ビジネスモデルキャンバスは、なんとも言えない不思議なツールです。有名で多くの人が知っているのですが、どうも得体が知れない。9つのマスがあって、説明どおりに適当に書き込んでいけば、書けないことはない。でも、そうやってマスを埋めても、別に斬新なビジネスモデルができるわけでもなく、どうということもない。何なんだろうこれっ、ていう感じです。
一体、どう使えばいいんでしょう。まずは出発点で重要なことがあると思います。どんな企業が使うべきツールかということです。もちろん、ビジネスモデルと無関係な会社などないということで、すべての企業と言いたいところですが、実はここに一つのポイントがあるように思います。
ビジネスモデルキャンバスの真ん中のマスは、「価値提案」です。ここが要となっています。つまり、いかなる価値を顧客に提案するのか、そこを中心に考えるのが、ビジネスモデルキャンバスの本質なわけです。平たく言えば、商品サービスから考え直していこうというわけです。
とすれば、たとえば、商品サービスは何も変えず、ひたすら店舗数を増やしていくといったタイプの拡大戦略をとっている企業にはまったく必要のないツールということになります。あるいは、いまの商品サービスに危機感はなく、営業マンでも増やして売上を伸ばそうとしているような企業も関係ないでしょう。こうした企業がビジネスモデルキャンバスに取り組もうと思っても、「価値提案」のところで、「何を書くの?」ということになってしまうでしょう。
このツールが意味を持つのは、現状への危機感から、何か新しい価値(商品サービス)を生み出さなければと模索している企業でしょう。そうであって初めて、新たな価値提案とそれがターゲットとする顧客セグメントを議論し、その顧客セグメントとの関係とチャネルを検討し、その価値を生み出す主な活動を考える・・・というように進んで行くことになるわけです。
では、そうした企業がこのツールを使えば、必ず素晴らしいビジネスモデルができるのか? というと、そんなわけでもない、と言わざるをえないでしょう。なら、どうすればいいのか?
紙幅の関係で1つだけ提案です。それは常に「ホンマか ?」と問うことです。
たとえばチャネル。チャネルは価値提案と顧客をつなぐものとして、当然、提案価値を顧客に知ってもらうこと、さらには買う気になってもらうことが重要な使命になります。さて、そのチャネルのマスに、ある企業が「自社ホームページ」と書き込んだとしたら、どうでしょう?
ここで問うわけです。ホンマか ? と。自社のホームページに掲載しただけで本当にターゲット顧客に知ってもらえるのか? 本当にそれだけで買う気になってもらえるのか? いまどき、ホームページに載せただけでターゲット顧客に広く知れ渡り、買ってもらえるようになるなど、夢のまた夢でしょう。ホンマか ? に対する答えは、ダメだ、こりゃ、になる。そこで、では、どうすれば本当に知ってもらえるのか、どうすれば買う気になってもらえるのか、抜本的に考え直しということになるわけです。
こんなふうに 9つのマス一つひとつに何度も「ホンマか ?」と問い続ける。この商品サービスは本当に顧客にとって価値を持つのか、持つとしたらどんな価値を持つのか、それはなぜそう言えるのか・・・そう問うていくとわかってくるのが、ビジネスモデルキャンバスは、それだけで完結したツールではないということです。顧客が本当に価値を感じてくれるかどうかをつきつめようとすれば、たとえば、顧客ジョブマップで顧客のインサイトを確認し、それをバリュープロポジションキャンバスで商品サービスとマッチングさせ、さらにそれをカスタマージャーニーマップで展開し、そうやってできた仮説を顧客インタビューで検証する・・・みたいな大変時間のかかるプロセスが不可欠になってきます。そうやって初めて「ホンマか ?」という問いにまともに答えられるようになるわけです。
なんとも手間がかかるツールです。しかし、考えてみれば当たり前です。本当の価値が、9つのマスを埋めただけでできるわけはないのですから。
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■執筆者プロフィール
清水 多津雄
ITコーディネータ
企業内ITCとしてITマネジメントに従事
大学・大学院での専攻は哲学。
現在、オートポイエーシス理論、とりわけニクラス・ルーマンの社会システム理論をベースに企業で役立つ情報理論&方法論を模索中。
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坂口幸雄 (月曜日, 06 3月 2017)
ビジネスモデルキャンバスは、本を読んだことも使ったことがないのでよくわからない。
ひと目で俯瞰して理解できるのかもしれないが・・しかしピンとこない、やっぱりむつかしそう。