IoTを学ぼう:第1回 2020年東京オリンピックに向けて / 富岡 岳司

テレビCM等でもすっかりお馴染みになった「あらゆるモノがインターネットを通してつながる」IoT時代。

当コラムでは、「IoTを学ぼう」と称したシリーズでIoTを様々な切口で共に学んでいきたいと思います。

第1回は、3年後に迫った東京オリンピックに向けたIoTの取り組みの紹介です。

 

携帯電話等の移動体通信は、第5世代(5G)の到来により

・超高速化(LTEの100倍の通信速度)

・多重同時接続(LTEの100倍)

・超低遅延(LTEの1/10)

が実現されようとしています。

これは、即ち、爆発的なIoTの進化を意味します。

また、人工知能(AI)分野においても、研究と実証実験が急ピッチで進められており、IoTの飛躍的発展に大きく寄与することでしょう。

 

今、産官学でコラボレーションし、或いは凌ぎ合っているIoTのマイルストーンは、東京オリンピック・東京パラリンピック(以降:東京オリンピック)です。

たかがスポーツの祭典と侮るなかれ。

半世紀以上前から、オリンピックでは、通信・情報、すなわちICT分野において世界で初めての導入・活用がなされ、その後広く普及していった事例は実に多いのです。

以下に一例を列記します。

 

1936年:ベルリン大会

 オリンピックで最初のテレビ放送がベルリン市内とその近郊で行われた。

 無線電信・無線電話が活用され、国際電話を使ったインタビューが行われた。

1964年:東京大会

 オリンピック初の衛星放送の生中継が行われた。

1968年:メキシコ大会

 生のスローモーション映像が取り入れられた。

1976年:モントリオール大会

 統合リザルトシステム(競技結果判定システム)が導入された。

1984年:ロサンゼルス大会

 電子メールやボイスメールが本格運用された。

1988年:ソウル大会

 NHKが初のハイビジョン生中継を実施した。

2012年:ロンドン大会

 スーパーハイビジョンの伝送実験が行われた。

 大会運営基盤にクラウドを活用した仕組みが構築された。

 IOCが初めてYouTubeで競技を放送した。

2014年:ソチ大会

 IPTVによる映像配信とデジタルサイネージへの配信が行われた。

 ネットワークアクセス手段が無線中心にシフトした。

 AdobeとMicrosoftがチームを組んで「Windows Azure」を活用したライブスト リーミングを提供した。

2016年:リオ大会

 知的PTZカメラ、電子カウンタ(速度、交通量測定)などのITSが導入された。

 自動ナンバープレート検知システムが配備された。

 

オリンピックでのICTの進化を俯瞰すると、放送技術の進歩中心だったものがインターネットやクラウドを活用した技術に変遷していることが判ります。

恐らく来年の平昌大会では5Gのトライアルや様々な分野でIoTの導入も行われることでしょう。

 

 こう言った背景と、夏季大会としては56年ぶりの国内開催とあって、東京オリンピックでは最先端の技術で「お・も・て・な・し」をしようと産官学が力を入れています。。

代表的な取り組みは、総務省が中心となって進めている「IoTおもてなしクラウド事業」です。

これは、訪日外国人旅行者が入国した時点から滞在・宿泊、買い物、観光、出国に至るまでの間、スマートフォン、交通系ICカードやデジタルサイネージ等と、クラウドを活用した多様なサービスの連携により、快適なトラベルを楽しんで頂こうとするものです。

IDと紐付けられた属性情報をクラウド上に登録しておき、スマートフォンなどを用いることで、ホテルでのチェックインがスムーズになったり、競技場への案内、さらには座席への誘導が可能になったり、レストランにおいては食の禁忌情報が伝達されたりするものです。

これらは言葉と習慣の壁をもIoTを用いて取り払えるように考慮されています。

この気のきいた「お・も・て・な・し」は、既に、東京都区内と千葉県を中心に実証実験が始まっており、今後の経過報告が楽しみです。

 

また、IoTおもてなしクラウド事業と並行して、東京オリンピックに向けて、以下の取り組みも加速しています。

 

1.ITS(高度道路交通システム)

 安全走行を主眼においた自動走行補助や、交差点を中心した危険予知、衝突回避や渋滞緩和など、無線通信インフラとAIを融合させたITSの本格運用が近づいています。

 

2.デジタルサイネージ(電子看板)

 スマートフォンとデジタルサイネージ(※)を連携させるシステムの実用化が進められています。

一例をあげると、インテリジェント・ラベル(SBクリエイティブ株式会社の登録商標)があり、これは、店舗の商品棚取り付けたパネルにインターネット経由で商品情報を発信し、買い物客が近づいたら、センサーとの連携により顧客の棚前行動を把握・分析することができるIoTソリューションです。

さらに、これとPepperとを連動させ、Pepperが日本語や中国語・英語などの多言語にてコミュニケーション・顧客対応を行うことが可能であり、既に実店舗での実証実験段階に入っています。

 

3.顔認証

 年々増加するインバウンドへの対応の一環として、出入国審査迅速化のため、空港において旅券の顔画像と空港内の審査場で撮影した顔画像とを照合する実証実験が始まっています。

オリンピック会場などのスタッフの入退室管理にも利用できるため実用化が急がれています。

 

 これら以外にも、ドローンを駆使したサービスの創造やドローン自体の小型化・高性能化・多様化も進んでおり、また、IoTに欠かせない通信条件である低消費電力・低通信コスト・広域カバレッジを実現するLPWAと言う無線ネットワークのサービスも国内で始まっています。

 

2020年の東京オリンピックでは、モノづくり大国ニッポンがIoT分野でもその本領を発揮してくれるであろうと楽しみです。

 

 

※:デジタルサイネージ

屋外・店頭・交通機関などの様々な場所で、ディスプレイなどの電子的表示機器にて情報を発信するシステムの総称

 

参考

 2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会第1回配布資料(総務省)

 平成28年度IoTおもてなしクラウド事業の全体像(総務省)

 

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■執筆者プロフィール

 

富岡 岳司

ITコーディネータ京都 理事

 

ITコーディネータ/文書情報管理士/セキュリティプレゼンター/情報セキュリティ指導者/第1種衛生管理者/電気工事士

 

E-Mail:tomiyan@r9.dion.ne.jp