七人の侍 ~チームで働くということ~ / 上原 守

また,駄文にお付き合いをお願いします。

先日「午前十時の映画祭」で「七人の侍」を観ました。

DVDも持っていますが,やっぱり映画館で観るのは良いものです。

多くの方はご存知でしょうが,志村喬演じる「勘兵衛」の率いる個性豊かな七人の侍が,百姓たちの村を野武士から守るというお話です。

 

この映画はプロジェクトのストーリーです。

 

私は30年近くIT関係のプロジェクトに携わってきました。ITプロジェクトでは基本的にチームで仕事をします。本稿では,この映画を題材にして,チームで働くということについて考えてみたいと思います。

なお,本稿では映画のストーリーについて触れています。未見の方はそのつもりでお読みください。

 

■侍探し

百姓たちは,麦の収穫が終わると野武士がまた村を襲うことを知って,対抗するために助けてくれる侍を探しに行きます。言ってみれば,協力会社を探しているわけです。やはり弱い侍は必要ないので,勘兵衛に白羽の矢が立ちます。

協力会社や外注先を探す場合にも,能力の評価は必要です。

IT関連でも,個人の技能が結果を大きく左右します。この技能を見極めるのはとても難しい事です。企業規模や名前が通っている事で選定したり,営業マンの話を聞くだけでなく,実際にリーダーになる人と面談してみることをお勧めします。ここで,流石上手いなと思うのは,勘兵衛を選ぶときのエピソードが,人質にとられた子供を助け出す手腕であることです。この時の活躍は一人でしたが,戦略を練って機転を利かせ,大胆に行動するというリーダーに必要な要素が盛り込まれています。

 

■「七人」が必要

勘兵衛は,最低でも7人の侍が必要と判断します。工数見積りですね。

理由は,東西南北に各1名と,中央に大将として1名,伝令に1名,遊軍に1名です。非常に分かり易い見積りで,ITプロジェクトでもこんなに簡単に見積りが出来ればと思います。

余談ですが,ITと比べれば建築の見積りは正確だと言われています。昨今の東京オリンピックの競技場建設費の問題を見ていると,ITプロジェクトで予算が狂うのは,しょうがないのかなと思ったりします。

プロジェクトには,基本的に同じものは存在しないという特徴があります。

建築や土木の場合は,設計によって必要な資材や工数は見積りできますし,過去の類似の建物や工法のデータが役に立ちます。ITプロジェクトでも,過去のデータが全く役に立たないわけではありませんが,人間系の部分が多いのと,仕様によって難易度が大きく変わることもあり,ブレ幅が大きくなります。

見積り手法としては,ファンクションポイント法やモンテカルロ法(乱数を用いたシミュレーションではありません)等がありますが,最低限,複数の人や方法による見積りを取得することをお勧めします。

 

■チーム結成

勘兵衛が集めたのは以下のメンバーです。

・菊千代(三船敏郎)

 勘兵衛の強さに憧れてついてくる。浪人の振りをしているが,元は百姓。

・岡本勝四郎(木村功)

 まだ前髪の残る若者で実戦経験もない。言ってみれば新入社員。

・片山五郎兵衛(稲葉義男)

 勘兵衛の腕試しを見破り,その人柄に惹かれて参加する。経験豊富な参謀役。

・七郎次(加東大介)

 勘兵衛の元部下。勘兵衛とは以心伝心。

・林田平八(千秋実)

 よく冗談を言う愛想の良い浪人。五郎兵衛によると腕は「中の下」。

・久蔵(宮口精二)

 孤高の剣客。根は優しい。さしずめ凄腕プログラマーでしょう。

 

このように個性豊かなメンバーです。

プロジェクトチームにはコアとなるメンバーがいます。第一にコアメンバーとなるのは片山五郎兵衛でしょうが,自分が勘兵衛になったつもりで,このメンバーーから次に誰を選ぶかで,リーダーとしてのタイプが分かるかも知れません。プロジェクトの性格にもよりますが,私なら林田平八を選びます。次に菊千代ですね。

 

■訓練

勘兵衛達は村の中を見て回り,防御方法を検討して立案します。プロジェクト計画ですね。

村人も組に分けられ戦闘訓練が行われます。

一つ疑問なのは,映画の冒頭から出て失敗ばかりしている与平(左卜全)が菊千代の組に入っていることです。これが後に問題を引き起こします。

村の外れにあるために,防衛範囲から外された自分の家を守ろうとして,結束を乱した者を,勘兵衛は抜刀して容赦なく追いたてます。勘兵衛は改めて村人に戦の心構えを説きます。このシーンは迫力があります。

ユーザーさんへ当事者意識を植え付け,メンバーも含めてプロジェクトのゴールの明確化を図った訳です。これは重要ですね。

システム開発を外注したとしても,プロジェクト自体のオーナーはユーザーさんです。ユーザーさんが「自分は専門家じゃないから,後はよろしく」というプロジェクトは,絶対に成功しません。

 

■戦闘

麦の収穫が終わり,遂に戦闘が開始されます。

まず野武士の本拠地を焼き討ちにします。この時,妻を野武士に獲られた村人が暴走して,それを止めようとした平八が銃弾に倒れます。

次に野武士の通り道の地形を利用して,待ち伏せして隊列を分断して各個撃破していきます。相手の勢力を分断して,その瞬間に戦力差を大きくして各個撃破するというのは,ランチェスターの法則に従った戦略です。

勘兵衛は,久蔵に一人で潜入して,脅威になっている種子島(火縄銃)を少しでも無力化してくれるように頼みます。久蔵は首尾よく火縄銃を持ち帰ります。

それを見た菊千代は,抜け駆けをあせって持ち場を離れてしまいます。その隙に戦術を変えた野武士に襲撃を受けます。菊千代の組にいた与平は,助けに来た片山五郎兵衛と共に討ち死にすることになります。

焼き討ちの時の村人の行動と菊千代の抜け駆けは,メンバーが勝手な行動をすると,プロジェクトが危機に陥る例ですね。

 

生き残った勘兵衛は,勝ったのは百姓達だと呟きます。

 

■まとめとして

この村の防衛プロジェクトは,やはり勘兵衛という優秀なリーダーがあって成功したと思います。勘兵衛が侍チームを纏め上げ,チームと村人を共通の目標に向かって導いた結果,野武士を殲滅することができたのでしょう。プロジェクトマネジメントにおけるリーダーシップの重要性です。

 

次に計画ですが,勘兵衛達は実際に村を歩いて見て回って,防衛計画を立てます。プロジェクトの計画を立てるときに,現場をちゃんと観察して現状を把握することは重要ですね。プロジェクトマネージャーには的確な観察力と計画立案力が必要です。また,地形を利用して野武士を各個撃破したように,戦略眼も必要です。

 

また,村人と侍チームのプロジェクト目標の共有も,重要な成功要因です。目標や成果の明確化と共有を怠ると,チームが「言われたことだけやれば良いや」という状態に陥ることがあります。また,プロジェクトによっては,不利益を被るユーザー(自分の家が防衛範囲から外れる)が出る場合もあります。これを共通の目標に向けて動かしていくのもマネジメントの重要な要素です。

 

メンバーシップも重要です。メンバーは各自の「役割」を確実に遂行して,他のメンバーに協力することが求められます。菊千代のようなスタンドプレーは,プロジェクトを危機に陥れます。

逆に言えば,勘兵衛が久蔵を一人で潜入させたように,リーダーはメンバーの能力を見抜いて,適材適所にメンバーを当てはめることが必要です。

 

勝ったのは百姓達だと勘兵衛が呟いたように,成果を受け取るのはユーザーさんです。手柄を自分の物にしてしまう人にリーダーの資格はありません。

 

マネージャーとリーダーを,あえて分けて書いています。多くの場合には,兼任していると思いますが,個人的な見解ですが,マネージャーにはバランス感覚が必要で,リーダーには率先垂範が必要だと思います。

 

■終わりに

本作は3時間を越える大作で,間に休憩が入ります。

流石に名作だけあって,中弛みもなく最後まで引き込まれます。後半の雨の中の戦闘シーンは映画史上に残ると思います。

良い本もそうですが,良い映画は何通りにも見ることができます。

七人の侍も,岡本勝四郎や菊千代の成長物語として,身分を越えた友情物語として,勧善懲悪のエンターテイメントとして,また師弟物語としても観ることができます。私のようなヒネクレた観方をする人は少ないかも知れません。

未見の方は是非一度ご覧ください。できれば映画館で。

 

■余談

全部が「余談」みたいなものですが…

過日「午前十時の映画祭」で黒澤明の「生きる」を観ましたので,今回はそのネタで書き始めました。書いているうちに,この話どこかで書いたなという思いが強くなり,本コラムの過去分を検索してみると,2013年に同じことを書いていました。そろそろ記憶力が減退してきているようです。アルツハイマーで無いことを祈ります。

過去分を見返しているときに,2013年の小生のコラム「八月の鯨」に勝連城二様から過分のコメントを頂いているのに気づきました。遅ればせながら,御礼申し上げます。有難うございました。

 

文中,敬称は略させていただきました。

また,Wikipediaを参考にさせていただきました。

 

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■執筆者プロフィール

 

上原 守

ITC,CISA,CISM,ISMS審査員補,プロジェクトマネージャー

 

エンドユーザ,ユーザーのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています。