キュレーション再考 / 藤原 正樹

 今回は、昨年末に大きな問題が発覚した”キュレーション”について書きます。キュレーション・サイトと呼ばれるWebサービスが告発され、その存在が問題視されました。

 「肩こりの原因は、霊がついているため・・」などというとんでもない内容が掲載されている、著作権を無視したデータの無断転用がなされている、など大きな問題点が指摘され、多くのキュレーション・サイトは閉鎖を余儀なくされました。

 

 なぜ、このようなことが起こったのでしょうか?インターネット運営会社は、社会倫理に反するような行動をなぜ取ったのでしょうか?

 これらを、一部の社会倫理に欠くインターネット関連企業が引き起こした問題と片付けるのは早計すぎます。インターネット上で起こっていることは、まさに私たちの社会で起こっていることに他なりません。

 

 情報爆発の時代と言われる今日において、膨大な情報の渦の中から価値ある情報を見いだし、整理して伝えてくれるキュレーション(キュレーター)の役割は貴重なものです。

 今回の問題を、サービス運営企業の側と利用者の側、双方から概観し、キュレーションの在り方を考えていきたいと思います。

 

■ キュレーションの役割

 キュレーションという用語については、私が本メルマガ(2015.08.03)で紹介しましたので、再掲します。

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 日本で「キュレーション」という用語を初めて使用したのは、ITジャーナリストである佐々木俊尚さんが書かれた「キュレーションの時代 ~「つながり」の情報革命が始まる ~」(ちくま新書、2011年2月刊)という書籍だと思います。

 もともとキュレーション(curation)という用語は、博物館や図書館の管理者や館長を意味する「Curator(キュレーター)」が、館内の展示物を整理して見やすくするところからきています(出典:コトバンク)。

 

 キュレーターが膨大な作品を取捨選択して展示を構成するように、インターネット上にあふれる情報やコンテンツを独自の価値基準で編集して紹介するサービスもキュレーションと呼ばれ、IT用語として広く使われるようになりました。

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 情報過多の時代になると、いくらいい情報やコンテンツを提供しても、必要としている相手に届かないということになります。その時に必要なのは、その情報やコンテンツの良さを付加価値として発見し、価値を再定義して発信していく人々の存在です。それがキュレーターに他なりません。

 キュレーター、あるいはキュレーションサイトの重要性はこれからも変わることは無いでしょう。ここ数年間でのキュレーションメディア乱立は、これの証左でもあります。

 

■ キュレーションサイトの問題点

 2016年は、キュレーションメディア・バブルといわれました。日経デジタルマーケティングが行ったネット利用動向調査によると、アクセスが急伸したサイトの多くは、キュレーションメディアとのことです。

 

 今回告発されたキュレーションサイトは、どこに問題があったのでしょうか?

 

 原因は、キュレーションサイト運営会社の収益モデルにあります。

・運営するサイトへの訪問者数増加⇒広告料収入の増加を実現するために、

・安価な記事の大量生産×高度なSEO(検索エンジン最適化)対策が採用されました。

 安価に記事を大量生産する道を選択したために、信憑性の低い記事や著作権を無視した無断転用が横行することになったといえます。

 

 インターネットは透明性の高いメディアであるため、デマや事実に反する記事はすぐに拡散しても、その後事実に基づいて訂正され駆逐されていきます。「悪貨は良貨を駆逐する」前に自滅の道をたどるものです。キュレーションメディアバブルの崩壊は、その例と言えます。

 

■ キュレーションのこれから

 2016年でキュレーションメディアはバブルを迎え、そしてそのバブルは、はじけました。キュレーションサイトは、今後、どのような道をたどるのでしょうか?

 

 利用者がキュレーションサイトに求めるものは、良質な情報の目利きに他なりません。「一万円選書」というサービスをご存じでしょうか?

北海道砂川市にあるいわた書店の社長が顧客の読書の趣味に合わせて1万円分の書籍を選書して送るというサービスです。顧客の読書歴を把握したうえで、岩田氏が顧客に「本人なら書店では手に取らないが、読めば満足してもらえる本」を選出し顧客のもとに発送しています。

 リアルの世界ですが、”これぞキュレーション”というべきサービスです。

 

・良質なコンテンツの提供⇒利用者・ファンの拡大⇒収益モデルの確立

という収益モデルを生み出すキュレーションサイトの登場を待ちたいと思います。

 

<参考文献>

・佐々木俊尚著「キュレーションの時代 ~~「つながり」の情報革命が始まる~」(ちくま新書、2011年2月刊)

・日経デジタルマーケティング(2017年1月号)

・一万円選書-いわた書店

 http://iwatasyoten.my.coocan.jp/form2.html

・「DeNAのメディア『WELQ』騒動の構造的な問題を解説する 」 佐々木俊尚の未来地図レポート 2016.12.5 Vol.426

 

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■執筆者プロフィール

 

藤原正樹(フジワラ マサキ)

 

公立大学法人 宮城大学 事業構想学部 教授

博士(経営情報学) 中小企業診断士

e-mail:fujiwara@myu.ac.jp