<まえがき>
先日2日間ほど、東工大の社会人アカデミーに出稽古に行ってきました。このプログラムはIT Capability Maturity Framework(IT-CMFTM):「IT活用能力の成熟度フレームワークをワークショップ形式で学ぶ」というものです。このプログラムは、e-Learning教材を使った事前学習と2日間のワークショップ、その3週間後に実施される認定試験で構成されていて、無事IT-CMF(Tier2)の認定を受け
ました。
今後数回にわたって、この「IT-CMF」をご紹介したいと思います。初回は、このフレームワークの概要と認定試験のお受験編です。
1. IT-CMFって何?
(1) 背景
情報技術の急速な進化・進展が、新たな変革やイノベーションを刺激・促進していることで、すべての事業体にとっての生存課題として、ITを活用して事業体全体の価値に貢献することが求められてきています。
この10年を振り返ってみて、技術進化のスピードに比べて、ITを活用してビジネスに価値貢献するためのマネジメントの発達・成熟スピードは追いつけていないと言わざるを得ません。
このマネジメントギャップの解消に役立つ取り組みとして、IT-CMF(IT活用能力の成熟度フレームワーク)をご紹介していきたいと思います。
(2) IT-CMFとは
事業体におけるITの利活用度合いの成熟度を測るフレームワークです。利活用の度合いは大きく5段階の成熟度として示されます。また、それぞれの成熟度ごとに適した改善のプロセスも提示しているのが特徴です。
IT-CMFでは、4つのドメインと36の能力分野で各プロセスを定義しています。
ユーザー企業はIT-CMFのアセスメント設問に答えていくと、それぞれの能力分野において、自社のITおよびIT部門がどんな状態にあるかという成熟度が認識できます。能力分野としては、例えば「ソーシング」・「リスクマネジメント」・「予算管理」・「人材管理」・「サプライヤーのマネジメント」や、「TCO(総所有コスト)」などがあります。
IT-CMFの狙いは、ITとビジネスの溝を埋めることです。IT-CMFで用意した成熟度の測り方はもちろん、IT-CMFで示している改善のプロセスは、事業体のIT部門の活動が、ビジネス上の価値につながるように設計してあります。
CIOやIT部門のマネジャーは常に、ビジネス価値を高めるためにITをマネジメントすべきですが、それぞれの企業の状態、つまり成熟度の度合いにおいて、手を付けるべきことは異なります。IT-CMFは「どんな状況の時には、どんな点に着目すべきか」を示す羅針盤となるように構成されています。
(談:IT-CMFの開発元IVIのTechnology LeaderであるMartin Delaney氏)
2. 出会い
以前、ITを活用して事業体のデジタル化を推進するために、広義のビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)を適用する機会があったときに、この広義のBPM分野のCBOK(Common Body Of Knowledge)という知識体系がとても役に立ちました。
その時に、同様に既存の個別体系を包含するような知識体系がないものかと探したところ、このIT-CMFのBOKという知識体系本にたどり着きました。
普段ITの専門家として使っているフレームワークには、例えば、ITガバナンスの国際標準フレームワーク「COBIT(Control Objectives for Information and related Technology)」、エンタープライズアーキテクチャのフレームワーク「TOGAF(The Open Group Architecture Framework)」、プロセス改善のガイドライン「CMMI(Capability Maturity Model Integration)」、システム運用のベストプラクティス「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」などがあります。IT-CMFは大きな傘のように、これらを包含していたのです。
自らが、ITの専門家として追い続けているテーマは、「お客様の、ITを使いこなす能力を、高めるお手伝い」ですから、俊敏性やイノベーションを以ってビジネスへの価値貢献度を高めていくフレームワークとして、IT-CMFがとても魅力的に映りました。
ところが、この知識体系には、COBIT等では比較的自由に入手できたアセスメント・ツールや、改善活動に役立つ周辺ツールが、トレーニングマテリアルや付与されるライセンスに付帯する、有償サービスの枠組みの中にありました。調べてみると、日本でも東工大の社会人向けのプログラムで、IT-CMFのトレーニングが受けられることがわかり、クラスは半年に一度という頻度だったため、半年以上待つことになり、ようやく今年の秋に受講できました。待っている間、せっかくなのでIT-CMFの知識体系本を使った簡易なアセスメントと改善活動用のワークシートを作り、活用機会を模索することになりました。
3. 出稽古とお受験
(1) 出稽古
東工大の社会人向けプログラム、トレーナはこのフレームワーク開発元の非営利の研究・教育機関IVI(Innovation Value Institute)から教育事業の責任者Michael Hanleyがやってきてのワークショップ開催となることから、教材を含めてすべて英語で実施されます。東工大の方が日本語でフォローしてくれます。
このプログラム、事前学習の宿題があり、e-Learningの教材がたっぷりありましたので、英語に自信のない方でも、この事前学習をしっかりしておくことで、ワークショップでの理解を助けてくれると思います。
また、認定試験も英語となりますが、事前学習から事後学習までを支援するe-Learning教材を活用すれば、英語力がそれほど高くなくても、試験合格に必要な知識習得は大丈夫かなというのが、受講・受験した感想です。
(2) 事前学習のe-Learning教材はこんな題目
・Lesson 1: Introducing IVI and IT-CMF
・Lesson 2: Structure of the IT Capability Maturity Framework
・Lesson 3: Introduction to IT-CMF Macro Capabilities
・Lesson 4: Introducing the IT-CMF Assessment Process
・Lesson 5: Introduction to IT-CMF Critical Capability Clusters
・Lesson 6: An In-Depth Look at IT-CMF Critical Capabilities
・Lesson 7: A detailed look at the IT-CMF Assessment Process
・Lesson 8: IT-CMF Assessment Report Format
(3) 2日間のワークショップの題目抜粋
・Recap: IVI & IT-CMF(事前学習の復習)
・Recap: Overview of the IT-CMF Assessment Process(事前学習の復習)
・IT-CMF Assessment Report Format(事前学習の復習)
・Introducing IVI’s Capability Improvement Program (CIP)
・Understanding ITG Module as a Case Study
・Exercise: Company ‘A’ ITG Assessment Report Analysis
・Capability Improvement using IT-CMF
・CIP 1: Discover Phase
・CIP 2: Design Phase
・CIP 3: Execute Phase
・CIP 4: Embed Phase
・CIP Facilitated Exercise
CIP(Capability Improvement Program)という、IT活用能力の改善活動を行うプログラム体系は、デザイン思考に根ざしており、改めて様々な日常の改善活動にこのデザイン思考が使えると思いました。このCIPの体系化は現在進行形とのことでしたので、BOK(知識体系)の形態で広く提供されるといいですね。
(4) 受験
ワークショップの3週間後に、同じく東工大の教室にてwebベースで試験が実施されました。60分間で40問に答える、主に習得している知識を問う形式でした。
ちなみに、東工大の大学院は今や英語ベースらしく、教える側・学ぶ側双方が変革中とのことでした。頑張ってほしいです。日本の学生さんたちには、是非若いうちに世界へ行ってもらいたいものです。
4. IT-CMFの構成
4つのドメイン、35(+1)の活用能力分野、308の細分化された個別能力分野、800のアセスメントに使われる質問の階層構造をしています。それぞれの内容は次回以降に説明することにして、最上位の階層について簡単に触れると、ITマネジメントのためのキーとなる戦略領域として、以下4つのマクロ・ケイパビリティが定義されています。
(1) ビジネス同様にITをマネジメントする(Managing IT like a business)
(2) IT予算をマネジメントする(Managing the IT budget)
(3) IT活用能力をマネジメントする(Managing the IT capability)
(4) ビジネス価値のためにITをマネジメントする(Managing IT for business value)
<あとがき>
来年の3月にも、東工大の社会人アカデミーにて、次のトレーニング機会があります。引き続き講義はすべて英語とのことでしたが、今からカレンダーのその日は押さえてあります。
今準備していることは、IT-CIP(Capability Improvement Program)という、実際に向き合っているお客様組織のIT活用能力を高めるプログラムを、自ら推進できるようになること。
「五十の手習い」? 出稽古のひとつだけど、しばらく続きそうだ。
<参考文献>
・"IT Capability Maturity Framework (IT-CMFTM) The Body of Knowledge Guide"Innovation Value Institute(IVI)
http://www.vanharen.net/blog/it-management/it-cmf/
・出稽古プログラム@東工大の案内ページ
http://www.academy.titech.ac.jp/course/gindle/detail_212.html
・フレームワークの開発元であるIVIの概説ページ
IT Capability Maturity Framework (IT-CMF)というフレームワークについて
https://ivi.ie/it-capability-maturity-framework/
IT Capability Improvement Program (IT-CIP)という改善プログラムについて
https://ivi.ie/capability-improvement-program/
<追記>
IT-CMFは、当NPOの副理事長である宗平氏が経営情報学会の理事に就いていた時に知り、本拠地であるダブリンに赴いて会議を持ち、日本への導入を加速させたという関係があります。
http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/rwm20140503.html
http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1249812_6728.html
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■執筆者プロフィール
Yukihiro Maruyama(丸山幸宏)
ボスはインド人。夢は外から地球を眺めること。
得意分野は、グローバルなソーシングとガバナンス、エンタープライズでのBPMとEAおよびポートフォリオ管理。
ITコーディネータ、IT-CMF Tier2
https://ivi.ie/it-capability-maturity-framework/
Principal Consultant
yukihiro.maruyama@ivtlinfoview.com
Infoview Technologies Inc Japan
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Brandi Kellog (日曜日, 22 1月 2017 19:06)
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