のアイデアを活用した商品開発事例であり、大学を介して企業と企業がつながった事例でもあります。

http://chikuzen.co.jp/%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0/3746/

 

 企業が抱えている課題について大学の産学連携窓口に気軽に相談してみてください。産学連携のコーディネータが、御社の業務内容や課題をお聞きして、学内の先生や大学が保有しているネットワークへとつなぎ連携活動をサポートします。既存製品(商品・サービス)の競争力強化、マーケティング強化、新商品開発など、理系学部だけではなく文系学部も積極的に産学連携に取り組んでいます。先生方の学会活動を通じて業界先進事例が聞けるかもしれません。中小企業さんにとって文部科学省はあまり馴染みがないかもしれませんが、是非、「産学官連携ジャーナル」のサイトものぞいてみてください。

https://sangakukan.jp/journal/#

 

 地域の大学との産学連携活動が御社の企業力向上に貢献しますように。

 

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■執筆者プロフィール

 

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)

福岡大学 産学官連携センター 産学官連携コーディネーター 客員教授

(公財)京都高度技術研究所 地域産業活性化本部 コーディネータ

中小企業診断士、ITコーディネータ、(財)生涯学習開発団体認定コーチ

Eメール  fumie-na@k4.dion.ne.jp