経営に活かす心理学 (2) ~叱らない人材の育成~ / 米田 良夫

 前々回、社員を勇気づけるについて紹介いたしました。今回は、叱らないで人材を育成することについて考えてみます。

 

 あなたは部下を叱ってばかりいないでしょうか。

遅刻ばっかりしてやる気がない。

指示したことが期日までにできない。

営業成績が上がらない。ミスが多い。

このようなイライラすることがある時、怒るという感情を表してしまいます。

例えば、

「今月の成績はなんだ。ほんと情けない。君はどう思っているんだ。」

 

 怒りには、

 1) 他者を支配する、

 2) 主導権争いで優位に立つ、

 3) 自己の権利擁護、

 4) 正義感の発揮、

 などの目的があります。

 怒りの感情を出すことで、

 1) 自分の優位を証明する、

 2) 相手を屈服させる、

 3) 達成感を得る、

 などの結果を得ようとします。

 この怒りの感情の裏には別の感情が隠されています。

 「期待していたのに、がっかりした」という落胆の気持ち。

 「この後、部の成績についてどうしよう」という恐れ。

 「あれほど、言っておいたのに無視していた」という悲しさ、寂しさ。

 その他不安や心配などの感情、これを一次感情といいますが、これが二次感情の「怒り」となって表れたのです。

 怒られたほうは、怒られたというつらいイメージだけが残り、人格が否定されたような気持になり、どうすればよいか解決策を見つけようとはしなくなります。怒れば怒るほど、意固地になり反発していまいます。

 

 怒りをコントロールする方法は、一次感情を使って伝えることです。それを、以前紹介しましたアイ・メッセージで伝えます。

 「私は、違ったやり方のほうがいいと思うけど」

 「私だったら、こうしようと思うけど、どうかな」

 また、注意を与えるという方法もあります。

相手に対して気をつけるように伝えることで、感情的でないソフトな対応です。

・相手の不適切な習慣や行動を改めさせます

・相手を一段上のレベルに成長させます

・やる気がない人にやる気を起こさせます

これによって相手に自分の期待を伝えて、相手との信頼関係が高められます。

 

 注意を与えるには、現状の問題点にピンポイントで注意を与えます。

 「教えたことと違うことをやっているよ」

 「君らしくないことをやっているんじゃないか」

 また、現状を確認したうえで、未来に向けて期待を伝えます。

 「このレベルに甘んじてほしくない」

 「もっと高い目標にチャレンジして欲しい」

 

 人は経験からしか学ぶことができません。

 叱るのではなく、経験の少ない部下には、多くの経験を積ませることが必要です。自分の意思で決め、試行錯誤した中での体験だからこそ深い学びがあります。

 その意味で結末を体験させることも有効です。

 それには、「自然の結末」と、「論理的結末」の2通りの方法があります。

 

 「自然の結末」を体験させるとは、例えば、子供が忘れ物をして先生に叱られるなどがあります。

 部下が失敗しても、放っておいて体験させます。

 上司は部下を見守っていればいいのです。

 部下には失敗する権利があります。

 上司は先回りせず、失敗を経験させることです。

 なぜなら、上司は部下の人生を代りに生きることはできません。

 上司にできるのは独り立ちの能力をつけてあげることです。

 目先の失敗より、育成の視点を優先することです。

 成功を増やしたいなら、失敗を増やすことです。

「あなたなら、きっと自分の力で成し遂げることができる」と期待し、信じることです。

 自然の結末を体験させ、部下の自主性を伸ばすことです。

 

 「論理的結末」とは、事前に約束をし、それを守ることで、それにより、相手が学ぶことを見守ることです。結末を体験させるのは、「相手に気付かせる」ためでなく、「気づく機会を邪魔しない」ことが目的です。

 約束を守れなかった時、部下に役割、担当の変更や人事考課に反映させるなどを伝えます。

 ただ、やり直しのチャンスを与えることも必要です。

 それには、「相互尊敬」「相互信頼」が前提であります。

 

 人間関係の基本は「境界線を引くこと」です。

 境界線とは、人と人の間にある境目をいいます。

 境界線を越えて相手の課題に踏み込まないことです。

 これを「課題の分離」といい、人間関係の基礎であります。

 あらゆる人間関係のトラブルの根源は、課題の分離ができていないことから起きます。

 上司が要領の悪い部下に対して、やり方を変えるように強制する。

 しかし、どのような方法を選ぶかは部下の課題です。

 その方法を採用するかどうかを決めるのは部下自身です。

 

 課題の分離は相互尊敬、相互信頼に基づき相手を見守ることです。

 「あなたなら、きっと自分の力で正しい判断をすることができる」

 期待と信頼をもって、人間関係を壊すような過分な介入を行わないことです。

 誰の課題かは「その課題の結末を引き受けるのは誰か」を問うてみることです。

 勉強しない子供に対して、困るのは子供自身であり、宿題をしないで先生に叱られるという結末を受けることになります。

 誰の課題かを問うことにより他人の課題に踏み込むまず、人間関係を壊さず適切な距離感で人と接することができます。

 

 上司の仕事は環境を作ることです。上司は、職場環境を作ることに専念し、それによって部下に間接的に影響を及ぼす。

 適度な距離を保つことで、部下が自分の力で課題を解決する力が高くなります。

 

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■執筆者プロフィール

 

クリッジナリティー 代表 米田良 夫

 中小企業診断士、ITコーディネータ。

 E-mail:y-yoneda@credgenality.com