「IoTを学ぼう」と称したシリーズ、前回(第1回)は、東京オリンピックに向けたIoTの取り組みを紹介させて頂きました。
第2回の今回は、IoT全般を語る上で必要となる知識を紹介します。
少し「専門的だな」と思われるかも知れませんし、「IoTのコンサルタントではないから、こんな話は畑違いだ」と思われる方もおられるでしょう。
しかし、IoTを提案する方よりはむしろ、モノ作りにIoTを取り入れたい方や、IoTを活用したい方こそ、IoTについて幅広く知っておいた方が良いと思います。
IoTはITと同様に、あくまでも手段であって目的ではないのですが、ややもすると流行に惑わされ、IoTの3文字に踊らされて、言われるがままに手掛けたり不必要な導入をしてしまいかねません。
従って、今回は、
そもそもIoTとは、どう言った構成で、何が必要で、どのような適用分野があるのか、何を知っておかないと、ある程度対等に話せないなのかについてざっくりと概要を紹介致します。
IoTではその名の通り、あらゆるモノがインターネットに繋がります。
これまでのパソコンやスマートフォンのように人が介在して機器をネットワークに接続する形式だけでなく、IoTでは温度センサや明るさ(光)センサなどを搭載した機器が自発的にネットワークに繋がる形式も出てきます。
IoTでは、従来の企業での情報処理システムやWEBシステムとは大きく異なる点、新たに考慮しなければならない点などが多々あります。
その違いを捉えるための例として、何十棟ものビニールハウスの温度管理を遠隔管理する場合を参考にして、IoTでの考慮点を説明します。
各棟の室温は温度センサで取得可能ですが、センサが直接、データを送信することは出来ないため送信するための機器と仕組み(送信システム)が必要です。
一般的にこれらの機器をIoTデバイスと呼びます。
更にその機器がそれぞれインターネット経由でデータを送信するとなると、棟毎にインターネット環境が必要になりますし、仮に3GやLTEなどの携帯電話網を使うとするなら、物凄い通信コストになってしまいます。
従って、各棟のセンサデータをローカル(小さなエリア)で集約してから、インターネットに送り出す仕組みも必要になります。
この機器・仕組みをIoTゲートウェイと呼びます。
各棟に設置された機器を稼働させるためには電源も必要ですが、電線が引き込まれていない場合は、電池やバッテリーでの稼働になるため機器の消費電力も課題になります。
遠隔地では送られてきたデータを集積し、価値ある内容に成型し、分析後に可視化しますが、近年は単なる分析にとどまらず、機械学習を用いた予測・推測を行う事が増えてきています。
ビニールハウスでの栽培管理制御データと消費者購買データなどを組み合わせて、消費動向を予測した栽培・出荷コントロールを行うようになってきています。
IoTは、様々な分野での用途が期待されており、これまでになかった産業やサービスの創造の可能性を秘めていますが、一方でセキュリティリスクもこれまでの常識だけでは対応しきれなくなっています。
ビニールハウスではセンサ機器の盗難と言う物理的リスクが伴いますし、盗難された機器・システムを元に模倣されてしまう可能性も秘めています。
また、センサ機器などからシステムに潜入され、作物生育や出荷のコントロールを麻痺させられてしまえば壊滅的な被害になります。
これまでの堅牢な基幹システムや情報処理システムでは、物理的盗難やデバイスを介した不正侵入はあまり意識する必要はありませんでしたが、IoTではこのリスクが今後、一層高まると思われます。
以上、ビニールハウスを例にとってIoTでの流れや特徴を述べましたが、一般的にIoTを語る(考える)上で、必要な知識は以下になります。
1. IoTのシステム構成知識
IoTデバイス、IoTゲートウェイ、サーバ(クラウド含む)の知識
2. ネットワーク知識
IoTデバイスとIoTゲートウェイ間のネットワーク(IoTエリアネットワークと呼ぶ)の知識
IoTゲートウェイとサーバ(クラウド含む)間のネットワーク(主にWAN)の知識
3. センサの知識
今回の例では温度センサを例にあげましたが、業種・業界・業務・目的に応じて必要とされるセンサ
の知識
(例:光センサ、放射線センサ、圧力センサ、加速度センサ、熱センサ、磁気センサ、ガスセンサ、
イオンセンサ、バイオセンサ)
4. 分析解析知識
統計解析知識
機械学習知識、特にディープラーニングについて
5. データ処理システム知識
ビッグデータ処理知識
データ処理プログラミング知識
6. プロトタイピング開発環境知識
センサ回路(電子回路)知識
Arduino・Raspberry Piなどのマイコンボード・コンピュータボードを用いたプロトタイピング知識
7. セキュリティ知識
以上で、第2回は終わりです。
第3回はIoTネットワーク知識について少し深堀りして概説しますが、少し予告をしておきます。
上記で、ビニールハウスの各棟から3GやLTEなどの携帯電話網を使ってデータ送信を行うと、物凄い通信コストになると述べました。
これは、各棟毎(送信機器毎)に携帯電話網の基本料金が必要な場合を想定しているからです。
送信機器毎に携帯電話網を利用した場合の問題はこれだけではありません。
センサデータは1回当たりの送信サイズは小さいですが、1日に何度も送信する事が多いと言う特徴があります。
例えば1分単位で温度をリアルタイムにモニタリングするなら、1時間で60回の送信が必要であり、対象となるビニールハウスが50棟ある場合、限られたわずかな場所から1時間に3000回もの通信接続が行われることになります。
これは周辺の携帯電話基地局の負荷となり、場合によっては携帯電話利用者や緊急コールに影響をきたしてしまいます。
一方で、センサデータ送信機器においても、携帯電話網に接続するためにはセンサ機能とは比較にならない電源容量を必要とします。
従って、先に述べた通り、各センサ(IoTデバイス)からIoTゲートウェイまでの間のネットワーク(IoTエリアネットワーク)と、IoTゲートウェイとサーバ(クラウド)間のネットワーク(主にWAN)とは、用途・目的・特徴が異なることを理解して最適な通信形態・通信サービスを用いるのが好ましいと言えます。
次回は、少量データ・多頻度送信と言ったIoTの特異点を考慮したネットワークについても紹介致します。
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■執筆者プロフィール
富岡 岳司
ITコーディネータ京都 理事
ITコーディネータ/MCPCシニアモバイルコンサルタント/文書情報管理士/セキュリティプレゼンター/第1種衛生管理者/電気工事士
E-Mail:tomiyan@r9.dion.ne.jp
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