AIとディープラーニング ~中小企業でも活用するべきか ? / 杉村 麻記子

ここ数年、AIブームは益々熱を帯びてきました。毎日の新聞紙上でAIという文字を見かけない日はないくらいです。

キーワードが先行している感が満載で、「本当にAIって役に立つの?」と懐疑的に見ている方も多いと思います。

本稿では、ディープラーニングを中心とした昨今のAIのことと、リソースが限られている中小企業でも活用していくべきか?

について考えてみます。

 

【AIとは?】

 AIとは、(artificial intelligence)の略称で、まさにコンピュータなどを使い人工的に、人間と同等の知能を実現しようとするものです。これまでにも何度かのブームで盛り上がったのち、期待通りにいかず収束する冬の時代を経て、今は第3次AIブームと言われています。

 

 「人間と同等の知能を実現する・・」と書きました。これはいわゆる「強いAI」と呼ばれるものです。このように知能そのものをもつ機械を作ることは研究途中であり、まだ実現できていません。

 一方で、人間の知能の代わりを一部でき、人間のような知的処理ができる機械を作ることは、「弱いAI」と呼ばれていて、これが第3次AIブームの主役となっています。

 

【第3次AIブーム】

 弱いAIは、「ルール」をたくさん用意し、そのルールに基づき答えを導く「エキスパートシステム」が始まりとされますが、ルールの構築に大変な手間がかかりあまり普及しませんでした。

 また先日、岩本さんが投稿された「Watson」とは、自然言語処理によって“質問の意味”を理解し、蓄積したデータから、正答である確率が高そうな候補を抽出するものです。

正答率を高めるために、仮説の生成や評価を機械学習の手法を用いて行っています。

 

ワトソンに訊いてみた / 岩本 元

https://www.itc-kyoto.jp/2017/04/10/%E3%83%AF%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%81%AB%E8%A8%8A%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%81%9F-%E5%B2%A9%E6%9C%AC-%E5%85%83/

 

こちらの投稿では、

「機械学習では、特徴の定義・抽出や統計手法の選択、その後の学習データの収集とシステムへの入力(=教育)を人間が行う負担が大きいことが課題です。」と述べられ、その負荷度合いを検証されています。このように従来型機械学習の集大成ともいえるWatsonであっても、人間のような知的処理をすることは、非常にむつかしい取り組みであることがわかります。

 

 

【機械学習と深層学習の違い】

 これまでも統計解析については回帰分析や決定木などの手法を用いて、需要予測や、顧客分析、製造工程での不良要因分析、品質管理など、様々なビジネスシーンの課題を解決する取り組みは行われてきました。

 今回のAIブームの主役は、機械学習や深層学習(ディープラーニング)と言われています。ひとまとめに書きましたが、機械学習と深層学習(ディープラーニング)以下のような違いがあります。

 

・機械学習(マシーンラーニング)

 過去のデータから得た知識やルールを蓄積し、反復的に学習しそこに潜むパターンを見つけ出します。このパターンを新たなデータに適用することで予測をしようとするものです。パターンを見つけるためには、適用するアルゴリズム(モデル)や、モデルを使って計算をするときの特徴(変数)を人間が抽出し指定してあげる必要があります。

 

・深層学習(ディープラーニング)

 過去のデータから学習し、パターンを見つけることは機械学習と同じです。異なるのは、これまではノウハウをもった人間が指定してきた特徴抽出もふくめて、コンピュータ自身が見いだせるようになったことです。これまで開発されてきた、入力データや課題に応じた特徴抽出の手法やノウハウ部分までがアルゴリズムに組み込まれ、抽出すべき特徴の選択自体も機械に学習させることができます。

 

 これはとても画期的なことで、これまで苦労して作ってきたルールや特徴の抽出をも学習することができるディープラーニングの登場が、第3次AIブームの火付け役になったといわれています。

 

【ビジネスでの活用シーンとは ?】

 AIの歴史や、概念などの説明が続きましたが、実際どのような時に活用できるのかについて一例を挙げます。機械学習、ディープラーニングとも、各業態では以下のようなシーンで活用されています。

 

●小売、サービス

・画像認識による来店者情報取得、行動分析

・顧客分析とその結果に応じたマーケティング(プロモーション)

・需要予測

 

●製造業

・設備の予防保全、センサーデータ(波形)を使った異常検知

・製品の検査、品質管理の効率化

・シミュレータの結果予測(チューニング業務の効率化)

 

●その他

・自動運転

・融資審査や与信の自動化、高度化

・医療での画像データ解析による疾病判別など

 

 ディープラーニングでは、画像処理や音声認識の部分が注目されていますが、これまでのような数値データを使った解析でも、人間では気づかない特徴量を抽出することでその精度を上げることができます。

 

 

【中小企業でも、AI、ディープラーニングは活用すべき?】

 それでは、これら第3次AIブームに乗り遅れることなく、中小企業でもディープラーニングなどを活用するべきかどうかについて考えます。

 結論は、「ビジネス課題を解決するためには、AI(ディープラーニング)が常に最適ではない。もっとシンプルにできることから取り組みましょう」となります。

 

 もし今、新しい技術を使って、新しいビジネスを創出したい・・といった具体的なアイディアがある場合は、AI技術に長けたスタートアップ企業と組んでトライをしてみる価値はあると思います。ただしこのようなアプローチを検討するところはそれほど多くなく、大半は、様々なデータを活用してビジネスに役立てることがAI活用の目的になるでしょう。

 そのためには次のような手順で考えてみてください。

 

(1) 「何のために?」といった目的、解決したい課題が何かを明確にします。

  なんとなくAIブームなので、使ってみたいという動機はNGです。

(2) そのために、現状でできていること、できていないことを棚卸し、自社の成熟度を確認します。

  例えば、自社は以下のどれに当てはまるでしょうか?

  レベル1.データは蓄積されておらず、勘と経験のみで判断している。

  レベル2.データは蓄積されているが、経営や活動の見える化ができていない。

  レベル3.経営や活動の見える化はできているが、課題解決のための仮設や検証ができていない。

  レベル4.統計解析などの手法で、予測や検知、分類などできているが、もっと高い精度が必要。

  レベル5.画像処理など新たな手法をつかった、識別、検知などに取り組みたい。

 

(3) (2)で出た自社のレベルに応じて、次のレベルにステップアップするための対策を検討し実施

  します。

  レベル1やレベル2の場合

  まずきっちりと現場での情報を整備・蓄積し、意思決定に活用できるように分析・可視化すること

  から始めます。可視化するツールは、一般的にビジネスインテリジェンス(BI)と呼ばれ、データ

  量や見る人が少ない場合は、Excelのようなものから初めても大丈夫です。

 

  レベル3の場合

  見える化から一歩進み、詳細なデータを用いて、原因の特定や予測などに役立てるデータ分析を

  活用することを検討します。ただし、最初から、ディープラーニングを使う必要はありません。

  従来の手法である統計解析や機械学習で解決できる問題のほうがまだまだ多いと思います。

  これまでは分析をするためのソフトウェア(高価なもの)と分析をするインフラ基盤などを整える

  必要がありました。最近のAIブーム、クラウドブームに伴って、必要な時に必要な分析を行える環

  境が提供されています。

  例えばMicrosoft Azure MachineLearningでは機械学習に必要なアルゴリズムが豊富に準備されて

  いて試行できますし、DataRobotは利用者が一つ一つのアルゴリズムを試さなくても複数アルゴリ

  ズムを同時に実行し、試すことができます。

  これらのツールは、特別な統計解析の知識や分析に使うプログラム言語を知らなくても、画面を見

  ながらの操作で予測モデルの構築や実行ができるように工夫がなされてます。無料のトライアルな

  ども可能なものもありますので試してみても面白いでしょう。

 

  レベル4やレベル5の場合

  本格的にディープラーニングに取り組むことを検討する時期です。ただし最初から100%成功する

  ものではなく、まずは、スモールスタートで仮説検証をしながら進めていくことが肝要です。ディ

  ープラーニングのライブラリは、GoogleのTensorFlowやAmazonのDSSTNE、日本発のものとし

  ては、Preferred Networks のChainerやGRIDのReNomなどがあります。いずれにしても使いこ

  なすには、複数のアルゴリズムを理解し組み合わせてモデルを作るなど高度なスキルが求められる

  ことになりますので、一緒に進めていけるスキルやセンスを持っている企業を見つける必要があり

  そうです。

 

このAIブームに踊らされる必要はありません。今後もAI技術は進化していくことになります。ビジネスにおけるデータ活用の成熟度が低い場合は、データの整備や見える化など今からすぐにでもできることを取り組んでいく必要はあります。

 

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■執筆者プロフィール

 

杉村麻記子

ITコーディネータ・中小企業診断士