マルチステージの人生とは / 下村 敏和

 未来学者であるアルビン・トフラーが著書『第三の波』で情報社会の到来を予測してから早37年が経過した。その間、我々の生活レベルは技術の進展とともに着実に発展し続けている。それと並行して人間の寿命も着実に伸びており、人生100年への設計を進めないといけないというリンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著の『LIFE SIFT(ライフシフト)』を読み、どのような人生を築くべきかを考えるいくつかの示唆を受けた。その中では過去200年間で平均寿命は10年に2年以上のペースで延び、いま20歳の人は100歳以上、40歳の人は95歳以上、60歳の人は90歳以上生きる確率が半分以上あるという。寿命が延びる中、どのような生き方をすれば良いのかいくつかのヒントをまとめてみたい。

 

■マルチステージへの対応力

 公的年金の支給開始時期が徐々に引き上げられていく中、早期退職制度を利用して定年前に新たな職に就いたり、起業したりする人が私の周りに徐々に増えている。人生100年時代になれば、リタイア年齢までに十分な貯えを持つか、80歳頃まで働かなければ生活できなくなるという。従来の一般的な80年ライフのステージは、教育→仕事→引退の3ステージであったが、人生が長くなれば、仕事のステージがマルチステージにならざるを得なくなり、新たな役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資、新しいライフスタイルを築くための投資、新たなスキルを身につけるための投資が必要となってくる。寿命が延びる恩恵の一つに余暇時間の使い方を見直し、消費とリクレーション(娯楽)の比重を減らし、投資とリ・クリエーション(再創造)の比重を増やすことができる。

 そのようにしてマルチステージへの力を蓄えなければならない。

 最近ではシニア起業も増えており、中小企業庁白書データでは、「40歳未満の若者の起業件数」と「50歳以上のシニア起業件数」を比較すると、2000年頃までは拮抗していたが、最近では完全に逆転して「シニア起業の方が若者起業より多い」という状態になっている。背景としては、自宅でも小資本・ローリスクで行えるスモールビジネスの選択肢が増えていることにある。

 

■有形資産と無形資産

 人生100年を生きるためには有形資産(土地や家、現金)も必要だが無形資産としての生産性資産、活力資産、変身資産が重要だという。企業における無形資産の“のれん”は長年かけて築いたブランド力や信用、顧客基盤など見えない価値を意味するが、個人の場合も人生の中で無形資産の大きさがマルチステージを生き抜くための重要な要素になる。

 生産性資産は、仕事の生産性を高め、所得とキャリアの見通しを向上させる資産(スキルと知識、経験学習、仲間、評判)であり、中でも重要なのは、信頼で結ばれた小規模な同じ志を持つ仕事仲間のネットワークである。

 活力資産は、肉体的・精神的健康と心理的幸福感という資産(健康、友人、愛、バランスのとれた生活など)であり、前向きな深く結びついた親しい友人、自己再生のコミュニティが重要である。

 変身資産は、人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力であり、生涯に多くの役割を経験し、自分のアイデンティティを良く知り、それに磨きをかけ一貫性を持たせることである。それには多様性に富んだ人的ネットワークが不可欠である。

 私は、この中で100年人生にはやはり活力資産の健康が極めて重要で、ストレス社会を生き抜くストレス耐性と日頃からの健康維持への意識が大切だと思う。働き盛りの時期には、ついつい健康維持どころでは無い忙しさがあり、これをいかに乗り越えるかが重要である。

 

■出会いと人的ネットワーク

 多くのマルチステージを経験すると、そこには必ず新たな出会いがある。マルチステージには会社間でのステージと一つの会社の中でのステージが考えられる。

 本年1月の日経新聞「私の履歴書」欄の著者であるカルロス・ゴーンさんのようなグローバルで素晴らしい会社間でのマルチステージの例もあるが、手前味噌ながら私の場合は、会社の中で多くの異動を経験し、多くの役割に就いた。その中で一番苦労したのは技術職(SE)から営業職へと立場を変えたことであった。

 少数の顧客のプロジェクトに深く入り込むSEと多くの顧客対応とマーケティングから営業戦略を練るまでの営業とでは180度異なる。この様な環境を乗り越えた時、結果として多くの社内外の人的ネットワークが出来あがっていた。一度出会った方々との繋がりを大切にする方で、仕事上の縁が無くなってからも個人的にお付合いを続けた。そのお陰で、会社を離れてからも多くのコミュニティに恵まれ、マルチステージを実践している。その一つに大学での非常勤講師をしているが、これは若い頃に担当していたお客様からのご縁であった。最近、学生の前で“皆さんの年齢では100歳まで生きる確率が50%くらいと考えられる”と話をすると驚く。しかし、着実に寿命は延びており、無形資産が如何に大切か、チャレンジ精神や好奇心を持って何事にも当たれば、自ずとそれが身に付き、マルチステージへの人生が見えてくるであろうと話をしている。

 

(参考文献)

・LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略 リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋訳

・百歳万歳公式Webサイトローリスクで成功する「シニア起業の勧め」

 http://www.100sai.co.jp/business/

 

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■執筆者プロフィール

 

 ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和

 

 ITコーディネータ

 電話番号:075-200-2701

 E-mail:t-shimomura@zeus.eonet.ne.jp

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コメント: 1
  • #1

    坂口幸雄 (月曜日, 20 2月 2017 20:57)

    なかなか含蓄のある投稿だと思います。寿命が伸びるのはいい面もあるが悪い面もある。寿命が延びると複雑で様々な弊害も出てくる。