筆者は6年前から長寿企業を調査・研究しています。その多くの長寿企業はファミリービジネスでした。
ファミリービジネスについては、海外では1950年代から研究され、国内では21世紀にはいってからです。日本では老舗企業の研究は豊富なのですが、ファミリービジネスとして捉えられなかったため、日本での研究が遅れました。ファミリービジネスは、規模の大小は問いません。東証1部上場の企業も対象となります。
今回から、数回にわたってファミリービジネスに考えてみたいと思います。
自由主義経済圏では、ファミリービジネスはGDP(国民総生産)の50%から90%を占めています。オランダでは企業全体の75%を占め、米国では雇用の60%を小規模なファミリー企業が支えています。海外のファミリービジネスの企業として、米国のウオルマート、カーギル、フォード、ヨーロッパではエルメス、ゼニア、フェラガモ、ミシュラン、ショパール、ポルシェ、BMW、フィアットなどがあります。日本では、トヨタ、スズキ、キッコーマン、虎屋、サントリーなど、多数の企業があげられます。
経営者ファミリー同士での組織として、ファミリービジネス・ネットワーク(FBN)があり、40ヶ国、1200社のファミリーが参加しています。
そもそもファミリービジネスとは何でしょうか。定義が統一されていないのですが、海外の論文では、ファミリービジネスによって所有される企業のことで、次の3つの特徴を少なくとも1つを備えているものとしています。
1. 3人以上のファミリーメンバーが経営に関与している。
2. 2世代以上にわたりファミリーが支配している。
3. 現在のファミリーオーナーの次世代のファミリーに経営権を譲渡するつもりでいる。
一方、国内では「ファミリービジネス白書(2015年版)」によると、「ファミリーが同一時期あるいは異なった時点において役員または株主のうち2名以上を占める企業」と定義しています。
ファミリービジネスの特性として、プラス面は、
1) 長期投資の視点、
2) 組織の柔軟性、
3) 品質へのこだわり、
4) ニッチ市場の軸足、
5) 人的投資の大きさ、
6) 革新という伝統、
7) 強固な組織文化、
8) 理念・価値の共有重視、
9) 長期業績重視の視点、
10) 低配当・積極投資、
11) 積極的な社会貢献活動など。
マイナス面は、
1) 属人すぎる投資の意思決定、
2) 近すぎるファミリーの関係、
3) 硬直的・排他的文化、
4) 限られた商品の種類、
5) 組織移行の難しさ、
6) 人事の不平等、
7) ガバナンスの欠如
など、があります
ファミリービジネスを考える基本的モデルとして「スリーサークル・モデル」があります。経営、ファミリー、オーナーシップの3つの視点です。メルマガでは図を表示できないのですが、この3つの視点それぞれのサークル(円)が交じり合って構成されています。3つの円の重なり具合により、それぞれの問題を抱えます。ファミリーでオーナーなのか、経営者でオーナーなのか。立場によりそれぞれの課題があります。
課題を減らすための5つのフレームワークがあります。
1. ファミリーとビジネスを融合させることは、本質的なジレンマと争いを生み出すものである。
2. ファミリービジネスは経営、オーナーシップ、ファミリーそれぞれの観点から理解されるべきである。
3. オーナーシップの形態が異なれば、リーダーシップや意思決定の方法にも違いが生じる。
4. 歴史的にみてファミリーには繰り返し同じテーマや手本が見られる。
5. 会社の事業環境がファミリーの方針に影響するように、ファミリーも事業戦略に影響を与える。
ファミリービジネスが長期的に成功するには、健全なビジネスと健全なファミリーの両方が必要となります。
次回から、より詳細にファミリービジネスをみていきたいと思います。
参考文献
D.L.ルヴィネ&J.ウォー(富樫直樹監訳、秋葉洋子訳)[2017]「ファミリービジネス 永遠の戦略」、ダイヤモンド社
ファミリービジネス白書企画編集委員会編(2016)「ファミリービジネス白書(2015年版)」、同友館
追記
IT成熟度診断や修士論文の事例企業として、大変お世話になりました仏壇仏具の小堀の前社長小堀進様が5月に逝去されました。
この場をお借りしましてご冥福をお祈りいたします。
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■執筆者プロフィール
クリッジナリティー 代表 米田良夫
中小企業診断士、ITコーディネータ。
E-mail:y-yoneda@credgenality.com
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