現場力を上げよう ! 現場力ってなんだっけ ?! / 中川 普巳重

 経営陣が試行錯誤して策定した経営戦略を、社内に落とし込み実践していくためには現場の力が不可欠ですね。しかし、ここ数年特にニュースや業務機会を通じて現場力が落ちてきているのではと危機感を感じています。そこで今日は現場力について考えてみたいと思います。ここで言う現場力とは何か。いろいろあると思うのですが、ここでは現場で日々起こっていることの中から何かを感じる力、何かを察知する力、としましょう。

 ビジョンを明確にしましょうと言う時には、同時に現状を把握し、ビジョンと現状の差異(ギャップ)を明確にすることを意図しています。この現状を把握するという点が意外に難しく、客観的に現状を把握することが出来なければ、差異にズレが生じ、ビジョンに向かう道筋つまりは経営戦略にもズレが生じると思うのです。みなさんは戦略を立てることにはものすごいパワーをかけられるのですが、その際の判断に重要な役割を担う情報の質、それをもたらす人、現場力の質について深く考えたことはありますか? 自社の現状を把握されているでしょうか?

 戦略策定のプロセスでは、合理性や論理性が求められます。1)事実を客観的に観察し、論理的に組み立てて分析する。ちょっと余談ですが、ロジカルシンキングのセミナーでワークをやると、とても不思議な傾向が出てきます。目的と手段のロジックツリーを書いてもらうと、まずは「調べる、ネットや雑誌から情報を収集する」活動があって、その次に実現したい目的を書かれます。例えば、富士山に登ることが目的だとすれば、登山雑誌を読むことが目的直下に書かれているのです。これでは、登山雑誌を読むと富士山に登れることになります。登った気分にはなれそうですが、他にも必要な要素がたくさんありますので・・・。

 論理的に組み立てて分析することもコツが必要ではありますが、そもそも組み立てていくための事実情報の質はどうか・・・中小企業診断士になってからずっと、私はここがいちばん大事だと思っているのです。2)推論と事実を組み合わせて、本当の問題、表面的な問題ではなく根本的な問題へと掘り下げていく。3)これが根本的な問題だと考えたものに対する対策を組み立てて、仮説検証サイクルをくるくる回す。検証ステップでも事実の客観性が問われますが、やはり、1)の
スタートにかかっていると思うのです。

 そんなことは百も承知 ! いまさら何を言っているの ? と言われそうですが、自分で自分のことはなかなかわからないわけで、自社のことも、自社の顧客のことも、自社が置かれている状況も本当に客観的に見ることができているのでしょうか ? 自分では当たり前になっていることも、外からの視点、多様な視点で見ると「すごい !」ってことたくさんありますよね。逆にそれはまずいでしょうということも。第三者の力の力を借りることも必要でしょうし、人間の行動を観察するというアプローチも有効でしょう。

 がしかし、どれもこれも結局は人なのです。だから何 ? と怒られそうですが・・・何が言いたいのかというと、「人はそれぞれ固有のレンズを持っている」ということと、「自分よりも上の意識段階は理解できない」ということです。現場で起こっていることを、人の価値観、レンズを通すことで、情報は変わってくると思いませんか ? プラスでもマイナスでもない、そのままの状態を客観的に感じることができているのでしょうか ?

 数人で階段を上っているとします。先に上段へ上っている人からは下の様子が良く見えます。しかし、下の段に居る人からは、上段の人が見ている景色と同じものは見えませんし、上段の人の足元も見えないかもしれませんね。組織階層を考えた時に、経営幹部と現場社員では、見えている世界が違います。各人の意識レベルも違います。戦略実行に向けて社内に経営戦略を説明したとして、果たしてどこまで理解できているのでしょうか。各人の立場に応じて、個々人の意識レベルに応じて説明しているのでしょうか。ありのままの情報にどのような意味づけをするのか ? どのように課題化するのか ? どのような対策を取るのか ? これはビジョンによるのだと思います。□□を目指しているので△△といった情報が必要で、そこから〇〇という分析結果が得られればこう判断でき前に進めるといった流れです。現場の個々人のレンズで、意識段階で既にいろんな意味がつけられた情報からではズレがたくさん生じるように思うのですがいかがでしょう 

1)経営戦略に基づいてまずは、現場力がどうあってほしいのか ? を明確にし、伝える必要があります。2)それが実現できるように必要に応じて現場力を上げるアプローチを個々人に向けて実施します。3)現場から上がってくる情報は経営判断のための大切な情報です。課題が何なのか ? そしてどのような対策が可能なのか ? その答えは常に現場にあります。この情報の質が良ければ、つまりは、現場力が高ければ仮説検証サイクルは大きくズレることなくクルクル回っていくのです。

 さて、感じる力、察する力を上げるにはどうすればいいのでしょうか ? 色んなアプローチがありますが、「ねばならないを手放す」、「思い込みの枠を取りはずす」ことがとても有効であり大切なことだと思います。人は、生まれ育ってくる中で、これはこういうものだと覚えていきます。家族の中で、義務教育の中で、そして企業などの組織の中でです。私たちは、一般的にはとか、常識的にはとか、暗黙などたくさんの枠の中で暮らしています。誰が決めたのでしょうか ? もちろん先人の知恵の元、代々伝えられてきた便利な理にかなった枠組みも多いでしょう。しかし、この業界はこういうものだ、この商売はこうやってやるものだ、顧客はこう望んでいるに違いない、景気が悪いので高いものが売れないのは当たり前だ、そして、何かアイデアが浮かんだとしてもできない理由があれこれ浮かんでしまう・・・。今一度、これまでの枠を取り払い、何もない状態で理想の状態を組み立ててみませんか ? そして客観的事実からギャップをどう埋めていくかを考えてみませんか ? どうすればできるのか ? 現場力を上げていきましょう !

 ここでできない理由が浮かんでしまう方へ、「できないと意味づけたのはあなたですよ。」

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■執筆者プロフィール

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
知恵のトリセツ研究所 所長
(公財)京都高度技術研究所 地域産業活性化本部 コーディネータ
福岡大学 産学官連携センター 産学官連携コーディネーター 客員教授
中小企業診断士、ITコーディネータ、(財)生涯学習開発団体認定コーチ
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